保護者が学校のカーテン洗濯やトイレ掃除 傍から見た非常識が「当たり前」になる理由
先日、関西発のニュースサイトに「学校のカーテンをPTAが洗っている」という話が掲載され、SNS上では「そんなことまで親がやるのか!?」といった驚きの反応が多く見られました。
この「PTAによるカーテン洗濯」、筆者は取材でたまに聞くことがありますが、やはり比較的めずらしいパターンでしょう。筆者も経験したことはありません。
同記事は「神戸市の公立小中学校は土足」という話にもふれており、これは筆者も初めて聞いたので驚きました。現地の友人(『PTAのトリセツ』著者・今関明子さん)に尋ねたところ、やはり子どもの頃から上履きがなく、「下駄箱はドラマの世界だと思っていた」とのこと。
このように、一部(地域)のみの学校やPTAで行われる変わった風習(やり方)は、おそらく全国にいろいろとあるのでしょう。
レアではありますが、ほかにも「PTAが学校のトイレ掃除をする」「PTA役員が各クラスの児童名簿作成を代行している」(言うまでもありませんがいろいろと問題があります)、などの話も聞いたことがあります。
ただし、そういったことを「おかしい」と思うのは、他地域(出身)の人間です。ずっとそこにいる人は何とも思っておらず、それを「当たり前」と思いがちです。
なぜなら、「それ以外」を知らないからです。これは虐待を受けて育った人が、よく「小さいときはこれが当たり前(よその家も同様)だと思っていた」というのと似ているかもしれません。家庭も学校も、(多くの)子どもにとっては唯一のものだからです。
たとえば筆者が住む地域では、PTAがよく学校集金業務を部分代行しているのですが、疑問を感じている人はそう多くありません。「PTAがやる」以外の選択肢があるということに、皆気付いていないからです。
筆者もはじめは「そんなものか」と思っていましたが、他地域の人から「えっ! PTA会費だけじゃなくて、学校のお金(給食費や学級費等)までPTAが集めるの!?」と驚かれる経験を何度か繰り返してようやく、「これは“当たり前”ではないんだ」と気付かされました。
「カーテン洗濯」や「学校集金代行」などだけではありません。
考えてみれば、「PTAそのもの(全体)」も同様です。いまのやり方を「当たり前」と思っている人が大半ですが、一歩外から見れば、相当おかしなところがあります。
自動入会も、「できない理由」の公表も、会費の無断引き落としも、もしNPOなど(*1)で行われたら大問題になります。
いままで「当たり前」と思ってきたことも、外の世界を知り、別のやり方と比較することで、見直すことができます。
*「保護者のお手伝いは当たり前」も、見直しを
なお、冒頭に挙げた「カーテン洗濯」は、本来どのように行われるのが妥当なのでしょうか。
同記事で指摘されているように、PTAがカーテンを洗う背景には「学校にお金がない(公費が非常に少ない)」という問題があるわけですが、そもそも学校運営に必要な経費なのですから、きちんと予算化される必要があります。
学校事務職員の柳澤靖明さんは、著書『隠れ教育費 ~公立小中学校でかかるお金を徹底検証』(福嶋尚子さんとの共著・8月中旬発売)のなかで、このように述べています。
「PTAなどをとおして、保護者が自宅でカーテンを洗う当番をもうけている学校も多い。そもそも学校の共用品を家庭でクリーニングすることは正しいのか考えてみる必要があるだろう。カーテンは子どもが持ち帰るには大きすぎるため、保護者が学校へ取りに行く必要がある。乾かすにしても場所がいる。保護者の負担は大きい。
わたしの勤務校でも当初は、カーテンクリーニング代が教材費に含まれ、保護者から徴収されていた。それを1年間検討して別の方法に変更し、結果として費用を使うことなく返金にまわすことができた。その秘策は、公費で大型洗濯機を購入したのだ。(中略)
しかし、そもそもクリーニング代が公費で十分に配当されればクリアできることであり、教育委員会に要求していくことも必要だ。『保護者から費用を集めてクリーニングに出してください』という回答は来ないはずだ。(中略)憲法には義務教育の無償性が謳われている。その理念を忘れてはならない」
保護者もこういった「学校のお手伝い」を「当たり前」のこととせず、公費の拡充を求めていく必要があるでしょう。
そして学校側も、「公費がないから保護者にやってもらっている」ということを意識し、この状態を早く終わらせるよう努力する必要があります。
教育研究家の妹尾昌俊さんと、憲法学者の木村草太さんは、先日行われた教育新聞の対談のなかで、「子どもが学校の掃除をすること」について、このように話しました。
カーテン洗濯など、PTAや保護者が行うもろもろの「お手伝い」についても同様に考えられるでしょう。保護者も、学校も、これまでのやり方や考えを、そろそろ見直してみてはどうでしょうか。
- *1 「子ども会」もPTAと同様に、入学前の児童名簿を学校から入手することで自動強制加入を実現している場合があります(個人情報保護法例に違反)。なお、子ども会とPTAはどちらも「社会教育関係団体」であり、行政との関係がやや特殊です。 参考)「PTAがNPOと違うのはなぜ? 行政・学校と“共依存関係”になる理由」