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衝撃のピンクのきしめん! 進化する名古屋めしの驚きの味わいとは?

大竹敏之名古屋ネタライター
チトセ屋(名古屋市東区)のきしめん・PINK。麺もピンクに“色変”していく

驚きのビジュアルがSNSでも話題に

「こんなきしめん、見たことない!」—。名古屋のきしめん好きの間で今、話題となっているのがピンクのきしめん。SNSに写真が投稿されると、「斬新!」「スイーツ以外考えられない」など驚きのコメントが次々と寄せられています。

筆者も実際に食べに行ってみてびっくり! 写真を見て想像していた以上に“真っピンク”なのです。まさにスイーツ以外では見たことのない色合い。しかも正統派の老舗うどん店でこんなショッキングなビジュアルのメニューが出てくるとは…!

度肝を抜く見た目に戸惑いつつ恐る恐る口をつけてみると、さらにびっくり! ひんやり冷たくさっぱりとした上品な味わいで、ちゃんとダシの風味も利いています。見た目からして「喫茶マウンテン」のいちごスパもイメージされたのですが、決してゲテモノではありません(マウンテンさん、すみませんw)。一方でほのかな甘みや、付け合わせの野菜のシャキシャキした食感などこれまでに味わったことのない個性もあり。正統でありつつ新しい、おいしさと驚きが両立した一杯なのです。

ピンク色の素は一体…?

「チトセ屋」は昭和初期創業で戦後、東区の現在の場所に。地下鉄高岳駅より徒歩10分。人気のレトロ喫茶「洋菓子・喫茶ボンボン」と同じ鍋屋町通り商店街にありボンボンからは東へまっすぐ300m
「チトセ屋」は昭和初期創業で戦後、東区の現在の場所に。地下鉄高岳駅より徒歩10分。人気のレトロ喫茶「洋菓子・喫茶ボンボン」と同じ鍋屋町通り商店街にありボンボンからは東へまっすぐ300m

その名も「PINK」が食べられるのは名古屋市東区の「チトセ屋」。昭和初期創業で、いかにも昔ながらの町のうどん店といった趣の小さなお店です。

この新感覚のきしめんはどうやって生まれたでしょう? もちろん、何より気になるのはピンクの色の正体です。

「ビーツを使ってるんですよ」とあっさり種明かししてくれたのは3代目の櫻井隆弘さん。ビーツは赤かぶのような見た目の西洋野菜。なるほど、と思ったもののビーツはどちらかといえば濃い赤紫。対してきしめんのPINKはまぎれもないピンク色です。

「試作の最初の段階ではもっと派手なショッキングピンクだったんです。もっとかわいいピンクらしいピンクにしたくて、あるものを加えたりして今の色になりました」

ビーツは西洋料理向けの食材で和食の店ではあまりお目にかかれない。サラダ仕立てにしたり、アイスキューブにしたものがトッピングされる
ビーツは西洋料理向けの食材で和食の店ではあまりお目にかかれない。サラダ仕立てにしたり、アイスキューブにしたものがトッピングされる

名古屋のきしめんの伝統、“赤・白”のつゆが発想の原点

このあたりは企業秘密。では、そもそもどうしてピンクのきしめんをつくろうと思ったのでしょう?

名古屋のうどん屋は“赤”と“白”、2種類のつゆを使います。だったら中間のピンクがあってもいいだろうと思ったんです

赤・白とは、たまり醤油と白醤油ベースのつゆのこと。一般には通じない業界内だけで通る符牒で、実際には赤=濃い茶褐色、白=やや黄色がかった透明のつゆをこう呼びます。名古屋のうどん店は基本的にこの2種類のつゆをつくり、上に乗せる具によって使い分けます。多くの人がきしめんと聞いて思い浮かべる、花かつおが乗ったきしめんは“赤”。天ぷらうどんや玉子とじなどでは主に“白”を使います。

こう説明されると、ピンクは決して奇をてらったものではなく、名古屋のきしめんの伝統をベースに遊び心と創意工夫を加えてつくられたものだと納得できます。だからといって、従来の赤・白のつゆを混ぜればピンクになるわけではありません。ここから先は、まったく経験のないゼロからの創作だったといいます。

20席ほどの小ぢんまりとした店内。麺はこの奥の厨房でご主人が手打ちで仕込んでいる。8月13~16日はお盆休み。日祝と土曜の夜は休み。昼は13時45分ラストオーダーなので時間を確認の上訪れて
20席ほどの小ぢんまりとした店内。麺はこの奥の厨房でご主人が手打ちで仕込んでいる。8月13~16日はお盆休み。日祝と土曜の夜は休み。昼は13時45分ラストオーダーなので時間を確認の上訪れて

