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CLフル出場、フランクフルト長谷部誠の代表復帰を“敢えて”待望する

了戒美子ライター・ジャーナリスト
CL第1節、スポルティングに敗れるも率先してゴール裏に挨拶する長谷部(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 38歳の長谷部誠が、13日に行われた欧州CLマルセイユ戦でフル出場したことが現地ドイツでも話題になっている。フランクフルトでは、勝てなかったりけが人が続出して苦しくなったときに、チームを救うのはここ数年いつも長谷部なのだ。今回もいきなりCLで先発し、1−0での勝利に貢献している。

 一方で、17日から合宿を行う日本代表に目をやると負傷者が続出する苦しい状況で、6月のキリン杯ではホームでチュニジアに完敗とW杯に向けての完成度に一抹の不安を感じさせる。長谷部がフランクフルトで先発復帰する時と状況がとても似ているのだ。

 もちろん、有望な若手も控えている、長谷部も自らの意思で代表を引退してすでに4年が経過していることは大前提。それでも長谷部代表復帰待望論を唱えてみよう。

 長谷部が最後に先発したのは4月2日、昨季の第28節グロイター・フュルト戦で、今回のマルセイユ戦での先発は実に5ヶ月ぶりのことだった。その前も2月5日のシュツットガルト戦で相手選手と交錯し胸部を痛めてから4試合出場していない。この2月以降、長谷部が離脱している間に出場した選手たちが結果を出し4連勝している。長谷部も「胸を怪我してから他の選手たちがすごく良いプレーしている。自分が出られないことを受け入れてる部分もあるし、試合に出た時に結果を出す心構えはある」と割って入る難しさと、決意を話している。

 昨季のブンデスリーガが終わり、5月18日のEL決勝レンジャース戦ではトゥタの負傷に伴い58分からピッチに立ち、延長戦を含め60分以上プレーしている。試合はPK戦にもつれ込んだものの紛れもなく優勝に貢献、“出た時に結果”を出した。「ELは決勝トーナメントはほとんど出ていないのでチームにとってもらったタイトルという感じ」と話したのは物足りなさか、それとも謙遜だったか。

 とはいえ、どの監督も長期プランのもとチームの若返りを図りたいのは自然なこと。ヒュッター前監督時代から長谷部をベンチに置いてはみたが、チームがピンチに陥り先発に戻す、ということは繰り返されてきた。ビルト紙も「過去4回は干されてきた」とカウントしている。今回を4回目とカウントすると、3回目はグラスナー現監督が就任した昨季のあたま。開幕戦でドルトムント相手の5失点も理由だろうが、その後1試合途中出場ののち4戦出場がなかった。さかのぼって、ヒュッター前監督が就任した直後の2018/19シーズンも開幕から3試合出場がなく、2020年1月も4戦連続で先発を外れている。ビルト紙のいう4回は、これらのことだろう。その度に長谷部待望論と監督批判がドイツメディアからは湧き上がったのは痛快だった。グラスナー監督も今回は長谷部について「毎日トレーニングで見ているので、起用に不安はなかった。選手としても、人としても、マコトはいつも頼りになる」と手放しで称えている。

 ではあらためて、日本代表になぜ推すか。何と言ってもCLでフル出場、高いパフォーマンスを見せたこと。今季日本人のディフェンダー選手の中でもっとも高いレベルの試合に出場している。ビルト紙では「膨大なランニング、強力なタックル、電光石火の反撃、そしていつまでも若い今季のブンデスリーガ最年長選手」と大絶賛だ。特に戦況把握能力は“まだまだやれる”レベルではない。所属クラブでの活躍度を代表選考の基準の一つとするならば、CLに出ている選手が呼ばれないなんて、あまり理由が考えつかない。次に、ベンチにおいても腐らない選手であるということ。代表に呼ばれてベンチで腐っている選手もいないだろうが、仮に代表でベンチを温める役回りであっても、出場したときに結果を出すことに集中してくれることはフランクフルトで証明済み。ベンチでサブ組のまとめ役、というのとは少し違うかもしれないがそのキャプテンシーもクラブ、代表で周知の事実だ。

 もちろん長谷部側にもメリットはある。現役ながらドイツでの指導者ライセンスBを取得している長谷部にとって、仮にベンチに座り続けることになったとしても、ドイツ、スペインを始め世界の一流の戦いは勉強になるはずだ。長谷部自身も、”指導者目線”を意識するようでグラスナー監督の采配を見て「自分ならこうする」「自分とは違うアプローチだな」などと思うことがあるという。日本代表のベンチで、学ぶことは少なくないはずだ。もちろん選ばれたら出場するに越したことはないのだが。

 カタールW杯は登録選手が26人となる。交代は1試合5人までで、フィールドの少なくとも8人は試合に出ないわけだ。長谷部に4回目のW杯を経験させることは、今大会だけでなくもしかしたら遠い将来日本の為になるかもしれない。だから、敢えて復帰を待望を唱えてみる。

ライター・ジャーナリスト

1975年埼玉県生まれ。岡山、神奈川、ブリュッセル、大阪などで育ち、98年日本女子大学文学部史学科卒業。01年サッカー取材を、03年U-20W杯UAE大会取材をきっかけに執筆をスタートさせた。サッカーW杯4大会、夏季五輪3大会を現地取材。11年3月11日からドイツ・デュッセルドルフ在住。近著に「内田篤人 悲痛と希望の3144日」がある。

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