教員の多忙 授業準備できず

小学校の時間割と所定労働時間の例(筆者が作図)

■教員は何に困っているのか

 9割を超える教員が「悩んでいる」にもかかわらず、教員の働き方改革のなかで、いまだほとんど触れられていない、しかしながら学校教育の根幹を揺るがしかねない重大な事態が起きている――「授業準備の時間が足りない」である。

 教員のもっとも重要な仕事は、「授業」である。戦後最大規模の改訂ともいわれる、2017年3月末の学習指導要領の改訂は、とりわけ小学校においては英語の教科化やプログラミング教育の必修化にくわえ年間の総授業時数増という大きな変革をもたらす。

 生徒の学力保障のために、教員はいっそうの授業準備時間を必要とすることになる。「授業準備の時間が足りない」ことは、日本の教育の未来を見据える上で、大事な検討課題である。

■教員の悩みワースト1 「授業準備の時間が足りない」

小中高いずれも「授業の準備をする時間が足りない」が最多(HATOプロジェクト)
小中高いずれも「授業の準備をする時間が足りない」が最多(HATOプロジェクト)

 全国の公立校を対象に2015年に実施された「教員の仕事と意識に関する調査」(HATOプロジェクト)[注1]によると、仕事上の悩みや不満10項目のうち、もっともその数値が高かったのは、小中高いずれにおいても「授業の準備をする時間が足りない」であった。なかでも小学校教員は94.5%と、ほぼ全員が授業準備時間の不足を感じている。

小中で「教材準備の時間が十分にとれない」が最多(ベネッセ)
小中で「教材準備の時間が十分にとれない」が最多(ベネッセ)

 これと同様の結果は、全国の公私立校を対象に2016年に実施された「第6回学習指導基本調査」(ベネッセ)[注2]においても確認できる。仕事上の悩み12項目のうち、小中においてもっともその数値が高かったのは、「教材準備の時間が十分にとれない」であった。ここでも小学校教員の数値は高く90.5%に達しており、ほとんどの教員が教材準備の時間の不足を訴えている。

 これら2つの全国調査からは、職務にかかわるさまざまな悩みのなかでも、1)授業準備にかけるべき時間の不足感は、小中高を問わず多くの教員に共通するものであること、2)とくに小学校においてはほとんどの教員が不足感を抱いていること、がわかる。

■現職教員も訴える

「現職審議会(現職審)」による提言文書。9月29日発表。
「現職審議会(現職審)」による提言文書。9月29日発表。

 なるほど上記の結果は、現職教員によるネット上での訴えにも重なってくる。

 9月29日のこと、現役の教員がネット上で「現職審議会(現職審)」なる活動を立ち上げた。文部科学省の「中央教育審議会(中教審)」の審議内容に物申すべく、現役教員がみずから声をあげ始めたのである。

 その提言文書が訴える「現場教員が抱える5つの問題」の筆頭に掲げられていた事項もまた、「授業を準備する時間がありません」であった。同審議会は、「私たちは授業を中心とする本務に責任と誇りを持ちたいと考えています。次期指導要領が求める『深い学び』を実現する為に、私たち教員も絶えず学び続けたい」と訴える。

■空き時間がない!

小学校の時間割と所定労働時間の例(筆者が作図)[注3]
小学校の時間割と所定労働時間の例(筆者が作図)[注3]

 授業準備に要する時間の確保は、いかに困難であるのか。

 その現実を具体的に理解するために、現行の学習指導要領における小学校6年生の授業時間割例と、学級担任の所定労働時間内勤務における時刻例を見てみよう[注3]。

 小学校では基本的に学級担任がそのクラスのすべての教科・活動を受け持つ。ただし、たとえば理科や音楽などいくつかの授業では教科担任が授業を担当することもあるため、実際にはいくつかの授業は空き時間になりうる[注4]。

 そうは言っても、すでに時間割例における空き時間は、月曜日は1時間30分、火曜日から金曜日は45分しかない。仮に複数の授業で教科担任が代役を果たしてくれるとしても、それでも空き時間はせいぜい一日あたり1時間30分が限度であると考えられる。

 小学校の先生はその1時間30分の間に、全教科・活動の準備を終えなければならないのである。

■「飽和状態」の仕事量に授業時数の追加

イメージ(提供:写真AC)
イメージ(提供:写真AC)

