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オバマVS金正恩 バトルの行方

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

オバマ政権の「戦略的忍耐」にもかかわらず、北朝鮮の非核化は遅々として進まない。核問題の外交解決に向けての6か国協議もブッシュ政権下の2008年12月を最後にオバマ政権下ではこの6年間、一度も開催されてない。

北朝鮮が音を上げないことに痺れを切らしたのか、それとも米国に対してサイバー攻撃を仕掛けたことに苛立ったのか、オバマ大統領は金正恩体制を「最も残酷で暴圧的な独裁体制」と酷評し、「結局崩れることになるだろう」と突き放してしまった。

この発言にカチンときた金正恩第一書記も「これ以上、狂犬と対座するつもりはない」と、オバマ大統領を「狂犬」呼ばりして応酬してみせた。米朝首脳によるバトルはブッシュ政権以来、実に10年ぶりのことである。

思えば、今から10年前の2005年4月、北朝鮮が核保有宣言するや、イラン、イラクと並ぶ北朝鮮を「悪の枢軸」とみなすブッシュ大統領は金正日総書記を「暴君」と呼び、「金正日のような暴君による暴政を終息させる」と世界に向けて公言した。これに対して、金正日政権も米国を「悪の総本山」とやり返し、返す刀でブッシュ大統領を「戦争狂信者」と罵った。

イラクのサダム政権を打倒し、勢いづくブッシュ大統領は「新時代の攻撃目標は国家でなく、政権である」と述べ、北朝鮮に対して武力制裁を示唆するや北朝鮮も「局地戦争には局地戦争で、全面戦争には全面戦争で応える」と応戦したことから半島情勢は一気に緊張し、武力衝突の可能性が取り沙汰された。

結局、ブッシュ政権下の米朝バトルは、売り言葉に買い言葉に終始し、お互い手を出すことはなかった。それどころか、不思議なことにバトルから一か月後には何事もなかったかのようにニューヨークで接触し、そして数か月後には6か国協議共同声明が交わされ、両国は何と「平和共存する」と宣言したのだ。

翌年には北朝鮮が核兵器を廃棄することを条件にブッシュ大統領は「朝鮮半島の平和体制構築に向け金正日総書記と朝鮮戦争の終結を宣言する文書に共同署名する用意がある」と言明している。「テーブルの上で悪ふざけするガキ」と扱き下ろしたのに一転「総書記」の敬称を付け、「会っても良い」と言い出したのだ。時間切れで、実現しなかったものの任期最後の年の2008年にはライス国務長官の平壌派遣も検討していた。

外交には表裏があるが、オバマと金正恩両人は困ったことにブッシュ―金正日よりもそりが合わない。全く噛み合わない。

北朝鮮は新年早々米国に核実験の一時停止を条件に米韓合同軍事演習の中止を求めたが、米国から無視されたままだ。それどころか、ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメントに対する北朝鮮のサイバー攻撃を「深刻な安全保障上の問題」と捉えるオバマ大統領は年初に北朝鮮に追加制裁を科し、また共和党が多数を占める上下両院でも「報復措置」として金融制裁を掛ける案が現在、討議されている。テロ支援国再指定の動きもある。

経済制裁を加える一方で、軍事面でもロサンゼルス級攻撃型原子力潜水艦「オリンピア号」を韓国の鎮海に入港させ、2月5日から3日間韓国軍との間で合同海上訓練を行い、北朝鮮に圧力をかけている。来月は予定通り、最大規模の米韓合同軍事演習が行われる。

北朝鮮は北朝鮮で昨年12月、今年1月と金第一書記の指揮の下二度にわたって米空母攻撃を想定した訓練を実施する一方、2月8日には日本海に向け単距離ミサイル5発を発射するなど威嚇する行動に出ている。昨年に比べて二週間も早い北朝鮮のミサイル発射は明らかに3月から始まる米韓合同軍事演習を睨んだ訓練であることは言うまでもない。

「剛対剛の対決」を憂慮した米国務省はオバマ大統領のユーチューブでの発言は「米国の公式見解でない」と述べ、ラッセル国務次官も「北朝鮮の変化が政権交代である必要はなく、ミャンマーのように平和裏に変化すれば良い」と釈明し、若干トーンをダウンさせたものの所詮、首脳同士が遣り合えば、実務者がいくら折り合いを付けようとしても結果は目に見えている。

案の定、日米韓6か国首席代表者会議(1月28日)に出席した米国務省のソン・キム対北政策特別代表が金桂寛外務第一次官に会談する用意があるので「北京に来るよう」打診したものの、北朝鮮は「話し合いたいなら平壌に来い」と言って、金外務次官の派遣を拒否してしまった。さらに北朝鮮は2月4日、国防委員会の声明を通じてオバマ政権に対して「もはや米国とは会って、話し合う気はない」と正式通告してしまった。

交渉の道が閉ざされたとなると後は、武力による脅しあいしかない。

北朝鮮は昨年、2月27日を皮切りに3月にかけて延べ9回にわたってミサイルなど90発、さらに6月から7月にかけて100発以上発射したが、射程4千キロメートルの中距離ミサイル「ムスダン」や大陸間弾道ミサイルの「KNー08」の発射は一度もなかった。

仮に米韓合同軍事演習に対抗して北朝鮮がグアムやアラスカを標的にしたムスダンや米本土に届く「KN-08」の発射実験を強行すれば、戦争一歩手前までエスカレートした2013年の「悪夢」が再現されるかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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