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フランスで生理用品の無償化がテストされた。

プラド夏樹パリ在住ライター
女性の1/10が「経済的な理由で生理用品を使用できないことがある」と言う(写真:アフロ)

スコットランドやイギリスで女子中高生、学生への生理用品の無償化が始まっている。日本でも、10月初めに渋谷で月刊誌「SPUR」が生理ナプキンを配布するキャンペーンを行ったと聞いた。

そして、遅ればせながら、フランスでもマルレーン・シアパ男女平等大臣が、女子中高生・女子学生・受刑者・ホームレスを対象にした生理用品の無償化を提案している。10月17日、その第一歩として「生理用品の無償化に関する報告書」が発表された。リール大学やカーン大学、その他の場所で無償配布をテストし、「生理貧困」、つまり経済的理由から生理の手当が充分にできない女性がいるという実態について調査した結果である。

女性の10%が生理用品を購入できない状況に

2019年3月に発表されたIFOP(フランス世論調査研究所)の統計では、女性の1/10が「経済的な理由で生理用品を使用できないことがある」と、また低所得者の39%が「生理用品が足りないと感じることがある」と答えているそうだ。

では、彼女たちは、どうしているのか?

トイレットペーパーや新聞紙で手当を済ますという応急処置をとるという人が多いらしいが、これでは衛生面でも健康面でもダメージが大きい。また、「生理用品を買ったから、食事抜き」という人もいれば、「生理用品がないから学校を休んだことがある」と言う中高生は12%にのぼる。

しかし、無償化すればそれで問題は解決するというわけではないらしい。

リール大学でなされた無償配布の結果によると、貧困女性ほど自分からサービスを利用しないということだ。これには、まず、インターネット接続が悪い地域に住んでおりサービスの存在を知らない、あるいは、知人や友人のネットワークが狭く情報が行き渡っていないなどの理由があるだろう。また、「生理」と「貧困」という近年まで公言することが難しかった問題を2つも抱えることでますます社会から疎外されてしまう、無償配布をしている場に行くことを恥ずかしく思ったり、ためらってしまうということがある。

高額な生理用品を買わざるを得ない受刑者たち

また、今回の報告書では、繰り返し使用できるので経済的にも環境的にも優れていると言われている生理カップが、ホームレス女性への無償配布には適していないということがわかった。(2012年の統計を参考にするとフランスには約14万人のホームレスがおり、そのうち男性と閉経した年頃の女性を除いても、約4万人の生理がある年頃の女性ホームレスがいる。ちなみに、現在、ホームレスは20万人に増えている)

フランスに旅行に来た人ならばわかるかもしれないが、無料で利用できる公衆トイレが少ない。つまり、使用済みカップを洗う清潔な場所が少ないので、ホームレス女性には使いにくく、戸外で素早く手当を済ませるならナプキンの方が利用価値はずっと高いのだ。

また、受刑者も「生理の貧困」にさらされている。私は、生理用品など刑務所では無償配布されているのだろうと思っていたが、彼女たちは刑務所内の売店で生理用品を買わなくてはならないらしい。そしてその価格は、大型安売りスーパーマーケットでの値段の2倍から4倍と言うから驚きだ。

生理に対する社会の眼差しを変えるためには、男子にも生理について教育を

初潮が訪れるのが11歳から14歳の間、平均13.1歳。閉経するのは45歳から55歳にかけてで平均して51歳。つまり女性には一生の間で平均して39年、約500回ほど生理が訪れる。

では、生理用品にかかる費用はどれほどか?いくつかの数字が挙げられている。

イギリスのメディアでは随分前から「生理の貧困」について報道している。2015年にHUFFPOSTが報道したところによれば,生理手当のために女性が一生の間に出費する額は18,500ポンド(約258万円)。ただし、これは生理用下着から鎮痛剤、生理中にイライラを紛らわすために購入したDVDや雑誌までも含んだ額だ。

その後、2017年、BBCが報道したところによると、一生で1,550ポンド(約20万円)。

フランスのル・モンド紙では今年7月に統計を取ったところ、約3,800ユーロ(約45万円)という結果が出た。鎮痛剤、診療費、下着の購入などを入れると、年間で約100ユーロから150ユーロ(1万2千円から1万8千円)と計算している。ちなみにナプキンとタンポンの消費税は2016年まで20%だったが、現在5.5%だ。

たかだか1ヶ月に10ユーロちょっとじゃないか、と言う人もいるかもしれない。

しかし、生理はその人の所得額に関係なくやってくる。富裕層に10ユーロは安いが、貧困層にはキツイ。中高生の娘3人を抱えた非正規雇用のシングルマザーにとっては、大きな出費になるではないか。

この報告書の中で、無償化の予算は、刑務所で年に79,000ユーロ、ホームレスや貧困者、女子学生、中高生を対象に320,000ユーロと見積もられている。

しかし、予算さえ大きければ良いという問題ではない。「生理の貧困」に直面する人々が臆することなく無償サービスを利用することができるようになるためには、「生理に関する社会の眼差し、生理イコール恥という刷り込みを変えることが重要」とシアパ大臣は言う。そのために、「教育大臣と協力して、小学校の高学年から、女子だけではなく男子にも生理の仕組み、手当の面倒さ、精神的・身体的影響について話すようにしたい」と語っている。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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