ソウル市長選で当選した保守の呉世勲候補は「親日」?「反日」?

西大門独立公園を訪れ,黙祷をささげる呉世勲・次期ソウル市長(国民の力のHPから)

 ソウル市長選挙は野党「国民の力」の呉世勲(オ・セフン)候補が予想通り、与党候補の朴映宣候補に大差を付け、当選した。

(参考資料:大統領も与党もソウル・釜山市長選と次期大統領選与党候補も支持率浮上せず! 文在寅政権最大のピンチ!)

 本来ならば、他国の選挙、内政問題なので日本には関わりのないことだが、地理的にも歴史的にも経済的にも近く、太い繋がりのある隣国の首都の長を決める選挙だけに無関心ではいられない。

 韓国との関係の重要性を認識しながらも文在寅政権と対立したまま関係改善の糸口を見出せないでいる日本にとっては「反日」的な文政権が推す候補よりもその対極にある野党候補の当選が望ましいのであるならば、野党候補の圧勝は歓迎すべきだが、問題は10年ぶりに市長に返り咲いた呉世勲氏の対日観である。

 呉世勲市長が「親日」なのか、それとも「反日」なのか、区別することは容易でない。

 「親日」とみれる事例は幾つかある。

 一つは、かつてソウル市長時代(2006年7月~2011年8月)に北海道と姉妹都市の関係(2010年10月15日)を結んだことだ。東京都とはすでに盧泰愚政権時代の1988年9月に姉妹都市となっていたが、呉市長は日本との交流、観光を積極的に押し進めるため北海道にも手を広げていた。

 当時、呉市長は日本との関係強化に努めていた。横浜市の林文子市長が2011年6月にソウル支庁を訪問した際には日本国民に対して東日本大震災の早期復興のための協力を惜しまないことを伝えていた。また、2013年9月に来日した際には「アジア・太平洋中心都市跳躍のためシティーネット」(1987年に設立)の総会のソウルに誘致にも乗り出していた。

 さらに、日本には知人が多いことだ。

 呉氏はソウル市長になる前の2000年、当時野党だった保守政党「ハンナラ党」から出馬し、当選すると「未来連帯」という若手の集いを組織し、自民党の若手議員との交流を深めた。そのうちの一人が山本一太・群馬県知事で、二人の交流は呉氏が2006年にソウル市長になってからも続き、山本知事は呉市長の招きで参議院議員だった2011年10月に訪韓している。

 もう一つは、現在、日本政府が撤去を求めている日本大使館前に設置されている慰安婦像への対応である。

 慰安婦像は呉市長の在任中は設置されていなかった。設置されたのは退任(2011年8月26日)から約4か月後の12月14日で、それも韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)によって行政の許可なく大使館前の歩道上に置かれたものだった。

 呉市長は前年の2010年4月にも「独島(竹島)を愛する市民の集い」などの左翼系の市民団体がソウル広場で計画していた「独島を愛する集会」も日本との無用なトラブルを避けるため不許可にしていた。

 こうした経歴をみると、日本に対しては少なくとも親近感を抱いていることは間違いなさそうだ。

 その一方で、気になる点もある。

 朴槿恵保守政権が「市民革命(ロウソク革命)」によって2017年3月に崩壊した後の対日言動に変化が見られることだ。その一例が、朴槿恵政権が安倍晋三政権との間で2015年12月に交わした「日韓慰安婦合意」に対する態度だ。当時「ポスト朴」に意欲を示していた呉氏は「日韓合意」について「再交渉すべき」との立場で、大使館前の慰安婦像の撤去にも反対していた。

 当時大統領選挙には保守派からは呉氏のほか、済州道の元喜龍知事、実力者の劉承敏議員、それに今回のソウル市長選挙で呉氏の支持に回った「国民の党」の安哲秀前代表らが名乗り出ていたが、世論調査機関「リアルメーター」が2017年1月に実施した候補者へのアンケートでは「日韓合意」については全員「再交渉」もしくは「破棄」と答えていた。「日韓合意反対」の世論が6割に上っていたこともあってそう答えざるを得なかったのかもしれないが、呉氏もそのうちの一人だった。

 また、今回、ソウル市長選立候補にあたり日本の植民地統治に反対にする独立運動の象徴の場である西大門独立公園を独立運動記念日(3月1日)の前日の2月28日に訪れた際に以下のような「誓い」の言葉を残していた。

 「日帝占領時期の親日行脚が指弾される理由は『親しいから』という単純な理由ではない。同胞の生を疲弊させ、ひいては共同体の犠牲を代価に個人の栄達を追求したことにある。日本軍慰安婦、強制徴用、独立闘士拷問などがそうした被害の頂点にある。独立して75年になるが、我々には未だに涙ぐましい言葉となっており、未だに解決されていない」

 「『私に一発の銃弾が残っていれば、倭―(日本人をののしる言葉)よりも国と民主主義を背信した売国奴や変節者を百回、千回処断するだろう』――これは白凡金九先生の言葉である。今日、西大門独立公園に行ってきた。西大門刑務所と独立門などすべてを含む歴史的な公園として、独立運動と近代史を象徴している。私がソウル市長在任中の2008年から2009年にかけて西大門独立公園を綺麗にする工事をしたことを思い出した。今では誰もが自由に利用できる歴史の新たな教育の場となった。西大門刑務所は1908年10月に京城監獄と言う名称で開所され、日帝が朝鮮の独立意志を折ろうとわざわざ独立門の隣に作ったのだ」

 「誓い」で「我が民族の魂と精神を抹殺するため民族同士を離間させようとした日帝」などの表現を使っているところを見ると、呉市長もどうやら「反日」というもう一つの顔を持っているような気がしてならない。

(参考資料:ソウル市長選で野党候補が当選すれば、文在寅大統領の悲願である「32年夏季五輪南北共同開催」誘致は頓挫)

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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