スペインのマドリードで開催されたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が本日(1日)、帰国した。

 大統領室では日米と5年ぶりに首脳会談が実現し、対北朝鮮問題での連携強化が確認できたことと岸田首相と4度も対面できたことを外交成果として挙げているようだが、韓国のメディアはどう評価しているのか、幾つかの新聞が社説で取り上げているので検証してみることにする。

 岸田首相と尹大統領の短時間の出会いを正面から取り上げたのは中立系の「国民日報」と革新系の「ハンギョレ新聞」の2紙である。

 「国民日報」は「突破口を探す韓日関係、喫緊の懸案を解決するには信頼関係から」との見出しを付け、以下のように論じていた。

 「NATO首脳会議で尹錫悦大統領が日本との関係正常化に向け突破口を開いたのは幸いである。首脳会談は行われなかったが、日韓関係が最悪な状況にある中、首脳同士が4度も会い、信頼を重ねたことは意味がある。登るべき山は多く、直ちに関係改善に繋がる保証はないが、両首脳が対話の意志を確認したことで今後、実務家レベルでの外交努力が加速することが期待される」

 続けて、同紙は「今、韓国と日本は関係を改善するのに適切な時期を迎えている。尹大統領は立候補以来、日韓紛争の包括的解決を公言してきた。岸田首相は安倍前首相の急激な右傾化に反対する自民党内の派閥、宏池会を率いる。少なくとも日本政府が極右の主張をそのまま反復することによる外交問題へのリスクは大幅に軽減されている」として「今こそ、両国が一歩下がって共に未来を見つめ、過去を整理することが迫られている。両国首脳が意思疎通の意思を表明したことはこうした基本原則に同意したことを意味する。これから大事なことは実践することだ。両国政府は実務レベルで様々な解決策が提案されている強制徴用被害者問題から頭を突き合わせ、解決し、信頼の範囲を徐々に広げていくべきである」と両首脳のイニシアチブによる日韓関係修復に期待を寄せていた。

 一方、「ハンギョレ新聞」は「韓日関係改善の意思確認、軍事協力の議論は警戒すべき」との見出しからも明らかなように日韓関係改善に前のめりの尹政権の対日アプローチの危うさを問題にしていた。

 同紙は日韓首脳がNATO首脳会談の際に何度も会い、関係改善の意思を交換したことは「硬直した2国間関係に突破口を開くうえで望ましい」としながらも「韓米日軍事協力の言及が出てくることは警戒しなければならない」と尹政権の日米への軍事的傾斜に釘を刺していた。

 同紙はまた、岸田首相が日米韓首脳会談で北朝鮮が7度目の核実験を行った場合に日韓共同訓練を行う可能性や米韓同盟の抑止力を強化するうえでも日本の防衛力が必要であると発言したことについて「直ちに3カ国間の軍事協力が可視化することはないが、議論を激化させるシグナルと解釈できる」と分析し、大統領府関係者が「3カ国間の安全保障協力にはしばらく時間がかかるが、徐々に検討される問題である」とその可能性を示唆したことを傍証に挙げ、警戒感を滲ませていた。

 この件では尹大統領が大統領選挙期間中の今年3月、朝鮮半島に危機が生じた場合に自衛隊の介入を容認するかのような発言をして物議を醸したが、同紙は「尹政権がGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)の正常化方針を強調しているだけにこうした発言は軽視できない」と指摘していた。

 今後の日韓関係の展望については「ハンギョレ新聞」は悲観的で、その理由については以下のように言及していた。

 「実際、日韓関係の正常化への道筋は楽観できない。強制動員被害解決策など過去史懸案事項に関して日本は『韓国が解決策を出せ』とする一方的な立場を後退させる兆しを見せていない。我が政府は近々、強制動員被害者の賠償問題を解決するため官民協議機関を立ち上げるなど先制的な措置を取っているが、日本がそれ相応の措置を取るかどうかは未知数である。この点では大統領室関係者が『トップダウンの雰囲気』にあり『日韓首脳同士は(問題解決に)準備ができているようだ』と言っているのは少し先行し過ぎる。関係改善に前のめりになれば、原則を見失い、低姿勢の外交に陥ってしまう」

 「韓国日報」は「強制動員賠償解決策議論から被害者を排除すべきではない」との見出しを付けて、日韓関係のトゲとなっている元徴用工問題を社説で取り上げていた。

 尹政権が6月4日に発足させる強制動員被害者賠償問題を解決するための官民協力機構については「政府は当初は6月に初会議を模索していたが、参加者の人選が難航し、遅れてしまった。(参加者は)日本企業が強制徴用賠償金を払わずに別の解決策を見出すよう建議する悪役を演じる可能性が高いからだ。現在、被害者側は(機構への)参加を決定をしていないため今後は厳しい道のりが予想される」と見通したうえで「尹政権は閉塞状態にある韓日関係を改善するため前向きな動きを予告しているが、日本から相応の措置がないため韓国だけが急いでいるかのような印象を与えている。NATO首脳会議で両首脳が4回直接会談した後でさえ(双方の)公式発表は違った形で出る事態となっている」と嘆いていた。

