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名古屋銘菓「千なり」が23年ぶりにリニューアル。新しいおいしさを実食チェック!

大竹敏之名古屋ネタライター
両口屋是清の千なり。小豆粒あん、抹茶あん、新作の林檎あんの3種類の味を楽しめる

1日1万6000個がつくられる老舗の大定番

名古屋銘菓「千なり」。地元ではどら焼きの代名詞ともいうべき存在で、進物用としても日常のおやつとしても親しまれています。

これを手がける両口屋是清は江戸初期の1634年創業で、尾張藩の御用菓子も務めてきた老舗にして名門。千なりは1954(昭和29)年に製造の機械化に成功して、同店が大きく飛躍するきっかけに。現在も1日平均1万6000個を製造する同店屈指の大人気商品です。

この千なりが23年ぶりにリニューアルし、2022年4月1日に新バージョンが売り出されました。名古屋人なら誰もが口にしたことのある味を刷新したのはなぜだったのか? そしてどんな風に変わったのでしょうか?

リニューアルに合わせてパッケージも刷新。旧作(左)の透明な袋入りから、新作(右)はかわいいイラストの袋入りに。価格も1個156円から172円に変更
リニューアルに合わせてパッケージも刷新。旧作(左)の透明な袋入りから、新作(右)はかわいいイラストの袋入りに。価格も1個156円から172円に変更

皮もあんこもよりおいしく。3年がかりで開発

「これまでは焼き立ての皮の柔らかさやしっとり感を重視し、賞味期限14日間のうち出来立てが一番おいしい仕上がりでした。しかし技術力の向上で皮のおいしさを長くキープできるようになったので、まず皮を原料からすべて変えることになりました。どら焼きは皮とあんこの相性が大切なので、あんこも合わせて変更することになったんです。完成するまでに3年以上がかかりました」と両口屋是清・広報の近藤美香さん。

「皮はよりふんわりした柔らかさがアップし、なおかつ製造から4日目頃まではもっちり感が、5日目からはしっとり感が出て、食感の変化も楽しめます。小豆粒あんは粒が大きくて割れにくい丹波大納言小豆の比率を高め、小豆の使用料は1・2倍に。抹茶あんは抹茶の量を2倍にして、香りはより芳醇に、食感はとろっと感が増しています」(近藤さん)

小豆粒あんの新作(右)と旧作(左)。新作の方があんこの小豆の粒が大きい。皮も新作の方が生地の気泡が細かくしっとりしている
小豆粒あんの新作(右)と旧作(左)。新作の方があんこの小豆の粒が大きい。皮も新作の方が生地の気泡が細かくしっとりしている

シャキシャキした食感を楽しめる新テイスト・林檎あん

まったく新しい味として開発されたのが林檎(りんご)あん。従来の紅粒あんに替わってラインナップに加わりました。

「より幅広い方に食べていただけるよう、フルーツの味をつくりたいと考えました。イチゴ、桃、アンズなどいろいろ試しましたが、老若男女に親しまれている果物としてりんごを採用することに。本当にりんごを食べているかのようなシャキシャキした食感を重視してあんづくりに取り組みました」

新テイストの林檎あんの限定パッケージ入り3個セットは604円
新テイストの林檎あんの限定パッケージ入り3個セットは604円

親しまれた味から変わりすぎない微妙・絶妙なアップデート

筆者は、新作の発売に先駆けてモニターとして実食させてもらうことに。生地はふわっと軽く、甘さは控えめ小豆粒あんは粒々感がしっかりしていて甘みが上品。抹茶あんはひと目で分かるほど緑色が濃くなり、見た目の通り抹茶の香りが強くほどよいほろ苦さも感じます。林檎あんは果肉の食感が小気味よく、紅茶に合わせたいと感じました。

いずれも確かにおいしさがアップしていて、新旧を交互に食べ比べるとその違いが分かります。しかし、新作だけを食べてリニューアルしたと気づく人、そして何がどう変わったかまでわかる人はよほどのツウでしょう。この“気づくか気づかないか”というわずかな変化はおそらく狙い通り。消費者は千なりの味が好きだから買うのですから、すぐに気づかれるような大きな変更ではいけないのです。いつもの千なりのおいしさと思わせておいて、実はひそかに進化している。ロングセラーのアップデートはこんな微妙なさじ加減こそが、開発者の腕の見せどころだといえるでしょう。

どっちが好み?新旧の千なりを食べ比べ

さて、リニューアルした新作の評価はいかがなものか? 特別に新旧を合わせて用意してもらった上で食べ比べを行いました。

小豆粒あんの新旧、抹茶あんの新旧、林檎あん、合わせて5種類を10~50代の男女15名が実食しての評価と感想は以下の通りです(※一種のみ試食した人も)

筆者が独自に行った新旧千なりの食べ比べ。ひと口サイズに切り分け、新旧がどちらか分からないようにして友人らに実食してもらった。Aは旧作の抹茶あん、Bは新作の抹茶あん。あんの色がかなり違う
筆者が独自に行った新旧千なりの食べ比べ。ひと口サイズに切り分け、新旧がどちらか分からないようにして友人らに実食してもらった。Aは旧作の抹茶あん、Bは新作の抹茶あん。あんの色がかなり違う

【小豆粒あん】

□新作の方がおいしい ・・・ 8名

□旧作の方がおいしい ・・・ 7名

「新作の方があんこの粒がしっかりしていて甘さ控えめでおいしい」「今日は疲れていたので体が甘みを欲し、旧作がおいしく感じました」「新作の方がすっきりした甘さ。ただ一緒に食べ比べないと違いが分からないくらい。つまり両方ともおいしかったです」

【抹茶あん】

□新作の方がおいしい ・・・ 9名

□旧作の方がおいしい ・・・ 3名

□違いが分からない ・・・ 1名

「新作は抹茶が濃くて絶対に好きな人が多いはず!」「新作はちょっと苦いのがおいしい。でもどっちもいいと思う」「あんこの見た目は色がかなり違うが味の違いはよく分からなかった。どっちもおいしい」

【林檎あん】

「りんごの香りが生地に合う。シャリシャリ感よし」「めっちゃおいしい。りんごの粒が入っていて甘すぎず、皮の甘さとマッチしている」「ふわふわしてカステラみたい」「アップルパイ好きにもいいかも」

小豆粒あんは意外や新旧の評価が拮抗。食べ慣れた旧作の味に親しみを感じる人が多かったのかもしれません。抹茶あんは抹茶の香りの差が分かりやすく新作が好評。林檎あんは皮のふんわり感があんのシャキシャキ感を際立たせ高い評価を得ました。

両口屋是清は名古屋市内に八事店、東山店、東新町店、本町店、エスカ店、名駅地下街店の6つの直営店がある。他、主要百貨店やキヨスクなどでも購入できる
両口屋是清は名古屋市内に八事店、東山店、東新町店、本町店、エスカ店、名駅地下街店の6つの直営店がある。他、主要百貨店やキヨスクなどでも購入できる

4月1日からは店頭販売、通販ともに新作に切り替わっているため、今から上記のような食べ比べはできませんが、千なりの味の記憶が残っている人は多いはず。ご自身の思い出の味を思い浮かべながら、新しく生まれ変わった千なりと食べ比べしてみてはいかがでしょうか。

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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