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日韓の火種は「安倍首相謝罪像」から釜山総領事館前の「慰安婦像」に拡大!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
日本の釜山総領事館前に置かれている「慰安婦像」(出所:釜山市議会)

 今月は日韓関係にとっては「運命の月」でもある。

 「安倍首相謝罪像」の設置問題に加え、韓国のWTO提訴、韓国が候補者を立てたWTO事務局長選挙、韓国が取り消しを求めた世界遺産登録問題、韓国の「G7」参加問題、元徴用工らによる日本企業の資産売却(現金化)問題、さらにGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)破棄の再燃など難題が集中しているからだ。

 冬季五輪(2018年)の開催地である江原道・平昌の植物園に設置されている慰安婦を象徴する少女像の前で跪き、謝罪する安倍首相に酷似した像(謝罪像)については菅義偉官房長官が前面に出て「日韓関係に決定的な影響を与えることになる」と怒ったが、結局のところ、一昨日(10日)予告していた除幕式は行われなかったものの「謝罪像」は撤去されず、展示されたままとなっている。

 民間人が自費で自分の植物園内に建てていること、即ち公共物、公共施設ではないこと、園長が「謝罪している人物は安倍総理ではない」と掌を返して否認したこと、さらには「表現の自由に関わる問題」などもあって日韓両政府も対応に苦慮しているようだが、同じ像でも今度は別な次元の問題が浮上している。韓国第2の都市,釜山市の日本総領事館付近に無許可で設置されていた慰安婦少女像について管轄地区の東区が一昨日、「安倍糾弾釜山市民行動」と名乗る市民団体が求めていた少女像の道路占用許可を4日に承認したと、発表したのだ。

 東区の承認から2日後に丸山浩平総領事が同区庁を訪れ、チェ・ヒョンウク区長に区の許可は公館の安寧と威信の保護を定めたウィーン条約に反するとして、また日韓関係を棄損しかねないとして撤去を求めるのは至極当然だった。ウィーン条約(22条)には「各国政府は外国公館の安寧の妨害と威厳の損傷を防止するためあらゆる措置を講ずる特別な責務がある」と規定されているからだ。これに対してチェ区長は「合法的な手続きによって承認されたので撤去はできない」として、法を盾に丸山総領事の要請を拒否した。チェ区長は与党「共に民主党」系の区長である。

 釜山の少女像は2016年12月に交わされた「日韓慰安婦合意」に反対した釜山市の市民団体が建てたもので当初は釜山市当局によって撤去されていた。しかし、昨年9月に釜山市は道路占用許可及び占用料(86万ウォン)徴取条例を改定し、歴史的事件を記念する銅像・造形物の道路占用許可を対象に含めた。今年6月29日には「日帝下日本軍慰安婦被害者支援及び記念事業に関する条例を一部改定する条例案」が通過し、少女像の占用料も免税された。

 8月15日(光復節=解放記念日)を前に区当局から「合法的な彫刻像」として認定されたことで気勢を上げる市民団体は昨日、日本総領事館の後門前で緊急記者会見を開き、「少女像は市民の力で創り、国内法に従って道路占用が承認されたものである。総領事が承認取り消しを求めるのは明白な内政干渉である」と総領事館を批判する声明を読み上げていた。

 こうした事態を受け、韓国の国土交通部は少女像を合法化する条例を改定した釜山市議会を相手に「釜山の少女像条例は法令に違反する」として大法院(最高裁)への提訴を示唆した。表面的には釜山市の該当改定案が道路法に違反していることを理由に挙げているが、8月15日を前に日本との関係をこれ以上、悪化させるのは好ましくないとする韓国政府の判断が働いたのではないかとみられている。

 本当に日韓関係の更なる悪化を危惧したのか、それとも日本政府への配慮なのか、あるいは単なるポーズなのか、実際に先月15日に「釜山広域市日帝下日本軍慰安婦被害者支援及び記念事業に関する条例の一部改正条例案」が公表された翌日には国土交通部は「条例案は道路法に反している」として大法院の法理的検討が必要であるとの公文を市議会に送っていた。市議会が公文を無視したことで国土交通部は数日内にも正式に市議会を提訴するものとみられている。

 釜山市議会に対しては国土交通部だけでなく、女性家族部、行政安全部、外交部など政府機関から自制を求める要請が行われていたようだ。にもかかわらず、改定案を上程したキム・ミンジョン市議会議員(「共に民主党」所属)は「改定案を破棄する考えはない。たかが道路法なのに様々な政府機関からどうのこうの言ってきているのをみると、政府は日本との外交関係を気にしているようだ。法的検討については市議会としても徹底的に準備する」と一歩も引かない構えだ。

 仮に、大法院で争われたとしても、国土交通部は「占用料は道路法に違反している」として異議申し立てをしているため少女像の移転まで強制することはできないとみられている。また、少女像に占用料を付加するような大法院の判決が出れば、市民社会の大きな反発も必至である。

 市民団体は記者会見で「韓日関係の悪化の責任は少女像にあるのではなく、真の謝罪をしない日本にある」と声高に叫んでいたが、安倍政権は2016年の時は「釜山総 領事館前の慰安婦像の設置は日韓合意に反する」と怒って、翌年(2017年)1月9日に大使と釜山総領事を帰国させる措置を取っている。

 当初は「韓国が解決に向けて誠意を示さない限り帰任させない」と強気一辺倒だったが、日韓慰安婦合意のパートナーであった朴槿恵前大統領が罷免されたこと、それに伴う大統領選挙が早まったこと、さらには北朝鮮による核実験やミサイル乱射による安全保障上の脅威に対処するため3か月後には帰任させている。

 今回は二つの像に対して安倍政権はどのような報復措置を取るのだろうか?

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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