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粛清されずに済んだ金徳訓総理! 「人災」で異例にも誰一人首が飛ばなかった!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
解任を免れた金徳訓総理(労働新聞から)

 日本の国会にあたる北朝鮮の最高人民会議第14期第9回会議が9月26日に開かれ、昨日2日間の日程を終え、閉幕した。

 この会議で最も注目されていたのが、党政治局常務委員の金徳訓(キム・ドックン)総理の去就であった。

 金総理はこの夏、水害対策を怠り、穀倉地帯である平安南道の安石干拓地で水田の冠水を招き、食糧生産に大きな支障を来したとして責任を追及されていたことから解任は必至とみられていた。

(参考資料:金正恩総書記の逆鱗に触れた党No.2の金徳訓総理の運命は? 台風被害で粛清の嵐が吹くか!)

 当時の北朝鮮の報道によると、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は「総理が関連の報告書で安石干拓地の水田面積が今年の国家穀物生産計画に含まれない当該地域の軍部隊の土地という点を強調しながら、対策らしくない対策を報告して復旧活動を軍隊にほとんど任せるようにし、その上、ふしだらに手配した活動も調べてみれば、被害状況に対する彼の弛緩性と非積極性がよく分かるが、国の経済司令部を導く総理らしくなく、人民の生活に責任を持った主人らしくない思考と行動に遺憾を禁じえない。内閣総理の無責任な活動態度と思想観点を党的に深く検討する必要がある」と金総理を名指しで批判していた。党序列2位の総理を公然と批判するのは極めて異例のことであった。

 金総理だけでなく、金総書記から「現場に出向いた副総理という者は燃油供給員の役しかしてなかった」と扱き下ろされた農業担当の朱哲圭(チュ・チョルギュ)副総理、それに「内閣が指令を下すことしか知らない指令部署、通報部署のようになったのは国家経済事業と経済機関に対する党政策的および党的指導を受け持った党中央委員会の責任も大きい」と指弾された李鉄万(リ・チョルマン)党農業部長らも一蓮托生で槍玉にあげられていた。

 金総書記が党中央委員会組織指導部と規律調査部、国家検閲委員会と中央検察所に対して「責任ある機関と当事者を探し出して党的、法的に厳しく問責し、厳格に処罰せよ」と命じていたことから全員粛清されるのではとみられていたが、今回の人事では誰一人解任されることもなく、処分されることもなく、現職に留まっていた。人事異動があったのは機械工業相、国家建設監督相、国土環境保護相、収買糧政相、それに中央銀行総裁の5つのポストだけだった。

 「失敗は許すが、無責任と職務怠慢だけは絶対に容認できない」というのが金総書記の処罰基準である。

(参考資料:台風の被害に怒り心頭の金総書記!3年前と同じく江原道の幹部らを叱責! 今度は誰の首が飛ぶ!?)

 金総書記は金総理らの責任を追及した際に「今回の被害は決して、自然現象による災いではなく、徹頭徹尾怠け者らの無責任さと無規律による人災である。怠け者らが無責任な働きぶりで国家経済事業を全て駄目にした」と断じていた。当然、この基準に従えば、「怠け者」「無能者」との烙印を押した金総理らを解任、もしくは降格にするか、何らかの処分、お咎めがあってしかるべきだ。

 現に序列5位の李炳哲(リ・ビョンチョル)政治局常務委員兼党軍事副委員長は2021年に「党の決定と国家的な最重大課題の遂行を怠った」と批判され、一時的に政治局常務員委員の地位から2ランク下の政治局委員候補に格下げされ、また党軍事委員会副委員長の肩書も外されていた時期があった。

 また、同じく軍No.1の地位にあった元軍総参謀長の朴正天(パク・ジョンチョン)政治局常務委員も今年9月に軍政指導部長として再登場するまで昨年12月末に開催された党中央委員会第8期第6次総会で何が原因なのか定かではないが、党政治局常務委員、党軍事委員会副委員長、党書記の地位をすべて解かれていた。

 金総理ら農業担当者らが解任されずに済んだのは金総書記の気が変わったのか、それとも「激甚な自然災害を克服して豊作をもたらした」(金総書記の最高人民会議での演説)からなのか、あるいは他に人材がいないからなのか、定かではない。

 確かに、金正恩政権下の総理の人事をみると、総理は4人しか交替していない。最も長かったのが朴奉柱(パク・ポンジュ)氏で2013年4月から79歳になった2019年4月まで6年間、経済司令塔の地位にいた。逆に在任期間が最も短かったのが金才龍(キム・ジェリョン)氏で2019年4月~2020年8月の1年4か月で後任の金徳訓氏に交替していた。

 軍人の場合だと、人事交代は頻繁に行われており、国防相はすでに10人、軍総参謀長は11人も交代している。

 金徳訓総理は60代後半から70代の老幹部らで占められている権力中枢の中でまだ61歳と若い。地方の電気工場の支配人から這い上がり、慈江道人民委員会委員長(2011年)、副総理(2014年)を経て3年前の2020年8月に総理に就任した経済一筋の苦労人である。留任させたところをみると、結局のところ、金総書記は金徳訓の手腕に頼らざるを得なかったようだ。

 誰ひとり責任を負わず、何事もなかったかのように最高人民会議は閉幕したが、唯一気になるのは最高幹部である政治局常務委員の中で唯一、党序列3位の趙甬元(チョ・ヨンウォン)党組織指導部長が会議を欠席していたことだ。

金総書記の叱責に頭を下げている趙党組織指導部長(朝鮮中央テレビから)
金総書記の叱責に頭を下げている趙党組織指導部長(朝鮮中央テレビから)

 「内閣が指令を下すことしか知らない指令部署、通報部署のようになったのは国家経済事業と経済機関に対する党政策的および党的指導を受け持った党中央委員会の責任も大きい」と言っていたことからまさかとは思うが、趙組織指導部長が金総理の身代わりとなり、犠牲になったかも? 

 可能性としては極めて低いが、今度は趙氏の去就に注目したい。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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