戸別訪問の解禁はネット選挙を促進するのか?
昨日、とあるBSの報道番組のネット選挙を振り返るという企画に出演した。そのなかで「ネット選挙よりも戸別訪問が重要である」という見解があった。だが、私見ではおそらく現在の政治習慣のなかでは、ネット選挙も、戸別訪問解禁も、有権者と候補者、政党の双方向の議論を促進しない。政党と候補者の力関係において、前者が優位だからだ。
最近の、党の方針に反して無所属候補を支援した菅直人氏の進退問題をめぐる民主党の議論を見ていてもよく分かる。政党の意向と異なった各政治家の発言や態度を容認しないのであれば、各政治家にとっては有権者と双方向の議論や、それによって態度や意見を変容する強いインセンティブを持ち得ない。党議拘束などはその象徴ともいえるだろう。懲罰対象になるのであれば、政治家や候補者が意見を形式的に「聞く」「頷く」ことはあったとしても、意見の変容や見解を大きく変えるということは起こりにくいと考えられる。したがって、現状ではインターネットやソーシャルメディアの顕著な技術特性のひとつである双方向性は活用される事態は想定しにくい。このような状況はオンライン/オフラインを問わないため、戸別訪問が解禁されたとしても、現状では政党や政治家、候補者が、有権者に対して発信する。あるいは、形式的に「聞く」「頷く」に終始することが予想される。
したがって、ネット選挙解禁は現状「政治の透明化」に一定程度寄与するツールであり、政党から見ると、新たな情報発信のチャネルにとどまるしかないことが運命づけられている。もしネット選挙とあわせて考えなおさなければならないとすると、戸別訪問もそうだが、それよりも新聞や雑誌、テレビ、ラジオといった他のメディアの利活用や文書図画の掲示、頒布についてだろう。