 その一方で「戦犯企業の国内資産に関する最高裁の強制執行(現金化)判決が差し迫っている中、官民組織を立ち上げた政府の努力は鼓舞的である」と尹政権の対応を評価してみせたが、前途悲観な理由については「日本側の態度が変わらず、韓国政府が日本企業に代わって賠償金を支払い、後に日本側に請求する『代位弁済』が有力な解決策として取り上げられれば、世論の反発にぶつかりやすい」と書いていた。

 同紙は最後に「被害者側は日本政府と戦犯企業の参加が核心であるとの立場だ。特に、日本の謝罪が不可欠であるという立場に変わりはない。日本の参議院議員選挙(7月10日)を前に(日本が態度を)変えにくいことを勘案しても反人道的不法行為に対する代案から議論することは被害者への冒涜である」として「日本の誠意ある姿勢と被害者の同意を求める政府の努力は切実である」と社説を結んでいた。

 この他にも「韓国経済」が「5年ぶりの韓米日首脳会談 北朝鮮核の実質的解決の道を」題する社説を掲げ、日韓首脳会談に言及していた。

 同紙は「日韓首脳会談は行われなかったが、尹大統領と岸田総理が4回も会ったことは期待を持たせる。尹大統領の『未来に向かって前進しよう』との呼びかけに対し、岸田首相が『より健全な関係を発展させよう』と答えたことを考えると、過去5年間閉ざされていた両国関係改善の糸口が見えたと言っても過言ではないと思う」と日韓関係の前途を前向きに捉えていた。

 日米韓首脳会談を「北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対応するため3者協力を復元することは久しぶりに明るいニュースだ」と評価した同紙は「尹政権は半導体材料・部品・機器の輸出規制により阻害された日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を正常化する意思を示し、4日には強制動員賠償を議論する官民協議機関を立ち上げる予定である。賠償については日本の戦犯企業の資産を強制的に売却するのではなく、日本の企業と対日請求権資金を受けた韓国の企業が共同で基金をつくり、補償する案を出すなど関係改善に向け積極的に取り組んでいる」としたうえで「それだけに日本も一層誠意ある姿勢で韓国が差し出す手を握らなければならない。両国が日韓問題を国内政治に悪用することがなければ、絡み合った糸を解くのはそれほど難しくないだろう」と日本に注文を付けていた。

 この他に日米韓首脳会談の関連では韓国が米中の板挟みにあっていることもあって「中央日報」と「国際新聞」が対中関係を社説で取り上げていた。

 「中央日報」は「韓中関係を慎重に監理し、国益の損失を防げ」の見出しを掲げ、以下のように政府に注文を付けていた。

 「NATOとの協力強化は韓国の外交が新たな試練台に乗った兆候でもある。当面の懸念は中国との関係である。中国は尹大統領のNATO出席に露骨に不満を表明している。中国は貿易量で米国、日本、欧州を上回り、また、北朝鮮の非核化など安全保障上の問題では緊密に連携すべき国である。韓国が中国に背を向け、対中包囲網をリードしているかのように映るのは決して望ましくない。韓中関係のリスクを適切に管理できなければ、国益を害しかねない。従って、米国主導の新秩序の確立に引きずり込まれるのではなく、韓国自身が定めた原則や規範に則り、ケースバイケースで厳密に対処する必要がある。中国にもこのことを十分に説明し、不必要な敵対関係を作らないように努力すべきであり、我々が確立した原則にそぐわない米国の要求に対しては自らの立場を堂々と説明する必要がある。原則を守り、実利を得る外交こそが韓国が進むべき唯一の道である」

 一方、「国際新聞」も「韓米日韓首脳会談で確認された北朝鮮核と対中関係の重要性」の見出しを付け、「中央日報」同様に政府に慎重な対中外交を求めていた。

 「中国は連日、管制メディアを通じて日韓首脳のNATO会議への出席を批判している。政府は我が国の貿易で大きなシェアを占める中国経済の縮小を懸念し、市場の多角化が必要であると考えており、欧州を代替手段として活用する計画だ。尹大統領が欧州諸国の首脳と会談し、半導体や主要鉱物のサプライチェーン強化をテーマに外交活動を行う理由だ。グローバルサプライチェーンの多様化は必要だ。しかし、中国との経済関係、地政学位置、北朝鮮の核問題に対する中国の影響力などを踏まえると、慎重な外交を行うべきである」