金正恩委員長が「イラン軍司令官殺害」後に潜伏せずに出てきた!

肥料工場を視察した金正恩委員長(労働新聞から)

 北朝鮮の朝鮮中央通信は今朝(7日)、金正恩委員長が「肥料工場の建設現場を視察した」と報じた。視察はおそらく、昨日あったのであろう。

 韓国のメディアの一部は米軍が無人機を使ってイランの精鋭部隊、革命防衛隊のスレイマニ司令官を殺害したことから、金委員長は警戒して、当面は公の活動を控えるのではとの憶測記事を流していた。特に昨日付の「朝鮮日報」に至っては、恒例の元旦の錦繍山太陽宮殿参拝写真を今年は公開しなかったこともあって「米国の斬首作戦に北朝鮮沈黙 金正恩5日間も外出せず」との見出しさえ掲げていた。

 配信された10枚の写真を見る限り、金委員長の随行者に軍人は誰一人いなかった。金才龍総理を含め8人全員が党幹部や経済部門の関係者だった。警戒している素振り、気配は全く感じられなかった。繕っているのかもしれないが、余裕綽々の表情をしていた。

 冷静に過去7年間の金正恩委員長の仕事初めを詳細にチェックしておけば、「朝鮮日報」は「ミス」を防げたはずだ。

 金正恩体制になった2012年は1月2日に音楽鑑賞、13年は1月17日に病院視察、14年は1月6日に水産関連視察、15年は1月2日に育児院視察、16年は1月5日に軍部隊訓練指導、17年は1月5日にカバン工場視察、18年は1月11日に国防科学院訪問、そして昨年19年は1月8日に訪中している。

 過去8年のうち13年と18年を例外に8日までには表舞台に出てきている。スレイマニ司令官殺害(3日)からまだ3日も経ってないのに「警戒して潜伏?」の推測記事はあまりにも早すぎる。

 そもそも、金委員長はイランと違い、米国に対してまだ何もしていない。テロ行為も破壊行為も、まして米国が定めたレッドラインも越えていない。年末の党中央委員会総会で米国に対する対決姿勢を打ち出しただけである。「直ちに我が人民が受けた苦痛と抑制された発展の代価をきれいに全て受け取るための衝撃的な実際の行動に移る」とか「米国は直ぐに我々が保有する新たな戦略兵器を目撃することになるだろう」と言ったもののまだ行動には移していない。従って、仮に潜伏するとすれば、行動に出た後のことだろう。

 これまた、過去の事例を見れば、一目瞭然である。

 父親の金正日総書記の場合は、ブッシュ政権下の2003年5月に50日間も公の場に姿を表さなかったことがあった。

 北朝鮮をイラク、イランと並び悪事の枢軸国と名指ししたブッシュ政権下の2013年1月に北朝鮮がNPT(核不拡散条約)から脱退するやブッシュ大統領は翌月訪米した中国の江沢民主席(当時)に対して「外交的に解決ができなければ、軍事攻撃を開始せざるを得ない」と伝えたことで北朝鮮が身構えたことは周知の事実である。

 結局、ブッシュ政権はこの年は北朝鮮ではなく、3月にイラクを攻撃し、サダム政権を崩壊させ、2か月間で「イラク戦争」を終わらせたが、勢いに乗ったブッシュ政権からは「次は北朝鮮」との声が公然と叫ばれたのも公然たる事実である。

 実際にライス大統領補佐官が「北朝鮮への武力行使は排除しない」と述べ、また、ブッシュ大統領自らも「暴君による暴政を終息させる」とか「新たな時代の攻撃目標は国家ではなく、政権である」と金正日政権の転覆を狙った発言をしたこともあって、金正日総書記はイラク戦終了後の5月から50日間も公開活動を控えざるを得なかった。

 しかし、その一方で北朝鮮は「イラクは核を持ってないから攻撃された」との「イラク戦」からの教訓で核とミサイルの開発に拍車を掛け、翌2006年7月に人工衛星と称して事実上の長距離弾道ミサイル「テポドン」を、そして10月には史上初の核実験に踏み切った。いずれも、ブッシュ政権にとっては「許しがたい行為」であったことから警戒した金総書記はこの時もそれぞれ40日間、25日間と雲隠れをせざるを得なかった。

 北朝鮮にとっての過去の教訓は、米国の攻撃を警戒し、身辺警護には細心の注意を払うものの一日も早く、米国が手を出せないような報復手段を手にすることにある。このことはトランプ政権がシリアを巡行ミサイルで空爆した年(2017年)に潜水艦弾道ミサイル(SLBM)、SLBMを地上型に改良した「北極星2号」、さらにはIRBM級の新型ミサイル「火星12号」、準ICBM級の「火星14号」、そして最後はICBM級の「火星15号」の発射実験を行っただけでなく、6度目の核実験、それも水爆実験を行ったことからも明らかだ。

 トランプ政権の今回のイランへの対応は党中央委員会総会での「米国の対朝鮮敵視政策が撤回され、朝鮮半島に恒久的で強固な平和体制が構築されるまで国家安全にとって必須かつ先決的な戦略兵器開発を中断することなく力強く行っていく」ことの北朝鮮の決定を皮肉にも正当化させることになったようだ。

 北朝鮮の予告どおり、米国は直ぐにでも北朝鮮の新たな戦略兵器を目撃することになるのではないだろうか。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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