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ゴングが鳴った朝鮮半島の危険な「ウォーゲーム」 米韓合同軍事演習VS北朝鮮の核・ミサイル

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2016年夏の米韓海兵隊の上陸演習(JPニュース提供)

 夏恒例の日本3大盆踊りの一つである徳島の「踊る阿呆に見る阿呆」の阿波踊りは無事終了したが、朝鮮半島の夏恒例の米韓対北朝鮮の「威嚇合戦」はこれからが本番を迎える。

 来週22日から米韓合同軍事演習「乙支フリーダムシールド)」(UFS)がスタートする。韓国の陸海空を統合する合同参謀本部はこの演習について「防御訓練である」と強調している。

 米韓合同軍事演習は毎年上半期(3~4月)と下半期(8~9月)に定期的に実施される通常の防御訓練であり、北朝鮮攻撃のための訓練ではないので北朝鮮の批判はあたらないというのが韓国側の言い分である。早い話が、上半期(6月)と下半期(12月)に行われる「独島(竹島)防御訓練」と同じであくまで「有事に備えた訓練である」としている。

 夏の訓練は1976年から2007年までは「UFL」(乙支フォーカスレンズ)、2008年から2018年までは「UFG」(乙支フリーダムガーディアン)の名称が使われてきたが、直近の3年間(2019~2021年)は連合指揮所訓練(CCPT)と呼ばれていた。

 すでに事前演習の危機管理演習が昨日(16日)から始まっているが、22日から本格的に始まる演習はコンピューターシミュレーションを基盤とした「ウォーゲーム(war game)」形態の指揮所演習ではなく、2018年6月のシンガポールでの米朝首脳会談以降、取り止めていた連合野外機動訓練を復活させて、行われる。

 演習は2段階に分けて行われ、第1段階は22日から26日まで、第2段階は29日から9月1日まで実施される。第1段階では敵の攻撃を撃退、防御する訓練が、第2段階では反撃に重点を置いた訓練が実施される。

 陸軍は旅団級連合科学化戦闘訓練をはじめ核・ミサイルなど大量殺傷兵器除去訓練、合同火力運用訓練、攻撃ヘリによる射撃訓練、燃料再補給訓練など大隊級訓練を展開する。海軍は米韓特殊部隊による合同訓練と海上哨戒作戦訓練を実施する。空軍は合同作戦能力を高めるための「バディ・ウイング訓練」を計画している。

 今回の訓練では北朝鮮との局地戦、全面戦に備えた国家総力戦遂行能力を試すための訓練、即ち現実的に起こりうるシナリオを想定した訓練も実施される。具体的には原子力発電所に仕掛けられた爆発物の処理から空港や港湾、さらには半導体工場へのテロ攻撃を想定した防御・復旧訓練、サイバー攻撃による銀行電算網麻痺に備えた訓練が同時に行われる。ウクライナ戦の教訓から政府機関施設や軍施設へのドロンによる攻撃に備えた訓練も併せて行われる予定である。

 参加する両軍の数はまだ明らかにされてないが、2012年(8月21―31日)の時は韓国軍と米軍の計8万人が参加し、38度線前線に配備されている長距離砲による北朝鮮のソウル集中砲撃に対応した「応戦訓練」が実施された。

 翌年の2013年(8月18-29日)も米韓合わせて8万人(米軍3万人、韓国軍5万人)が参加し、演習にはF―22ステルス戦闘機、核戦略爆撃機B-52、ステレス戦略爆撃機B-2、イージス駆逐艦「ラッセン」や「フィッツジェラルド」などが投入された。

 この年は北朝鮮の奇襲攻撃に備えた訓練も実施され、北朝鮮が北方限界線(NLL)南側の韓国の諸島に対して、あるいは非武装地帯で武力挑発を行った場合、北朝鮮の砲兵部隊だけでなく、その周辺の兵站施設や4軍団司令部まで叩く訓練を行っていた。

 また、2014年(8月17-28日)も海外からの増援軍3千人を含む3万人の米軍と軍団、艦隊司令部、飛行団級から成る5万人の韓国軍が演習に参加した。北朝鮮の核とミサイルを除去、無力化する訓練であった。演習前にはB-52戦略爆撃機が3基グアムに配備されていた。

