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幼稚園で「6段」のピラミッド 低年齢化する巨大組体操

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(写真:アフロ)

■巨大化と低年齢化

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先月27日に起きた大阪府八尾市立の中学校における10段の立体ピラミッド崩壊事故(重軽傷6名)が、世間の大きな関心を集めている(第一報は、ヤフーニュース個人「10段の組体操 崩壊の瞬間と衝撃」(内田良))。

昨年を含め過去にも複数の骨折事例があり、かつ巨大組体操に対する批判が強くなってきているなかでの、10段へのチャレンジであった。その点で、学校側の重大な責任が問われるべき事案である。

2000年代後半から、全国各地の学校で、組体操の「巨大化」が進められてきた。10段ピラミッドは、その代表例である。だがここで、もう一つ留意しなければならないことがある。それは、組み手の「低年齢化」である。

■ついに幼稚園で「6段」のピラミッド

9月下旬に、ある幼稚園で披露された「6段」の立体ピラミッド
9月下旬に、ある幼稚園で披露された「6段」の立体ピラミッド

じつは小学校ではすでに、複数の学校で9段のピラミッドが成功している。小学6年生の場合、土台の最大負荷は約120kg(3.08人分)、高さも5m台後半に達する。大阪市の調査では、2014年度に小学校のピラミッドでもっとも多かった段数は、「7段」である。

そして、組み手の低年齢化は幼稚園や保育所にも及んでいる。

その段数は、3段や4段にとどまらない。

私が調べた限り、これまで幼稚園では、最高で5段の立体ピラミッドが確認されていた。だがこの秋、ついに「6段」の立体ピラミッドを成功させた幼稚園があらわれた。

6段の立体ピラミッドは基本的には、その完成に37人を要する。そして、土台の最大負荷は1.72人分に達する。

幼稚園児は体重が軽いとはいえ、園児本人にしてみれば、自分よりもはるかに重い人間が、自分の背中に乗っているということに変わりはない。過酷な状況である。

■「感動」から離れて「リスク」に目を向けよう

イメージ【出典:写真素材 足成】
イメージ【出典:写真素材 足成】

中学校における「10段」のピラミッドは、巨大組体操の象徴にすぎない。中学校よりは段数が少ないとしても、小学校さらにはその前段階にあたる幼稚園や保育所にも、巨大化のブームが押し寄せている。

「10段」といった数字に比べれば、「6段」などは小さいものである。だが、幼稚園で「6段」を経験したその先に、いったい何段が待っているのだろうか。幼い年齢での「6段」は、将来の「10段」あるいはそれ以上の段数への布石であると言える。

6段を完成させた幼稚園では、その様子を「保護者席からは歓喜の声があがり、たいへん感動的なものでした」【注】とブログに綴っている。園からも保護者からも、危機感は伝わってこない。

子どもは、先生や保護者の駒ではない。巨大組体操が、子どもたちにどのような負荷や危険を与えているのか。「感動」から離れて、「リスク」に目を向けることが大切である。

【注】

特定化を避けるために、写真や文言に修正をくわえた。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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