Yahoo!ニュース

米メディアの「金正恩はトランプを欺いている」報道を検証する

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
握手するトランプ大統領と金正恩委員長(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 トランプ大統領は5日、遊説のため移動中の大統領専用機で「北朝鮮が核・ミサイルプログラムを隠蔽しているのでは」との記者の質問に「北朝鮮は8か月間、ミサイル発射も、核実験もしていない」と述べたうえで、「金正恩委員長は北朝鮮の未来をみている。それが事実であることを願う。事実でなければ、我々は他の道に戻る」と答えていた。

 トランプ大統領は「彼と握手した時、とても印象が良かった。我々は気が合った。我々はお互いを理解している」と述べ、金委員長への信頼を寄せていたが、米議会のみならず、国家安全保障会議(NSC)や国務、国防省内でも「北朝鮮は信じられない」「トランプ大統領は騙されている」との声が大勢を占めているのが現状だ。

 その理由は、トランプ大統領とポンペオ長官の対北融和路線に不満を抱く強硬派が「金正恩は何ら変わっていない」ことを強調するため意図的に情報を流しているとの見方もあるが、米国の主要メディアによる「北朝鮮は核兵器と主要核施設の隠蔽を図っている」との相次ぐ報道に起因しているようだ。

 過去一週間の報道をチェックすると、まず6月29日にNBCの「米国を騙そうとする(北朝鮮の)取り組みが続いている」との報道があり、続いてワシントンポストが翌30日に「北朝鮮には完全に非核化する意図がなく、米朝首脳会談以後にも核弾頭および関連施設を隠そうとしていると国防情報局(DIA)は判断している」とNBCと同じネタ元(DIA)を引用し、報道していた。

 これにウォールストリートジャーナルも7月1日に参入し、ミドルベリー国際学研究所傘下の非拡散研究センターによる最近の衛星写真分析結果として今年4月まで咸興の核心ミサイル製造施設には新たな建物がなかったのに米朝首脳会談が開かれる間に「固体燃料弾道ミサイル工場の外部工事が完了した」と報じた。翌2日には今度はCNNが「DIAは金正恩が現時点では完全な非核化プログラムに参加する意図がないと判断している」と報道していた。

 さらに、権威ある外交専門メディア「ディプロマット」も2日、最近の米軍事情報評価結果を引用して「北朝鮮は今年上半期、新型弾道ミサイル用の支援装備と発射台を生産してきた」との記事を掲載。「新型弾道ミサイル」とはSLBM(潜水艦弾道ミサイル)を地上型に改良した準中距離弾道ミサイル(MRBM)「北極星2型」を指す。

 直近では米政府系メディア「自由アジア放送」が5日、平安北道の東倉里発射場を撮影した最新衛星写真を分析した対北専門媒体である「38ノース」の分析官の言葉を引用し「ミサイル発射場、ミサイル組立施設、燃料バンクなどはそのままあり、解体の兆候はない。むしろ、発射場の東側に隣接した場所に新たな建物が建てられていた」と、東倉里発射場の現状を伝えていた。

 一連の報道を整理すると、核兵器隠蔽を試み、ミサイル開発を続けていることからして金正恩政権には核・ミサイルを放棄する意思は毛頭なく、結果としてトランプ大統領は金正恩委員長に騙されているとの結論が導き出される。

 米朝首脳会談で発表された共同声明の2項目に「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向け、努力する」ことを約束していた。核についての言及だけで、ミサイルについては触れてもなければ、約束もしてない。

 報道されているように核兵器の隠ぺいが事実ならば、明らかに共同声明に反し、金委員長はトランプ大統領を欺いたことになる。また、核施設の封印、凍結を公言、約束していたならば、明らかに背信行為にあたる。しかし、北朝鮮は咸鏡北道の吉洲にある核実験場の爆破・閉鎖を公言しただけで、核施設である原子力発電所や軽水炉の稼働中止についてはまだ公言もしてなければ、約束も交わしてない。唯一、核実験場の爆破だけは実際にそれを行動で示した。

 常識に考えて「朝鮮半島の完全な非核化に向け、努力することを約束した」ならば、その意思表示、あるいは誠意の表れとして核施設の稼働を中止するのが筋である。北朝鮮はおそらく今後、北朝鮮が求めている米国の見返り(体制保障)とのバーター取引のカードに使うつもりなのだろう。

 問題のミサイルについてはトランプ大統領が「金正恩がミサイルエンジン実験場の閉鎖を約束した」と、記者会見の場で語ったのがすべてだ。

 北朝鮮にはミサイルエンジン実験場は何ヵ所かある。そのうちの一か所は平安北道・亀城にあるが、ここは「38ノース」が商業衛星写真の分析に基づき確認したところ、実験用発射台などが撤去されたようだ。亀城からはこれまで沖縄の米軍基地を狙った「北極星2型」やグアムを射程に収めた中長距離弾道ミサイル「火星12型」、それに米国の西海岸に届く長距離弾道ミサイル「火星14型」が発射されていた。

 しかし、北朝鮮が全ての弾道ミサイル発射台を撤去したという話ではない。「火星14型」は中国との国境に近い慈江道・舞坪里からも発射されており、また昨年11月29日に発射された東海岸に届くICBM「火星15型」は平安南道・平城から発射されている。

 北朝鮮はエンジンの実験中止を約束しただけで、すべてのミサイル発射場の閉鎖を約束したわけではない。まして、北朝鮮が人工衛星発射場と主張している東倉里発射場の撤去は簡単ではない。

 北朝鮮は今年4月20日に開催された党中央委員会総会で「4月21日から核実験やミサイル発射を中止する」と宣言したが、人工衛星の発射については言及しなかった。東倉里発射場の撤去は「自主権の行使」と位置付けている人工衛星発射の断念、即ち「国家宇宙開発5か年計画」の放棄を意味する。

 どうみても、見返りを得ないままの一方的なミサイル発射場の解体、撤去は考えにくい。ちなみに、金正日政権は2000年にミサイル問題でクリントン政権と交渉した際、ミサイル開発を中止する条件として3年間で30億ドルの支援を要求し、人工衛星については「米国が代わりに打ち上げてくれれば、発射しない」との条件を提示していた。

 ポンペオ国務長官は今日(6日)平壌に入り、北朝鮮の非核化に向けて具体的な協議に入る。核・ミサイル問題で合意(取引)が交わされるのか、その一点に注目したい。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事