Yahoo!ニュース

カナダ戦2ゴールの田中碧がドイツで感じることは「サッカーは難しい」浮上の鍵は“自信”?

了戒美子ライター・ジャーナリスト
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 

 親善試合カナダ戦前半2分、電光石火のゴールで試合を方向付けたのは田中碧だった。立ち上がりから日本が攻め込み、浅野拓磨のシュートを相手ディフェンダーがクリア。右サイドバックの毎熊晟矢がこぼれ球を拾いクロスをあげると相手にクリアされる。そのクリバボールを田中が丁寧に処理し右足を振り抜き、ゴール左に突き刺した。田中はフラッシュインタビューで「うまくこぼれ玉を拾えて、時間ができて。打ってよかった」と冷静に振り返った。その後22分、アルフォンソ・デイビスのスピードに耐えきれずGK大迫敬介が与えたPKを自ら止め、39分には浅野拓磨のクロスをクリアしようとした相手がオウンゴールし2−0に。3点目は42分で、浅野のプレスからのカウンターで最後は中村敬斗が豪快に右足でネットを揺らした。駄目押しの4点目は49分に再び田中。伊東純也の浮かせた技ありパスを冷静に決めた。「純也くんが時間とスペースを作ってくれた。走り込んでよかった」と伊東に感謝した。

 田中は日本代表では、9月のトルコ戦で1ゴール、続くトルコ戦ではキャプテンマークをつけ90分間プレー、そしてこのカナダ戦と疑いようのない活躍が続いている。だが、そんな田中も所属のドイツ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフでは出場機会が安定しない苦しい時間を過ごしている。9月24日ハノーファー戦後、難しい時期だと思うが?との質問に「しょうがないです」と話し「難しいです、サッカーは難しい」と何度も繰り返した。言葉ほど悲壮感をあふれさせているかと言えばそうでもなく、やや自虐、自嘲気味なだけにやり切れなさが伝わった。

 ここまでドイツ2部リーグ戦は第9節まで消化しているが、開幕からは3戦連続フル出場。練習中の負傷で1試合ベンチ外を挟み、3試合途中出場、その後1試合先発したものの、また途中出場に戻ったという流れだ。まとめると3試合フル出場、1試合ほぼフル出場、途中出場1試合、出場なし1試合だ。

 また、「難しいです」と話すのは先発した試合でチームが勝利できていないから。ドイツでも“勝ったチームは変えない”という慣習は存在しており、それはつまり負ければ何かしらメンバーを変えたくなるということ。田中が先発した4試合の戦績は1勝1分2敗のため先発定着とまでいかないのだ。

 どうプレーすれば良いか?を考えた時期もあるそうだが「今はそうではないんです。でも何を言っても言い訳になりますもん(なのであまり言わない)。でも、ちょっと点を取りたいなと早めに。いつも結構遅いので、早目に点を取りたいなと思ってサッカーをやっています」と結果を出そうとしており、「スタメンで出た時に今やっていることを出せれば」とあくまでブレないことを心がけている。

 では、なぜここまで出場機会がないのか。ドイツの主要メディアであるビルト紙によれば、デュッセルドルフのティウネ監督は「彼にとっては簡単な時期ではない。彼だって若手の選手だ。彼は私に『2部を理解するには自分はまだ何かが足りていない』とはっきり言ってきたよ」と話している。日本代表のような、高度に練られた関係性を強みとするサッカーとは違い、ある意味個人勝負の世界で田中はもがき続けており、それを指揮官にも直接伝えているということだ。また、ティウネ監督は「代表に行くと自信を持ちやすいから、今回もそうなるといいなと思っている」とも話している。当たり前ではあるが、必要な戦力としての期待をしていることが感じられる。

 今年の夏、移籍が確実視されていたが実現しなかった田中。チームも本人もそれを隠すことはなく、次のチャンスを狙っているところだ。来年1月はアジア杯もあり、冬の移籍市場との関わりは通常とは違うことになるのかもしれない。でも田中には日本代表も結果を出すことで定着してきた実績もある。デュッセルドルフでもまずは結果を求めて戦うしかなそうだ。

ライター・ジャーナリスト

1975年埼玉県生まれ。岡山、神奈川、ブリュッセル、大阪などで育ち、98年日本女子大学文学部史学科卒業。01年サッカー取材を、03年U-20W杯UAE大会取材をきっかけに執筆をスタートさせた。サッカーW杯4大会、夏季五輪3大会を現地取材。11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフ在住。近著に「内田篤人 悲痛と希望の3144日」がある。

了戒美子の最近の記事