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ローマ教皇の訪朝は実現するのか! 「北朝鮮から正式に招待されれば、必ず行く」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ローマ教皇フランシスコに接見した文在寅前大統領(青瓦台HPから)

 ローマ教皇フランシスコは8月27日、韓国の兪興植(ユ・フンシク)枢機卿を含む20人の枢機卿叙任式を開いた。韓国天主教会(カトリック教会)からの枢機卿任命は史上4人目となる。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は教皇フランシスコに祝賀書簡を送ったようだ。

 叙任式の2日前の25日、韓国のKBSTVがバチカン(ローマ法王庁)でローマ教皇との単独インタビューを行っている。インタビューで朝鮮半島の平和について聞かれた際、教皇は北朝鮮に対して「私を招いて欲しい。そうしたら断らない。招待され次第、北朝鮮に行くつもりだ」と、招待状を送るよう要請していた。

 ローマ教皇の「訪朝話」が持ち上がったのはこれが初めてではない。文在寅(ムン・ジェイン)前政権下でも2度話題になったことがある。

 1度目は文前大統領が2018年10月(17―18日)にバチカンを公式訪問した際で「金正恩(キム・ジョンウン)総書記はフランシスコ教皇が平壌を訪問するならば熱烈に歓迎すると言っていた。是非、訪朝してもらいたい」と訪朝を請願していた。

 2度目は2021年10月に英国のグラスターで開催された「COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)」首脳会議出席のため訪欧途中にバチカンに立ち寄った際で、教皇と再度会い、「教皇が訪朝して下されば朝鮮半島平和のモメンタム(勢い)となる」と訪朝を強く働きかけていた。この時は文前大統領の熱望に「公式の招待状が来れば、平和実現のため必ず行く」と、教皇は返事していた。

 文前大統領は2018年に金総書記と立て続けに3度会っているが、その過程で金総書記から「教皇が平壌を訪問するならば熱烈に歓迎する」との言質を取り付けたようだ。しかし、北朝鮮はこの件については黙して語らずで、教皇に肝心の招待状が届くことはなかった。

 KBSは今回、教皇が自ら訪朝の意思を明らかにし、北朝鮮に「私を招いて欲しい」と呼び掛けたのは「異例である」と、伝えているが、教皇は訪朝目的について「兄弟愛からである」と述べたうえで「南(韓国)の人々にも北(北朝鮮)の人々にも私の祝福と平和祈願を送りたい」と語っていた。

 ローマ教皇が訪朝に前向きになったとしても北朝鮮が招き入れることは常識ではあり得ないと誰もが北朝鮮の受け入れには懐疑的である。

 一つには、北朝鮮は宗教には無縁どころか、2014年にオーストラリアの宣教師が朝鮮語で書かれた宗教本を所持していた「罪」で拘束されるなど国際社会では「宗教弾圧国」の烙印が押されているからだ。

 次に、招請すれば、礼拝、洗礼、説教、布教を容認しなければならないからだ。また、北朝鮮が新型コロナウイルスの流入を警戒し、依然として国境を封鎖し、海外から外国人を受け入れてないことも理由の一つに挙げられている。

 しかし、大方の常識を覆すのもまた、北朝鮮である。これまでも何度も国際社会を唖然とさせるようなことをやってきたことを考えると、教皇の訪朝もあり得なくもない。

 北朝鮮と宗教との関係について言えば、建国の父・金日成(キム・イルソン)主席は母親(康盤石=カン・バンソク)がキリスト教徒で、国家副主席を務めた金主席の外祖父・康良煜(カン・リャンウ)氏はキリスト教長老会の牧師である。

 康良煜氏の息子の康永燮(カン・ヨンソプ)氏は2012年に亡くなるまで朝鮮基督教連盟中央委員会委員長の座にあり、世界教会協議会(WCC)の国際会議にも何度も出席していた。こうしたことから金日成時代にはその名が知れ渡っていた宗教人を何人も招き入れていた。

 その一例が、今何かと話題になっている世界平和統一家庭連合の前身である世界基督教統一神霊協会(統一教会)の創始者・文鮮明(ムン・ソンミョン)教祖の訪問(1991年11月30日―12月7日)を受け入れたことだ。

 政治団体「国際勝共連合」を1968年に設立した文鮮明氏は北朝鮮をサタン、金主席を「共産主義の悪魔」と呼称し、金政権打倒のための反北活動をしていたことは周知の事実である。その北朝鮮が「反共の頭目」と罵倒していた文鮮明氏を受け入れたのはまさに青天の霹靂というか、当時「大事件」であった。

 また、文鮮明氏の訪朝が引き金となったのか、翌年の1992年4月には最も著名なキリスト教(南部バプテスト教会)福音伝道師として知られていた米国のビリー・グラハム牧師を受け入れていた。グラハム牧師を招待したのは朝鮮基督教連盟で、グラハム牧師は1994年1月にも再訪朝していた。

 グラハム牧師は訪朝の目的が北朝鮮宗教人との交流を図り、教会で説教すること、それと米朝両国の架け橋になることを明かしていたが、実際に2度目の訪朝の際にはクリントン大統領(当時)の口頭によるメッセージを伝達し、また金日成主席からクリントン大統領宛の返書を託されていた。北朝鮮の核開発関連で米朝一触即発の状況を回避するためクリントン大統領の特使としてカータ―元大統領が訪朝したのは約4か月後(6月15日)のことであった。

 二代目の金正日(キム・ジョンイル)政権下でも1997年と1999年にWCCの使節団を受け入れていたことはあまり知られていない。

 2度目の1999年の時はWCCトップのコンラード・ライザー総幹事(当時)が訪朝し、当時序列No.2の金永南(キム・ヨンナム)最高人民会議常任委員長と会談し、帰途ソウルに立ち寄り、金大中(キム・デジュン)大統領に訪朝報告を行うなど南北関係改善に助力していた。金大中大統領の訪朝による史上初の南北首脳会談が実現したのはこの訪朝から1年後の2000年6月のことであった。

 北朝鮮は建前では「信仰の自由」を認めている。憲法第68条には「公民は信仰の自由を有する」と定められている。

 朝鮮基督教連盟は1983年に新約聖書と賛美歌を発行し、1984年には旧約聖書を刊行している。また、1988年9月に平壌市に鳳岫教会を、1989年には七谷教会を建立している。それらしい牧師も存在する。

 平壌市内には文鮮明氏の訪朝を機に礼拝堂を完備したビル「平壌世界平和センター」も建設されており、ロシア正教会も建てられている。

 大同江付近に2004年に建てられた300平方メートル規模のロシア正教会は二つのドームを備えたコンクリートの建物で、鐘塔には12個の鐘が設置されている。

 北朝鮮には朝鮮基督教連盟の他に仏教連盟といった型どおりの宗教団体もある。活動実績はないものの天道教青友党という名の政党もある。天道教を信じる農民らによって1946年2月に組織された政党で、朝鮮労働党の「友党」扱いとなっている。

 曲がりなりにも、体裁上でも環境と条件が整っており、「コロナ」が収束されているならば、金正恩総書記の決断次第では「平和の使者」としてのローマ教皇の訪朝もあり得るかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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