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安倍首相の辞意表明に韓国は「驚き」と「安堵」が交錯 次期首相には「石破待望論」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
辞意を表明した安倍首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 安倍晋三首相の辞任表明は韓国にも波紋を及ぼしている。多くの韓国のメディアが「安倍辞任表明」を速報で伝えていたことからも韓国国民が大きな関心を寄せていることが窺いしれる。

 韓国の国民にも安倍首相の唐突の辞任表明は驚きを持って受け止められているが、安倍首相が韓国では「反韓人士」、「極右指導者」として認識されていることもあって安倍首相の辞任に歓迎、安堵の雰囲気が漂っている。現に与党「共に民主党」の李ゲホ議員は安倍総理の辞任表明について「万感の思いがする。韓国と国民と政府を苦しめてきたからだ」と自身のFBに書き込んでいた。

 メディアも政府寄りの「京郷新聞」は「戦争可能な国家をつくる・・執権内々右傾化まっしぐら」の見出しを掲げ、「安倍総理は最長の総理という栄光よりも敗戦国日本の『戦後体制脱却』と『戦争ができる普通の国』のためひたすら右傾化を追求してきた総理として評価される」と皮肉り、日韓関係についても「韓日関係の改善、村山談話の継承を公言したものの極右的性向を露呈するまで長い時間はかからなかった」として河野談話の検証問題を持ち出すなど「緊張を高めた」として酷評していた。

 中立系の「韓国日報」の記事も同様に「韓日葛藤を煽った安倍が去った」との見出しを掲げていたが、冒頭から「安倍総理は2012年12月に第2次政権を発足してから8年の在任中に植民地・侵略などを否定する歴史修正主義の形態で韓日葛藤を煽ってきた」と批判していた。

 CBS系のインターネットニュース「ノーカットニュース」が「幕を下した日本右傾化長期独走・・安倍落馬で韓日関係も変わるか」の見出しの記事で安倍首相について「韓国叩きと歴史修正主義と嫌韓、右傾化を導いた長期独走態勢が終わった」と韓国の本音を伝えていた。

 その他のメディアは「ポスト安倍」と今後の日韓関係について焦点を当てて伝えていた。

 例えば、経済紙では「毎日経済」が「安倍退陣 7年半の独走にピリオド」との見出しの下、「今後の韓日関係に変化が訪れるかが関心」と報じ、「ヘラルド経済」も「突如の安倍辞任で空席となった日本の総理は誰が?」との見出しを掲げていた。

 保守系大手紙の「東亜日報」は「菅、強制徴用に強硬姿勢 『安倍の複写版』・・・石破が韓国との関係改善に最も積極的」との見出しを掲げていることからも明らかなように石破氏に期待を寄せるような内容となっていた。

 同紙は「誰が次期総理になっても両国の関係改善に変化は期待できない」との韓国内の日本専門家らの言葉を紹介しつつも石破氏を評価する理由として今年1月に石破氏が同紙とのインタビューで「総理になれば日韓の歴史をもっと勉強したい。日本人自らが過去の責任を明確に検証すべきである」と発言したことを持ち上げていた。

 同紙は岸田党政調会長についても「韓国と因縁のあるハト派である」として、2015年の日韓慰安婦合意をまとめた外相であることに留意していたが、菅官房長官については和田春樹東大名誉教授が最近、同紙とのインタビューで「日韓関係改善のためには菅官房長官が次期総理になってはだめだ」と語っていたことを紹介していた。

 これに対して同じ保守紙の「朝鮮日報」は「ポスト安倍は誰がなっても韓日関係に急激変化はない」との見出しを掲げていたが、その理由については「日本内では両国の関係悪化の原因は文在寅政権にあるとしているからだ」と書いていた。

 同紙は「日本国内の世論は安倍総理の対韓政策に同調する気流が強いため安倍辞任が韓日関係に有意義な影響を与えるのは容易ではないとの観測が支配的である」として、「政権交代でなく、自民党内の人物交代なので慰安婦問題や徴用工賠償問題、輸出規制など日韓関係の足枷となっている主要懸案の立場はそのまま維持される可能性が大きい」と予測していた。

 そのうえで、「但し、日本の輸出規制など安倍総理の『私感』が大きく作用したことで知られる政策については『ポスト安倍』内閣で一部緩和される余地はある」として、韓国政府がこれに供応し、前向きな対日政策を構想した場合は「全面的な改善は困難としても最悪の局面から抜け出す可能性はある」と分析していた。

 公共放送の「KBS」の特派員は石破氏を除く候補者のほとんどが対韓強硬派であることから「誰がなっても日韓関係の反転する可能性は低い」と報告していた。同特派員は「内閣の支持率が過去最低の水準に下がっていることから日韓関係をダシに活用する可能性もある」と展望していた。

 視聴率の高い「JTBC」も「後任総理に菅、石破など・・・韓日関係に影響は?」のヘッドラインを掲げ、「総理が変われば、一つの契機になるかもしれないが、政権交代ではないので外交政策の変化を大きくは期待できない」と伝えていたが、通信社系の「連合ニュースTV」(「安倍電撃辞任で・・・最悪の韓日関係TVターニングポイントに」)は「大きな変化は期待できないが、韓日葛藤の原因は植民地支配を合法だったとする安倍総理の歴史観にあったので新たな対話の糸口が見出せるかもしれない」との希望的観測を伝えていた。

(参考資料:「安倍晋三対文在寅」 似て非なる因縁の「対決」

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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