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「処刑された」と韓国で報道されていた党幹部が復権!「粛清説」が流れていた国防相も健在!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
復権した朴泰成政治局員(左)と健在の李永吉国防相(右)(労働新聞から筆者加工)

 注目されていた朝鮮労働党中央委員会第8期第5回総会拡大会議が6月10日に閉幕した。

 総会で審議される4つの議案のトップが異例にも人事だった。通常は会議の冒頭ではなく、最終日に討議、採択され、発表されることになっている。

 今総会では採決権のある政治局員に新たに3人が任命された。ワンランク下の政治局員候補だった全賢鉄(チョン・ヒョンチョル)副総理兼党経済政策室長と軍総参謀総長に任命された李太燮(イ・デソプ)大将の2人が自動的に昇格したが、目を引いたのはかつて党序列6位だった朴泰成(パク・テソン)氏が政治局員に返り咲いたことである。

 昨年2月16日の金正日(キム・ジョンイル)前総書記生誕日の宮殿参拝を最後に公式の場から姿を消したため韓国で粛清説が流れただけでなく、北朝鮮内部情報を発信している大手紙「東亜日報」の脱北記者がユーチューブを通じて「少し前に朴泰成党宣伝書記が処刑されたとの情報を得た」と伝えたことで処刑説まで駆け巡っていた。これには宣伝部を牛耳っている金正恩(キム・ジョンウン)総書記の実妹・金与正(キム・ヨジョン)氏に煙たがられ、追いやられたとの尾ひれまで付いていた。

 ところが、実際は、昨年12月末に開催された党中央委員総会で党中央委員に補選され、今年2月に開催された最高人民会議にも代議員として出席していたことが確認され、処刑されてはいなかった。今会議では壇上にいたことでその姿がはっきりと確認された。

 ちなみにこの脱北記者は2017年10月頃から消息を絶った当時No.3だった黄炳誓(ファン・ビョンソ)元軍総政治局長についても金総書記の機嫌に触れるような言動をしたため「処刑された可能性が高い」との情報を流していたが、実はこれも誤認、誤報だった。「不純な態度」や「規律違反」が問題にされ、労働党組織指導部第一副部長に降格したものの黄氏もまた処刑はされてなかった。

 今年4月25日に行われた朝鮮人民革命軍創建90周年軍事パレードで黄氏は首席壇の隅の方に立っていた。朝鮮中央テレビで放映された録画放送をみると、開始から48分8秒にカメラが切り替わると、「処刑されたはず」の軍服姿の黄氏が映し出されていた。

 朴泰成氏の他にも党序列10位の金頭日(キム・トゥイル)元政治局員(元経済担当書記)もまた今総会で復権し、内閣政治局局長兼党責任書記に起用された。

 平安南道委員長だった金頭日氏は行政手腕を評価され、昨年1月の党第8回大会で党政治局員、党書記、党経済部長に昇進したが、1か月後に開催された党中央委第8期第1回総会(2月8日)で電撃解任されていた。

 解任理由は「党大会で決定し、党大会の文献に対する集中学習と方向討議を行ったにもかかわらず、提起された今年の経済活動計画に党大会の思想と方針が正確に反映されず、革新的な眼識と明白な策略が見えない」と金総書記から叱責されたことによる。

 金頭日党経済部長が作成した経済計画に金総書記が怒り心頭だったことから韓国内では再起不能どころか、収容所送りの可能性まで取り沙汰されていたが、金頭日氏も1年4か月ぶりに復権を果たした。

 失脚絡みでは李永吉(イ・ヨンギル)国防相の動静も一部専門家の間で注目されていた。

 軍「ビッグスリー」の一人である李国防相が権英鎮(クォン・ヨンジン)軍総政治局長と共に先月(19日)死去した玄哲海(ヒョン・チョルへ)元帥の183人から成る国葬委員のリストに名前が載ってなかったことから「新型コロナウィルスに感染したか、あるいは何らかの不祥事で更迭された可能性が高い」との憶測が流れていたが、李国防相は今総会ではひな壇に座っており、健在だった。その一方で、昨年1月の党大会で軍総政治局長に抜擢されたばかりの権英鎮大将は軍総政治局長を解任されていた。

 権大将の後任には2017年に政治局員・軍事委員・国家保衛相に抜擢された、出世頭の一人である鄭慶澤(チョン・ギョンテク)大将が起用され、国家保衛相には李昌太(リ・チャンデ)氏が起用された。

 金正日政権から金正恩政権下の2018年4月にかけて軍No.1の座にあった軍総政治局長は金正恩政権(2012年1月~)下では崔龍海(チェ・リョンヘ)→黄炳誓→金正角(キム・ジョンガプ)→金守吉(キム・スギル)→権英鎮→鄭慶澤と、これで6人目である

 今総会では軍総参謀長も林光日(イム・グァンイル)大将から前社会安全相の李太燮(イ・デソプ)大将に交代した。

 軍偵察総局長から昨年9月に総参謀長に就任したばかりの政治局員候補の林光日大将は僅か9か月で更迭を余儀なくされた。権英鎮大将同様に今総会には出席していたことから失脚ではなく、人事異動による配置換えとみられる。

 軍総参謀長も金正恩政権下では李英鎬(イ・ヨンホ)→玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)→金格植(キム・ギョンシク)→李永吉→李明秀(イ・ミョンス)→李永吉→朴正天(パク・ジョンチョン)→林光日→李太燮と、9人目の交代となる。

 さらに昨年1月の党大会で人民保安相から名称が変わった、国内の治安を預かる社会安全相のトップも交代した。李太燮大将が軍参謀総長に栄転したことで朴寿一(パク・スイル)元第一副総参謀長兼作戦総局長に取って代わった。金正恩政権下での社会安全相は崔富一(チェ・ブイル)→金正浩(キム・ジョンホ)→李永吉→李太燮→朴寿一で5人目だ。

 ちなみに昨年12月に社会安全相に任命された李太燮大将は軍総参謀総長に栄転したため半年でお役御免となった。李大将の前任者の金正浩上将(2019年12月に就任)も約1年で交代し、最高人民会議法制委員会委員長に転出している。

 李太燮大将と朴寿一大将の2人は、それぞれ第5軍(第549大連合部隊=江原道・平康郡に駐屯)、第1軍(第757大連合部隊=江原道・淮陽郡に駐屯)の軍団長として前線で勤務していた野戦将軍である。

 この他の人事では軍事委員に軍保衛司令官の趙慶喆(チョ・ギョンチョル)大将が社会安全相の朴寿一大将と共に新たに加わったが、趙大将は金総書記が後継者に決まった翌年の2010年に保衛司令官に起用された最も信頼されているボディーガードである。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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