 しかも上記の空き時間帯に先生たちは、授業準備以外に、各種会議への出席や、個別の子どもや保護者への対応など、さまざまな仕事をこなさなければならない。もはや、その一日は圧倒的な仕事量で「飽和状態」にあると言ってよい。だから毎日、所定労働時間を超えて夜遅くまで勤務することになるのだ。

 この「飽和状態」のところに、新しい学習指導要領(小学校では2020年度より全面実施)では、小学校の場合は英語の教科化の影響により年間で35単位時間(小学校では基本的に1単位時間は「45分」)の授業時数が追加される。

 朝学習の時間を正規の授業時数としてカウントするなど、弾力的な方法を活用するとしても、それでも現行より負担が軽減される望みは小さい。ただでさえ空き時間が少ないところに、授業が追加されていく。目指すべきはむしろその逆、すなわち教員一人あたりの授業時数を減らすという方向ではなかったか。

 学校教育は授業を中心にして成り立つ。だがそのための準備時間は、不十分なままである。これでは学校教育は、破綻しかねない。授業準備の時間を確保するには、どのような施策が必要なのか。早急に議論していくべきである。

  • 注1:北海道教育大学、愛知教育大学、東京学芸大学、大阪教育大学の4大学による共同調査研究の成果である。報告書によると、調査時期は、2015年8月中旬~2015年9月中旬で、全国の小学校・中学校・高校それぞれ540校を無作為抽出され、学校経由で1校につき教員6名分の調査票を配布・回収された。有効回収数(有効回収率)は、小学校が1,482名(45.7%)、中学校が1,753名(54.1%)、高校が2,138名(66.0%)である。仕事の悩みや不満については、次の10項目が問われた――授業の準備をする時間が足りない/生活指導の必要な子どもが増えた/仕事に追われて生活のゆとりがない/校務分掌の仕事が負担である/保護者や地域住民への対応が負担である/仕事に自信が持てない/部活動・クラブ活動の指導が負担である/子どもが何を考えているのかわからない/管理職からの指示や干渉が多い/同僚との関係に疲れる。図中の割合は、「とても感じる」+「まあ感じる」の合計。
  • 注2:ベネッセによる調査研究の成果である。報告書によると、調査時期は2016年8月~9月で、全国の公立の小学校・中学校と公立・私立の高等学校(全学科)の校長および教員に対して郵送により質問紙が配布・回収された。有効回収数(有効回収率)は、小学校では校長が637名(31.9%)、教員が3,289名(27.4%)、中学校では校長が725名(36.3%)、教員が3,689名(30.7%)、高校(公立)では校長が1,110名(55.5%)、教員が6,436名(53.6%)、高校(私立)では校長が311名(46.1%)、教員が1,887名(46.6%)である。仕事の悩みについて、次の12項目が問われた――特別な支援が必要な児童・生徒への対応が難しい/児童・生徒間の学力差が大きくて授業がしにくい/児童・生徒の学習意欲が低い/年間の授業時数が足りない/子どもたち・生徒が何を考えているのかわからない/義務教育段階の学習内容が定着していない生徒が多い/教材準備の時間が十分にとれない/作成しなければならない事務書類が多い/教育行政が学校現場の状況を把握していない/校務分掌の仕事が負担である/同僚や先輩に気軽に相談しづらい/部活動の指導が負担である。図中の割合は、「とてもそう思う」+「まあそう思う」の合計。
  • 注3:小学6年生の授業時間割例は、『朝日新聞』の東京版朝刊の記事「小学校、時間割パンパン」(2016年2月23日)に掲載されている図を参照した。また、学級担任の所定労働時間内勤務における時刻例は、東京都教育委員会の広報資料「東京の先生の1日・1週間」に掲載されている時刻を参照した。なお、時間割例は現行の学習指導要領に従うものである。新学習指導要領の全面実施は、小学校が2020年度から、中学校が2021年度からである。
  • 注4:先述の「教員の仕事と意識に関する調査」(HATOプロジェクト)の調査結果をもとにすると、小学校では全国平均で一週間に一人あたり25単位時間の授業を担当していることがわかる。時間割例では29単位時間が埋まっているため、実際のところ、いくつかの授業は空き時間になっていると推察される。