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PTA役員が決まらない!「なり手がいない」と嘆きつつ「立候補する人は危険」とする矛盾

大塚玲子ライター
人集めには、一般の団体と同様の努力が必要です(写真:アフロ)

 PTAといえば、4月の保護者会で行われる「クラス役員(委員)決め」が(残念な意味で)有名ですが、「本部役員(執行部)決め」もなかなかの課題です。

 これは年度が替わるときに引退する本部役員(会長・副会長・書記・会計など)の後任を見つけるもので、毎年秋~春先に行われます。筆者の周辺でも「年内に全員決まった!」「年明けに持ち越し」など、さまざまな声が聞こえます。

 念のため、「クラス役員」とは「委員」のことで、大体「各クラスから何名選ぶ」と決まっています。一方「本部役員」はPTA全体の取りまとめ役なので、人数は多くないのですが、仕事量は委員よりだいぶ多いため、なり手がより見つかりにくい傾向があります。

 さて、この本部役員決め、多くのPTAで悩みのタネになっています。卒業する人や任期が終わる人、本人の希望で退く人の後任を、新年度が始まるまでに見つけたいのですが、引き受ける人がなかなか見つからないためです。

 どうすればいいのでしょうか? 最初に結論を言ってしまうと、「仕事内容を見直して(削減を含む)魅力的な活動にすること」と「活動内容をうまくアピールすること」、それしかないと思います。要は、一般の団体と同様の努力をするということです。

 PTAではよく「6年間に必ず一度やる」と書いた手紙を配るとか、「ポイント制」や「活動免除の条件」などのルールをつくって全員に網をかけるなど、「義務」という前提で創意工夫を凝らす傾向がありますが、これでは根本の問題は解決されません。

 義務・強制の問題点については、これまでもさんざん指摘してきた通りです。PTAはそもそもやりたい人が自主的にやるもので、加入や活動を強制できる法的な根拠はありません。今後もこのやり方を続けるなら、保護者の心がより離れていくことは免れないでしょう。

 役員決めに限りません。PTAが主催する講習会などでも、「必ず出席」という強制動員をよく見かけますが、ここでも本来やるべきことは、内容の工夫と告知の努力でしょう。

 NPOでも企業でも行政でも、イベント等の人集めは悩ましい課題でしょうが、PTAのように「必ず来てください」と誰かに強いることはできません。もし強いればふつうに炎上するでしょうし、サクラを雇えばニュースになります。

 やれることは「自分から参加したいと思ってもらえるような魅力的なイベントを企画すること」と「告知をがんばること」だけでしょう。PTAも、本当は同じはずです。

*「できない理由」の開示を求めるPTAが多い

 ところが現状、そういう発想がまだPTAには不足しているようです。内容やアピールに注力するのでなく、PTAを「必ずやる義務」として独自のルールを編み出しがちです。

 たとえば筆者は先日、あるPTAがこの秋に配った「役員免除のための自己申告書」というものを見かけました。そこには、こんなことが書かれています。

未就学児がいる・妊娠中・病気・ひとり親家庭(ほかいくつかの条件)に該当する方のみ、提出可能

病気の方は診断書(コピー不可)の提出が必要

 どこからつっこんだものか考えますが、これはかなり問題があります。

 まず、これまでも繰り返し書いてきた通り、そもそもPTAをできない人・やらない人が、それをわざわざPTAに伝えなければいけないのは、多くのPTAが自動強制加入だから(学校から名簿をもらっているから)です。

 もしPTAが保護者に加入意思を確認したうえで個人情報を受け取っていれば、できない人ややらない人が、その理由をPTAに告げる必要など、本来ないのです。

 このような情報開示の要求は法的には無効ですが、しかし学校を通して配られる手紙ですから、校長も同意しているわけです。受け取った保護者は「提出必須の書類」と認識するでしょう。なかには「こんな事情を、他人に言いたくない」と悩む人もいるはずです。

 しかも、ここで求められるような情報(家族構成や病歴等)は、要配慮個人情報(特に慎重な取扱いが求められる個人情報)にあたると考えられます。PTA活動への参加と引き換えに、こういった情報を開示させるやり方は、二重、三重の意味で問題があります。

 もしPTAでこういった手紙が配られてしまった場合は、役員さんか校長先生、教育委員会に問題を指摘してもらえたらと思います。手紙を発行した役員さんも、「去年もこうやっていたから」というだけで、悪気なく配っている可能性があります。

 が、問題を指摘してもなお対応を改めてもらえない場合は、退会を考えた方がいいかもしれません。万一「退会を認めない」などと言われた場合には、校長先生か教育委員会に相談を。それでも話が進まないときは、文科省に相談しましょう。

 本部役員選出については、ほかにもよく問題のあるやり方が見られます。筆者が先日、PTAで配られた役員選出の手紙を募ったところ、上記の例ほど厳密な要求ではないものの、やはり「役員をできない理由」を書かせる書類が複数ありました。

 以前、筆者がある番組スタッフの方から見せてもらった「本部役員の推薦用紙」にも驚きました。そこには、こんなことが書かれていたのです。

記入がない方は、ご本人が立候補したものとみなします

 これも横暴です。もし「加入するとこういうルール(役員推薦をしない人を立候補とみなす)があります」と周知したうえで、保護者が加入を選択しているなら問題はありませんが、このPTAは自動強制加入です。勝手に入れられたうえ、このルールはないでしょう。