 演習中に韓国の拡声器に向けた北朝鮮による砲撃事件が起きた2015年(8月17―28日)の演習でも米韓合わせて8万人の軍人が動員され、前年同様に北朝鮮の核とミサイルの脅威に対応するための訓練、それも先制攻撃戦略に沿った訓練が本格的に実施された。

 最終日の8月28日には京機道の陸軍訓練所で史上最大規模の「統合火力撃滅訓練」が3時間にわたって実施された。米韓両軍47部隊から2千人が参加し、戦車、装甲車、ヘリなど各種最新兵器が動員され、火力演習が行われた。

 リオデジャネイロ五輪閉幕(21日)後の22日から行われた2016年(8月22―9月2日)の演習では米軍は2万5千人と、前年よりも5千人少なかったが、韓国軍は例年並みの5万人規模で、空軍はF-15K,F-16,FA-50,F-4E,F-5戦闘機,C-130輸送機、HH-60ヘリなど60機を投入していた。

 ソウルでは首都防衛司令部やソウル地方警察庁から14万人が非常招集され、24日には民防空訓練として北朝鮮の長距離砲やミサイル、空軍機の攻撃に備えた退避訓練が実施された。

 トランプ大統領と金正恩(キム・ジョンウン)総書記がチキンレースを演じた2017年(8月21-31日)は米軍は海外増援軍3千人を含め1万7500人、韓国軍は例年同様に5万人が訓練に参加した。

 訓練は2部に分け行われ、一部では戦時状況下での住民退避訓練のほか、海外駐屯の米軍の韓国上陸作戦や北朝鮮の攻撃を撃退する訓練が実施された。また、韓国全土で市、郡、区以上の行政機関や公共機関、団体から48万人が参加して戦時訓練が行われた。

 後半の2部の演習では「作戦計画5015」に則り、軍事作戦の能力を強化する訓練が行われ、北朝鮮の核ミサイル発射の兆候や実際に発射された際の防御・反撃訓練が行われた。

 米韓合同軍事演習が行われる度に北朝鮮は反発し、2012年の時は金正恩総書記が「我慢にも限界がある」と反発し、全面的な反撃戦に向けた作戦計画を検討、署名し、2013年もまた、国防委員会を通じて「我々の忍耐にも限界があることを肝に銘じておけ」との談話を発表し、戦略ロケット部隊に「1号戦闘勤務体制」を発令していた。

 さらに2014年の訓練では軍参謀部が「米韓は我々に宣戦を布告した」と、態度を硬化させ、「我々の強力な先制打撃がいつでも無慈悲に開始される」と米韓を威嚇し、米韓演習が始まった18日には外務省を通じて「予測付かないより高い段階の軍事的対応を取る」との声明を出していた。

 2015年の時は国防委員会が演習開始2日前に「軍事演習を強行すれば、我々の軍事的対応は大きくなる」との声明を出し、軍総参謀部もまた「宣戦布告だ」として「米国と南朝鮮(韓国)が宣戦布告してきた以上、我々のやり方の最も強力な先制攻撃が任意の時刻に無慈悲に開始される」と威嚇していた。

 2016年には軍総参謀部が演習開始日(22日)に報道官声明を発表し、「我々に対する核戦争挑発行為である」とした上で、「我々の自主権が行使される領土と領海、領空へわずかでも侵略の兆候が見える場合、容赦なくわが式の核先制打撃を浴びせ、挑発の牙城を灰の山にする」と威嚇した。

 「朝鮮人民軍1次打撃連合部隊が先手を打って報復攻撃を加えられるよう常に決戦態勢を堅持している」とも警告し、演習終了から3日後の9月5日には弾道ミサイルを3発発射した。3発とも約1000キロ飛行し、日本の防空識別圏内に400キロ以上入って日本海に落下した。さらに4日後の9月9日の建国記念日には5度目の核実験を強行した。

 そして、2017年の演習に対しては「我々の門前で恒例を理由にした戦争演習騒動を止めない限り、核武力を中枢とした先制攻撃能力を引き続き強化する」と公言し演習終了後の8月26日に3発のスカッドB改良型ミサイルを、29日には中長距離弾道ミサイル「火星12号」を発射 (約14分飛行し、室戸岬東1180km先の太平洋に着弾)し、9月3日には水爆実験を行った

 今回の米韓合同軍事演習に北朝鮮は沈黙を守っているが、過去の例からして猛烈に反発するのは必至で、6月5日以来自制ていたミサイルの発射や核実験に踏み切る公算が高い。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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