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避妊は女性だけの問題か?パイプカット、テストステロン注射、避妊用加熱パンツを考える男たち

プラド夏樹パリ在住ライター
フランス政府は来年から18歳から25歳までの若者を対象にコンドームを無償化(写真:イメージマート)

12月はじめ、マクロン大統領は、来年1月1日から18歳から25歳までの若者を対象に薬局で販売しているコンドームを無償化するとした。

その背景には、2000年代から政府が性的健康にかんする生活必需品を無償化してきたことがある。2006年から、コンドームの無償配布機設置が公立中学校・高校に義務付けられ、2018年からは医師の処方箋があれば、コンドームに健康保険が適用されるようになった。しかし、わざわざそのために医師の診察を受けに赴く人も少なく、非現実的な政策と批判され、来年からは若者を対象に処方箋なしで無償化となった。ちなみに、アフターピルも来年1月1日から、年齢に関係なく、また処方箋なしですべての女性に無償化される。

これまで通り「避妊は女性の問題」でいいのか?

ところで、ここフランスにおいて、避妊に関する意識は時代とともに変わってきている。

1970年代までは、人工中絶もピルも非合法だったため、コンドーム着用か膣外射精で避妊するかどうかは男性次第だった。しかし、「産むのは私なのになぜ彼に避妊をお願いしなきゃいけないの?」と考えた女性たちが「産むかどうかは私が決めたい」と言って世論を動かし、人工中絶(1975年)が合法化し、低用量ピルに健康保険が適用(1974年)されるようになった。

以来、初めての相手とのセックスではコンドーム、カップル関係に定着してからは女性がピル、これ以上子どもが欲しくない時は女性が避妊リングというケースが多くなった。つまり、避妊は「女性の問題」になった。

しかし、環境問題が切実なものとして感じられるようになった今、女性一人当たりの出産率が欧州一位のフランスでも、「こんな地球で子どもを産んで育てるか?」という思いは若者の間で切実なものになってきている。また、男女平等の意識に敏感な若い男性の間では、「彼女にだけ避妊を押し付けていていいのだろうか?分担すべきでは?」という声も上がってきており、「破損の可能性もあるコンドーム以外の男性避妊法の可能性」が、今、メディアで論じられている。

『男の避妊、最後のタブーに関する調査(原題Les Contraceptés: enquête sur le dernier tabou, Steinkis éditions,2021)』の著者、ギヨーム・ドーダン氏は自分の経験から出発してこう言う。

「3年前、パートナーが妊娠したのをきっかけに、今後の避妊法について二人で真剣に考えてみた。どの避妊法を選択するか、それは、二人で決めることで、彼女だけが担うことであってはならない。そこで、僕に何ができるか考えてみた」と。また、「多くの男性にとって生殖力がなくなることは、男らしさを失うことにつながっている。性欲が失せることを恐れる男性も多く、それが、結果的に、女性だけに避妊の責任を負わせることになっている」とも。

なぜか少ないフランスのパイプカット派

現時点で、健康省のサイトで、男性避妊として認められているのは、コンドーム、膣外射精、精管結紮術(パイプカット)のみだ。

しかし健康省の2021年調査によると、パイプカット手術を受けたのは男性人口の10%以下。日帰りでできる簡単な手術だが、初診に赴いたはいいが、その後になって諦める人も多いので、初診から手術までの間に4ヶ月間という長い熟考の時間が与えられる。オランダやカナダでは男性の15%から20%がパイプカットをしていることと比較すると、いったいなぜに?と問わずにはいられない。健康省の努力不足なのか、あるいは、生殖力=男らしさという古典的な図式が、この国では、まだ根強いのかもしれない。

しかし、他にも男性の避妊方法はあるらしい。1980年代、フェミズム運動に刺激された男性たちが、「男性避妊の研究会」(Ardecom)を作り、いろいろな実験をしていた。

週一でテストステロンエナント酸を注射

その一つが、1週間に一回テストステロンエナント酸を注射して、精子を減少させる方法だ。自分でできる注射で、10ユーロ(140円相当)のみ。しかし、完全に生殖する可能性がなくなるまでに3ヶ月はかかること、また、生殖力を取り戻すのにも3ヶ月かかることが男性に「面倒臭い」と言わせてしまうらしい。

世界保健機関(WHO)は、9カ国401カップルの男性に2年間にわたってテストステロンエナント酸注射臨床試験を行った結果を1996年に発表したが、それによるとによると、この避妊法は98.6%確実ということだ。しかし、注射の継続期間は18ヶ月のみ、心臓病・がん・肥満などの症状がない25歳から45歳の人を対象に、また必ず医師の診断を受けてと、仏国立薬品安全局は注意を促している。

加熱避妊法

もう一つは「加熱避妊法」で、睾丸を、37.5度に温めると精子が形成しにくくなることを利用する方法だ。暖かくなる「避妊パンツ」を1日のうち15時間は着用しなければならない。下記はこの「避妊パンツ」を自分で作る講習会の模様だ。

こちらも効果が現れるのは3ヶ月後である。世界保健機関(WHO)からも健康省からも認証されていないが、フランス泌尿器科医団体は「確かな避妊法」と認めている。前述した『男の避妊、最後のタブーに関する調査』の著者ギヨーム・ドーダン氏は、この2つの避妊法を実際に自分で試してみた上で、「慣れてしまえば簡単。性欲の低下もなかった。面倒なのは、精液検査を頻繁にしなければいけないことだけ」と言う。

しかし、いったいなぜ、男性用ピルの開発研究はなされているのに、いまだに市販されていないのか? 2012年、アメリカの研究者Regine Sitruk-Ware氏は「男性用ピルの開発研究は大きな成果をあげました。しかし、薬品会社が積極的ではない」と言っており、2022年の今も市販されていない。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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