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ゴルバチョフ元大統領を嫌った北朝鮮! 「東欧瓦解の元凶」「背信者」と酷評

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ゴルバチョフ元大統領(左)(写真:REX/アフロ)

 ロシアの前身・ソ連の最後の指導者であるミハイル・ゴルバチョフ元大統領が死去した。

 東西冷戦を終結させた外交手腕、業績が讃えられ、西側諸国からは哀悼の声が聞かれるが、ゴルバチョフ元大統領を最も嫌っていた国はおそらく北朝鮮であろう。

 北朝鮮はゴルバチョフ氏のペレストロイカ政策に不快感を抱いていた。ペレストロイカを「プロレタリア階級の利益を犠牲にし、帝国主義の要求に迎合した」ものと批判し、東欧諸国の崩壊もペレストロイカに原因があると決めつけていた。従って、東西冷戦の終結をもたらした米国との歴史的和解も「社会主義への背信行為」と断じ、ゴルバチョフ氏を「国際共産主義の裏切者」と酷評していた。

 ゴルバチョフ氏に「東欧瓦解の元凶」とのレッテルを貼っていた北朝鮮にとってとりわけ東欧で最も親密な関係にあったルーマニアのチャウシェスク政権を「独裁政権」と批判し、反政府運動を支援したことは北朝鮮にとっては驚きであった。

 しかし、何と言っても北朝鮮にとってゴルバチョフ氏を許せなかったのは同盟国とみなしていたソ連が豹変し、1988年のソウル五輪に参加したことであろう。

 米国など西側陣営が1980年のモスクワ五輪をボイコットしたことへの報復措置としてソ連は1984年のロサンゼルス五輪をボイコットしたが、北朝鮮はソ連の呼びかけに応じ、ロス五輪をボイコットしていた。ソ連のソウル五輪参加は北朝鮮からすれば、義理に反する行為で、恩を仇で返されたことになる。

 ソウル五輪は東西和解の象徴として盛大に執り行われ、韓国の国際的地位を一気に高め、逆に北朝鮮の孤立を一層浮かび上がせる結果となったことはその後の歴史が証明している。

 ゴルバチョフ政権の「背信行為」はそれにとどまらなかった。北朝鮮にとってショックだったのは1990年に北朝鮮の頭越しに、韓国と国交を樹立したことである。

 初代大統領に就任したゴルバチョフ氏は就任会見(1990年3月16日)で韓国MBCテレビの記者から韓国との外交関係について問われた際、「見通しは明るい」と述べ、国交樹立の可能性を示唆したが、驚いたことにこの発言から3か月後の6月4日にはサンフランシスコで盧泰愚(ノ・テウ)大統領(当時)と極秘裏に会談し、早くも9月には韓国と国交を結んでいる。

 ソ韓首脳会談も国交正常化も北朝鮮と熾烈な外交戦を演じていた韓国にとっては外交史上特筆すべき外交勝利となったが、当時ソ連のシェワルナゼ外相は政府機関紙「イズベスチャ」(1990年10月2日付)に寄稿した論文でソ連が韓国承認に踏み切った理由について「世界の国々との関係を発展させるというソ連の論理、即ち修正補完した対外政策の基本原則に基づくものであり、こうした現実が南北という二つの独立国家が存在するという現実と、韓国がアジア政治、経済、軍事的に無視できないほどの力のある存在として浮上してきた点を考慮せざるを得なかった」と説明していた。

 首脳会談も含め韓国との交渉はすべてが極秘裏に行われ、北朝鮮への事前通告はなかった。どれをとっても北朝鮮にとっては青天の霹靂であった。とりわけ、北朝鮮にとって不満極まりなかったのはソ連との間には国際的重要事項については事前協議を定めた友好相互協力援助条約があるのにそれが無視されたことだ。

 条約の第2条には「いずれの一方の締約国も他方の締約国を目標とするいかなる同盟をも締結せず、いかなる連合及び行動又は措置にも参加しないことを約束する」と書かれており、また第3条には「両締約国は平和の強化及び全般的安全を促進する熱意を指針として、両国の利益に触れるすべての重要な国際問題について相互に協議するものとする」と記述されている。

 当時、北朝鮮は全貿易量の60%をソ連に依存し、対外債務の40%をソ連に負っていた。ソ韓国交樹立によって建国以来40年以上も培ってきたロシアとの経済関係に楔を打ち込まれ、ソ連の友好価格による原油供給も大幅に減少し、北朝鮮経済が下降線を辿る原因となった。

 北朝鮮がゴルバチョフ氏をどれだけ毛嫌いしていたかは1991年8月19日にモスクワで発生した保守派によるクーデターへの対応からも窺い知ることができる。

 北朝鮮はクーデターが発生したその日にゴルバチョフ大統領解任を伝えていた。外国の政変関連報道には慎重な筈の北朝鮮としては異例であった。翌日の党機関紙「労働新聞」にはクーデターを主導した非常事態国会委員会の声明を全文掲載していた。まるでクーデターに共鳴するかのような対応ぶりであった。

 同盟国の混乱ぶりをこれまで「内政問題」として黙殺してきた北朝鮮が声明を一早く掲載したのは事実上、ソ連保守派のクーデターに暗黙の支持を与えたのに等しかった。

 「ゴルバチョフのイニシアチブによって始まった改革政策が幾つかの原因のせいで行き詰まった。不信と無関心と絶望が当初の熱望と希望に取って代わった。国家は事実上、無統制となった」との内容の声明はまさに北朝鮮の正しさを立証したからに他ならなかった。

 しかし、北朝鮮が喜び勇んで伝えたクーデターは3日天下で終わり、北朝鮮の情勢分析の甘さを露呈し、ゴルバチョフ憎しのあまりの勇み足となった。

 ゴルバチョフ氏の訃報に接した北朝鮮の反応が興味深い。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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