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介護で施設を選ぶ決定権は親本人?それとも子ども? 住処のロードマップを考えよう

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(写真:アフロ)

 在宅での介護が難しくなったら、「施設入居」を検討するケースは多いです。けれども、ほとんどの親は「できれば施設には入りたくない」と考えています。では、施設を選ぶ決定権は親本人か、子どもか、どちらにあるのでしょうか。

立場違えば視点は変わる

 親の人生は親本人のもの。本来、高齢者施設に入居するかどうかを決断するのは、本人であるべきなのでしょう。しかし、実際には決定権を持つのは「子ども」というケースが多いといえます。8割以上が「家族主導」という報告も。

 70代の2人に実情を話してもらいました。

施設入居の多くは、家族主導というのが現実
施設入居の多くは、家族主導というのが現実

Aさん(70代・男性):長男から強硬に入居させられた

 脳梗塞で倒れて入院しました。リハビリ病院を経て、5mくらいなら何とか自力で歩けるところまで回復したのです。「これで自宅に戻れる!」と楽しみにしていた矢先、見舞いに来た長男から「退院しても1人暮らしはムリだから、施設に入ろう」と言われました。

「1人でだいじょうぶ。家に帰る」と言っても、長男の態度は強硬で、すでに体験入居が段取りされていて、翌日には施設職員が病院にやってきて面談。あれよ、あれよと……、入居することに……。

Bさん(70代・女性):長女から強く入居を勧められる

 うちは最寄り駅から徒歩30分の戸建てです。リビングが2階なので、足の不自由な夫が2階に上がるのは日に1回だけ。一旦降りると、ずっと1階のベッドで過ごしています。

 長女がこの状況を心配して、週に2回やってきて、夫の世話や買い物を手伝ってくれています。このところ長女は、週に2回来るのが負担になってきたようで、「動けるうちに、高齢者向けの施設に移れ」とうるさく言うようになりました。でも、私たちは不自由でもこの家で暮らしたいんです。

 AさんとBさんのケース、親の立場に立って聞くと「理不尽」なのかもしれません。一方、子の立場に立って聞くと、経済的な課題がないとすれば悪くない選択と言えるでしょう。どちらのケースも、このまま在宅を続けると、子の心配は増し、通いの頻度をあげなければならなくなります。親にとって、そんなつもりはなくても、子にとっては負担が増すことに。

 Bさんの父親に関していえば、ベッドで過ごす時間が増えれば、さらに心身機能が低下していくと予想できます。

60過ぎたら“住処”のロードマップを考える

「住み慣れた自宅が一番」と考える人が多いですが、状況によっては、それは困難になることもあります。タイミングは、いつ訪れるかはわかりません。それぞれが暮らしている自宅の条件にもよるでしょう。

 同じ健康状態であっても、「駅から近いマンション」なら、快適に暮らせても、「駅やスーパー、病院から遠く、段差の多い戸建て」だと不自由が生じることもあります。

 それぞれの住まいの条件を考えたうえで、“住処”のロードマップを考えておきたいものです。今の住まいでの暮らしが、間取りや構造的に難しくなったらどうするのか。大きく分けると選択肢は2つです。

①リフォーム(住宅改修)

②転居(施設入居を含む)

 どちらにしても、資金計画必須です。年齢を重ねるほど、考えることが億劫になり先送りしたくなりがち……。そうなると、尻ぬぐいは子に巡ることに……。

 いまの住まいに可能な限り暮らし続けるのか、早い段階でどこかに移るのか。「終の住処(ついのすみか)」という言葉はよく聞きますが、計画を練らずして決めることはできません。

今後の住処を計画しておくことが、「自分らしく生きる」ことにつながる
今後の住処を計画しておくことが、「自分らしく生きる」ことにつながる

ロードマップは親子で共有

 今の親世代では、自身の住処のロードマップを考えている人は少数派だと思います。「どうしようもなくなったら、自宅を売って、施設に入れてくれ」と子に伝えている人は一定数いますが、どうしようもなくなったら、通常、判断力は低下しており、自宅売却を行うことは難しいでしょう。子が代わりに親の自宅を売るというのも、事前の準備をしていないと困難と言わざるをえません。

 これからシニア期を迎える人は、自らロードマップを考え、子に話しておきましょう。もちろん、それにかかる資金計画も子に伝えておきます。そうすることが、最期まで“自分らしく生きる”ことにつながります。

 もちろん、どのように心身が衰えていくかわからないので、思う通りにはならないかもしれません。けれども「希望+資金計画」がクリアになっていれば、子は、可能な範囲でその方向で動いてくれるでしょう。親の希望が分からなければ、子の価値観でことは進んでいきます(子ども主導)。

 一方、すでにシニア期を迎えている親がいる人は、親に「これからのロードマップを考えよう」と提案してみましょう(もちろん、資金計画も)。すぐには考えはまとまらないと思いますが、提案することで、親も自身のこれからについて考えるきっかけとなるでしょう。

 住まう場所が想定できれば、介護が必要になった際の、子としての自分の立ち位置が見えてきます。結果として、親の介護への不安は軽減すると思います。

*図表は「子どもに迷惑をかけない・かけられない!60代からの介護・お金・暮らし」(太田差惠子著,翔泳社)より

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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