米韓連合軍vs北朝鮮人民軍 危険な「先制攻撃」応酬

史上最大規模の米韓合同軍事演習が始まった。北朝鮮は即座に国防委員会の声明を出して、「全面的に対応するため総攻勢に進入する」と、例年以上に猛反発している。

北朝鮮が素早い反応を示すのは、演習に昨年よりも2倍も多い1万5千人の米軍と同じく1.5倍の韓国軍29万人が動員され、原子力空母や原子力潜水艦、B-2ステルス爆撃機、F-22ステルス戦闘機など最先端の戦略兵器が大挙展開されるからだけではない。「5015」というコードネームの作戦計画に基づいて北朝鮮の核・ミサイル基地への攻撃に加え、首都平壌の攻略と金正恩第一書記ら最高司令部の除去に向けた上陸作戦も含む全面戦争をも想定した攻撃的な訓練が実施されるからだ。

「5015作戦計画」には具体的には▲Defence(防御)、Detect(探知)、Disurupt(かく乱)、Destory(破壊)の「4D作戦」の遂行▲西海5島や特定地域に対する北朝鮮の挑発の際の米韓連合軍の強力な対応(挑発の度合いによっては、一気に武力統一する)の他に▲北朝鮮に核兵器使用の兆候が見られた場合、先制攻撃だけでなく、「斬首作戦」も遂行し、核兵器承認権者(金正恩第一書記)を除去し、核兵器の使用を防ぐ――ことなどが盛り込まれる。また、作戦計画には北朝鮮から核・ミサイル発射の兆候が見られた場合、30分以内に先制攻撃するという韓国軍の「キルチェーン」の概念も反映されている。

米韓連合軍は北朝鮮による核・ミサイル攻撃前に予め軍事的に対応し、被害を予防することは先制攻撃ではなく、自衛権に基づく対応とみなしている。「挑発の兆しがあれば」との前提条件は付けているものの人の喧嘩に例えるなら殺気を感じれば先に手を出して叩いてしまうという概念だ。

朝鮮半島有事の際の「先制攻撃」は朝鮮戦争休戦以来の米歴代政権の選択肢の一つであった。近年でもクリントン政権からブッシュ政権、そして今のオバマ政権に至るまで北朝鮮の南侵や核・ミサイル開発を阻止するオプションとして排除していない。しかし、そのための作戦計画を練り、演習に取り入れ、着手したのはここ数年のことである。オバマ政権は「韓国を防御するためには軍事行動もためらわない」との立場にはあるが、当初は「先制攻撃」には慎重な立場だった。

しかし、米本土の脅威となる北朝鮮の核ミサイル開発、実験をいつまで放置するわけにはいかない。北朝鮮が核やミサイル発射の実験を繰り返せば、北朝鮮が米本土に届く核ミサイルを保有するのは時間の問題である。それでなくても、すでに同盟国の韓国及び日本が脅威にさらされている以上、脅威を未然に取り除く手段としての自衛権の行使、即ち先制攻撃が検討されたようだ。

米韓の「5015作戦計画」に危機感を抱く北朝鮮も米韓合同訓練が始まる前から朝鮮人民軍最高司令部の名による重大声明(2月23日)で金第一書記ら指導部及び平壌を攻撃対象とする米韓の特殊作戦武力と作戦装備がちょっとでも動いた場合、「先制攻撃を行う」として、「第一次攻撃対象を青瓦台(大統領府)と統治機関、第二次攻撃対象をアジア太平洋地域の米軍基地と米本土とする」と目には目の対応を打ち出した。

北朝鮮の牽制はさらに過激化し、米韓合同軍事演習スタートの日に合わせ、今度は最高権力機関の国防委員会が▲米韓合同軍事演習の開始と共に総攻勢に進入する▲合同軍事演習が露骨な核戦争挑発であることから我々の軍事的対応もより先制的で攻撃的な核打撃戦となると威嚇した。

北朝鮮が「先制攻撃」を言い出したのは数年前からで「先制攻撃は米国の専売特許ではない」として、一昨年夏の米韓合同軍事演習(フリーダム・バンガード)では人民軍総参謀部が北朝鮮への先制打撃を目的とした演習が行われるならば「我々も強力な先制打撃で対応する」との声明を出していた。地雷事件で米韓と一触即発となった昨年8月も「我々式の最も強力な先制攻撃が任意の時刻に無慈悲に開始される」と人民軍総参謀部報道官談話で触れていた。

軽視できないのは、国連の制裁決議が採択されたその日に韓国の軍事基地を標的とする300mm新型大口径放射砲(射程200km)の発射に立ち会った金第一書記自らが「(我が)首脳部と体制崩壊を企てる斬首作戦を騒ぎ立て、特殊作戦武力と核殺人装備を我々の目と鼻の先に突き付けている以上、我々の軍事的対応は不可避となった。これからの(我々の軍事対応)は先制攻撃にすべてシフトする」と命じ、信じ難いことだが「国家防衛のため実戦配置した核弾頭を任意の瞬間、発射できるよう常に準備せよ」と訓示していたことだ。

国連の制裁決議に対して北朝鮮は「米国の敵視政策が続く限り、これからも核とミサイルを質量ともに強化する」と宣言している。宣言した以上、これからも核やミサイル発射実験を繰り返すことになる。そうなれば、北朝鮮に対する国連の制裁は一段と強まり、良くて兵糧攻め、へたをすると、海上封鎖を含む軍事制裁も避けられない。そうなった場合の北朝鮮の限られた選択の一つは「暴発」、即ち先制攻撃しかない。

シャープ前駐韓米軍司令官は現職時の5年前、韓国の与野党国防委員らとの懇談会で北朝鮮の軍事力を世界4位(韓国は8位)と評価していた。世界1位の米国と4位が全面戦争となれば、どうなるのか。

カーティス・スカパロッティ現駐韓米軍司令官は2月24日、米下院軍事委員会聴聞会で証言し「朝鮮半島での北朝鮮との衝突は第2次大戦に匹敵し、おそらく多くの死傷者が出るだろう」と予測していたが、問題は金第一書記に関する発言で、「自身の政権が挑戦を受けると考えれば、(金第一書記は)大量殺傷兵器を使うだろう」と言明したことだ。

「国家防衛のため実戦配置した核弾頭を任意の瞬間、発射できるよう常に準備せよ」との金第一書記の発言を韓国内ではハッタリに過ぎないと受け取る向きが多いが、米軍は決して楽観ししてないことがわかる。

「挑発すれば、先制攻撃も辞さない」と双方とも牽制しあうことで、これまでは微妙な軍事的バランスが保たれてきたが、いつもと違って危険なのは、相手の目つきが悪いだけで「殺気を感じた」として手を出しかねないことだ。相互不信が根強いだけに誤判は起こり得る。

「一発撃ってきたら、現場の判断で10発反撃せよ」(韓国)「ちょっとでも動いたら、徹底的に叩け」(北朝鮮)と睨みあっている状況下では偶発的な出来事や誤算がその引き金となりかねない。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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