*活動を見直して告知を工夫すれば、すぐ決まることも

 ただしもちろん、世の中のPTAの全部が全部、こんな手紙を配っているわけではありません。良心的に活動しているPTAも、実際にはたくさんあります。

 たとえば以下も、今年あるPTAで配られた役員選出のお手紙(広報紙)です。

画像

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 かわいいイラストが豊富に入っていて目をひきますし、役員を実際に経験した人たちの生の声がたくさん載っているので、仕事の内容がイメージしやすくなります。

 義務前提のルールも多少残っているところは惜しいですが、先ほどのような「自己申告書」を提出させるのに比べたら、格段にいいと思います。

 この広報紙を発行した京都市立鏡山小学校PTA会長・清水周子(ちかこ)さんによると、9月にこれを配布したところ、11月末の段階で役員が全て決まったとのこと。

 「子どもたちのために、保護者の笑顔こそが大切だと考えて活動しています。役員がすぐ決まったのは、少しでも保護者に寄り添いたい、という私たちの思いが伝わったのかもしれません」(清水会長)

 こういったPTAなら、「やってみようかな」と思う人が出やすくなるのは納得です。

 なかには、本部役員もクラス役員も、全て立候補で決まったというPTAもあります。

 神戸市立本多聞中学校PTA会長・今関明子さんによると、同PTAでは5年前から活動全般の見直しを進めてきたのだそう。

 全ての専門部(委員会)を廃止するなど、活動を縮小するのと同時に、PTA運営委員会をクラス役員(委員)も参加できるものにし、学校と一緒にさまざまな問題について意見交換する場にしたところ、保護者の安心感につながり、多くの人が「自分からやりたい」と思うPTAになってきたのだということです。

 「本部をやる人が『私もやるから一緒にやろうよー』と誘ったり、『やってよかったよ、うちは卒業だから、ぜひやってみたら?』と声をかけたりしています。

 価値を感じられるPTAなら、役員は立候補で埋まります!」(今関会長)

*「自分からやりたがる人は危険」!?

 なお、役員選出については、「なり手がいない」ことよりも、さらに根深い問題があると筆者は感じています。それは、自分から役員を「やりたい」と言い出す立候補者を裏で排除するPTAが少なくない、という問題です。

 取材していると、これは残念ながらよく聞く話です。役員さんや管理職の先生の間で「自分からやりたがる人は、危険」という説が定着しており、せっかく立候補者が出ても、理由をつけてはずしてしまうというのです。

 「なり手がいない」と嘆きつつ立候補者を排除するというのは、ずいぶん矛盾した話です。

 ただ難しいのは、実際に不適格な人物が立候補してしまう可能性もなくはない、という点でしょう。今春、登校見守りをしていたPTA(保護者の会)の会長が、ある事件の容疑者として逮捕されました。容疑なので犯人ではない可能性もありますが、しかしこういった事件を起こす人物が役員に立候補する可能性は、やはりあります。

 ですから、立候補の人を必ず採用すべきとまではいえないかもしれませんが、少なくとも役員さんや校長・教頭先生が隠密に選別する仕組みは、やはり問題でしょう。

 おそらく「推薦委員」「選出委員」などのシステム(地域やPTAによって名称や仕組みは異なります)は、こういった「一部のメンバーによる恣意的な役員選考」という問題をなくそうとして、つくられたのでしょう。

 しかし実際のところ、「推薦委員がやっとの努力で見つけた候補者を、役員さんや校長先生が却下したため、ゼロから探し直しになった」などといった話を聞きます。

 「推薦委員」や「選出委員」が、むしろ、恣意的な選出が行われる際の隠れ蓑になってしまっていることがあるのです。

 PTAでは「不満があるなら自分が役員になって改革しろ」という意見をよく聞きます。筆者もじつは、以前はそのように考えていたのですが、最近は「難しいのかな…」という気がしています。

 というのは、改革を匂わせる保護者が役員に立候補すると、上記の仕組みによりはずされるケースもままあるからです。

 管理職の先生や役員さんのなかには、「これまでのPTAのやり方を変えてほしくない」と考える人も、少なからずいるのです。

*あらゆる組織、人類に共通する課題?

 この問題は、どう解決すればよいのでしょうか。何年も考えているのですが、筆者もまだ妙案が浮かびません。

 しかしこれはおそらくPTAに限らず、NPOや企業など、多くの組織に共通する課題でしょう。代表や役員の後任をどう決めるかというのは、みんな頭を悩ませることです。

 公正に決めるには「選挙」がベターかもしれませんが、これはとても手間ひまがかかるやり方です。PTAのようなボランティア組織でそこまでの時間や労力を割くのは、負担過多という気がします。一般のNPOでも、そこまでやっているところは聞きません。

 ただし、PTA以外の組織はふつう、出入り(入退会)が自由です。ですから、もしあからさまに恣意的な役員選出が行われている場合、他の会員は退会することで「ノー」という意思表示をすることができます。そこである程度の自浄作用が働くのではないでしょうか。

 

 ですからPTAも、やはり少なくとも、入退会を自由にすることがまず必要ではないかと感じます。

 考えてみれば、国会や自治体の議員・首長を選ぶ「選挙」だって、完ぺきな形はまだ見つかっていないでしょう。小選挙区制、中・大選挙区制、比例代表制など様々な選挙制度がありますが、どのやり方にも一長一短があり、もっといいやり方がないかと、どの国も探り続けているものと思います。

 話が極端に大きくなりますが、代表選びの難しさは、人類共通の課題かもしれません。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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