夏恒例のラリーイベント用に創作に挑戦

創作のもうひとつの背景には、毎年参加している「きしころスタンプラリー」がありました。“きしころ=冷たいきしめん”を2か月にわたって食べ歩く名古屋市内を中心とした夏恒例のイベントで、参加店の多くが新メニュー、限定メニューで個性を競い合います。この目玉として、「どこにもないきしめんをつくろう!」という思いがあったのです。

(関連記事:「“きしめん離れ”なんて言わせない! 『きしころスタンプラリー』に大手チェーンや東京からも参戦」 2023年7月1日)

チトセ屋ののれんの横にも「きしころスタンプラリー」参加店の目印、「きしころ冷えてます」のタペストリーが。ラリーは名古屋市内を中心に40店舗が参加し、7月1日~8月31日の2か月間開催
チトセ屋ののれんの横にも「きしころスタンプラリー」参加店の目印、「きしころ冷えてます」のタペストリーが。ラリーは名古屋市内を中心に40店舗が参加し、7月1日~8月31日の2か月間開催

ピンクという発想から開発がスタートしたきしめん・PINKですが、完成にいたるまでの道のりは決して平たんではありませんでした。

「ピンクにするためにトマトケチャップや梅などいろいろ試しました。ビーツはウクライナ料理のボルシチに使うと聞いて、試してみようと思ったんです。思っていた色が出なかったり、独特の土臭さがあったりして一度はあきらめかけたんですが、何十通りと試作してようやく満足の行く仕上がりになりました」(櫻井さん)

食べ進むにしたがい味変&色変。幅広きしめんも存在感

ビーツはつゆの他、サラダ仕立てと氷にしたものに使いトッピング。氷が徐々にとけるとつゆがまろやかに“味変”し、さらに麺がつゆを吸ってピンクに“色変”。食べ進むにしたがって、味わいでも見た目でもサプライズが待っています。

目の前に登場した際のインパクトもスゴいが、食べ進むにしたがいさらなるサプライズが。麺の上のトッピングはサラダ仕立てのビーツとビーツ氷、トマト。きしめん・PINKは950円
目の前に登場した際のインパクトもスゴいが、食べ進むにしたがいさらなるサプライズが。麺の上のトッピングはサラダ仕立てのビーツとビーツ氷、トマト。きしめん・PINKは950円

そして最大の魅力は、この店独特のもっちり幅広い手打ちきしめん。麺につゆや具にも負けない存在感があり、最初は珍しい色やトッピングに目を奪われがちですが、最終的に“美味しいきしめんを食べた!”という印象に落ち着くのです。

きしめんを丁寧にゆでる3代目の櫻井隆弘さん。幅広きしめんは最近の流行りだが、ここでは20年近く前からこの麺を仕込んでいる。「きしめんは幅が広くてべろべろじゃないとダメでしょう!」と櫻井さん
きしめんを丁寧にゆでる3代目の櫻井隆弘さん。幅広きしめんは最近の流行りだが、ここでは20年近く前からこの麺を仕込んでいる。「きしめんは幅が広くてべろべろじゃないとダメでしょう!」と櫻井さん

きしめん・PINKはきしころスタンプラリーのスタートに合わせて7月1日に売り出し、ここまでお客の反応も上々。「男性も女性も食べてくれる。ビーツは美容効果もあるといわれているので、特に女性はリピートしてくれる人が多いですね」(櫻井さん)

もちろんきしめん、味噌煮込みうどんなどもあり。丼物やうどん、そば、中華そばなど、豊富なメニューはご主人がほぼ1人で仕込んでいる。名古屋の職人は仕事熱心なのだ
もちろんきしめん、味噌煮込みうどんなどもあり。丼物やうどん、そば、中華そばなど、豊富なメニューはご主人がほぼ1人で仕込んでいる。名古屋の職人は仕事熱心なのだ

近年、幅広きしめんがブームになるなど新たな魅力が加わっているきしめん。その中でもきしめん・PINKは、とびきりインパクトがある、と同時にこれまでになかったおいしさを体感できる一品です。7・8月の「きしころスタンプラリー」専用メニューのため、確実に食べられるのは8月末まで(好評の場合延長の可能性もあり)。進化するきしめん、その最先端の逸品を、目と舌で体感してみてください!

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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