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仏警察、目を潰すフラッシュボールの使用をやめろ!つのる市民の怒り

プラド夏樹パリ在住ライター
1月12日、黄色いベストのデモ9週目。手前の警官がフラッシュボールを手にしている(写真:ロイター/アフロ)

1月19日で第10回を迎えた黄色いベスト運動。約8万人が参加し、当初のゲリラ戦ではなく、あらかじめ警察にルートを届け出て、機動隊との乱闘を避けるために整理係を配置するデモだった。従来の労働組合が組織するような穏やかな雰囲気だった。

日本では、昨年12月1日に凱旋門の一部を破壊したデモ隊側の暴力の他、元フランスチャンピオンのプロボクサーが機動隊をKOした事件などが多く話題になったようだ。

治安維持? 警察暴力の行き過ぎ

しかし、フランスでは、ここ数週間にわたって市民たちは警察側の暴力に怒りをつのらせている。今回のデモでは多くの人々が、「頭を狙うな!」などと書いた警察暴力を訴えるプラカードを持っていた。

私が、警察暴力を自分の問題として意識するようになったのは、わが息子が今月12日、第9回目のデモに参加してからだ。彼の話では、凱旋門の周縁地帯は機動隊に包囲されていたが、危険物を持っていないかどうか警察のコントロールを受ければ中に入ることができたという。ただ、その時、水中メガネを没収されたため、催涙ガスを浴び、さすがに身の危険を感じて戻ろうとした。ところが、今度は、機動隊が出してくれない。要するに、凱旋門周囲に入ることはできるが、一度、入れば、出してもらえるのは2人ずつ。催涙弾やフラッシュボールが飛び交う中で散々待たされ、ようやく、出してもらったというのだ。ゴム弾があたり血を流して倒れているおじいちゃんデモ隊なども見かけたと言う。

ところで、警察が使用するゴム弾を発射する武器、フラッシュボール(注1)の使用を取りやめるように嘆願する署名運動が起きている。実に危険な武器で、警察側は正確な数字を発表していないが、Le Parisien紙http://www.leparisien.fr/faits-divers/manifestations-des-gilets-jaunes-pres-de-10000-grenades-lancees-a-paris-02-12-2018-7958952.phpによれば12月1日だけで776弾が使用されたとのこと。非常に危険な催涙弾GLI-F4榴弾の方は339弾。散水機で撒かれたのは14万リットル。

(注1)仏警察は、2016年以前はVerney-Carron社の商品名フラッシュボールを使用していたが、その後、徐々に、Brugger&Thomet社の同類商品LBD40mmというより正確に狙撃できる武器を使用。本稿ではフラッシュボールに統一しました。)

目に当たれば失明は確実

このフラッシュボールは、フランスでは、1990年代頃から群衆の治安維持のために導入された。棍棒と銃の中間にあたる武器で、警察の正当防衛のためにというのが表向きの使用目的だ。「殺さず、傷つけず、15mの至近距離で敵を撃退できる」というのは発明者のピエール・リシェ氏の言だが、実際には片眼を失った人、顎が吹っ飛んだ人、頬の肉が削げた人、歯と歯茎がなくなった人など、負傷者、それもただデモの写真を撮影していただけなのに負傷したという市民が増加している。フラッシュボールのゴム弾は180ジュール(プロボクサーのパンチがおよそ100ジュール)の速度で発射され、目に当たれば失明は確実、そのほか、鼻の骨、耳、額も潰れる。次はテレビ局フランス3オクシタニーで報道されたフィルムである。

では、警察側は、この武器を使うのに厳格な訓練を受けているのか?

ところが、なんと3年ごとに6時間、それも不動の標的だけを使ってというお粗末な訓練のみである。それでは、実際のデモで動く標的を相手にしていては誤射も多いだろう。2014年の警視庁は「上半身か下半身、頭部と生殖器は狙わない」と支持しているが、実際には頭部を負傷する人の数が圧倒的に多いので、故意に狙っているとしか考えられない。14日付けLiberation紙によれば94人の負傷者(女性10人)のうち、73%がフラッシュボールによる負傷で、ほとんどが頭部を狙われ、14人が目を失っている。

武器なしでは治安維持できないのはフランスだけ?

ところで、フランスでは2000年からサッカーの試合会場で暴れる暴徒フーリガンの騒動や反グローバリゼーション運動の鎮圧のために、警察が必要以上に武装化するようになった。欧州で警察がフラッシュボールを使用しているのはフランスのほか、ハンガリー、スペイン、ポルトガル、スロヴァキアと少数。GLI-F4という催涙榴弾を治安維持に使用するのはフランスのみhttps://www.liberation.fr/checknews/2018/11/21/la-france-est-elle-le-seul-pays-autorisant-les-forces-de-l-ordre-a-utiliser-des-grenades-comme-l-a-d_1693340。他国が武器なしで治安維持しているのにフランスではできないのはいったいどうした訳か?

デモに参加するのは市民の権利である。こちらでは、高校生の頃からデモに参加するのが普通で、それは、政治教育のために必要なことだ。子どもたちがデモに行って、片目になって帰ってくるというのでは我慢がならない。

今週末、26日の黄色いベスト運動では、機動隊は胸にビデオカメラを付け、武器を使用する際にはカメラのスイッチをONにしてデモ隊の暴徒化を撮影することになったとか。しかし、撮影するかどうかは本人の意志、あるいは上司の命令に任せるということだから、果たしてどれほどの効果があるのだろうか?

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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