中京テレビ制作のグルメバラエティが名古屋と全国で人気!

名古屋の人気バラエティテレビ番組『PS純金』(ピーエスゴールド)。そして、その全国拡大版ともいうべき姉妹番組『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(日テレ ※以下『オモウマい店』)。どちらも名古屋の中京テレビが制作し、世帯別視聴率10%台を常時記録するなど絶好調です。

地方局の番組がノウハウそのままにキー局のゴールデンタイムに進出するのは異例のできごと。なぜ名古屋発の『PS純金』、そして名古屋スタイルを活かして全国進出した『オモウマい店』はこんなにウケているのでしょうか?

『PS』シリーズの歴史は長く、1994年に『P.S.愛してる!』としてスタート。グルメを中心とした情報バラエティとして人気を博し、以後、『PS』『PS三世』とリニューアルを重ねながらも継続している看板番組です。バラエティで27年も続いている長寿番組は、ローカル局に限らず非常に稀少です。『PS純金』は2015年4月、それまでの日曜夜10時半から初めて金曜夜7時のゴールデンタイム進出を果たしたシリーズ第4作。第1作からただ1人出演し続けている高田純次がMCを務めます。

『オモウマい店』は2021年4月に放送開始。2019年、2020年に特番として放送された『ウマい!安い!おもしろい! 全日本びっくり仰店グランプリ』が好評だったことから、レギュラー化にいたりました。こちらはタレントのヒロミと小峠英二がMC、進行を務めます。

グルメ番組でありながら主役は料理より“人”

『PS純金』『オモウマい店』の特徴は、グルメを中心にしながら料理よりも店主ら“人”にフォーカスしていること。“オモウマい店”とは“オモてなしすぎてオモしろいウマい店”を意味し、皿からこぼれんばかりのサービス精神と、その背景にある店主の思いや生き様こそが最大の見どころなのです。

映像スタイルも独特。ロケ取材にタレントが出演することは少なく、レポート役は主に番組スタッフが担当。紹介VTRにはナレーションがほとんど入らず、テロップで最低限の情報が入るのみ。店主がせわしなく動き回り、常連客やスタッフと飾り気なく会話をし、時にぼやいたり怒ったりする、まさにドキュメンタリータッチの映像が流れます。これをスタジオの出演者が面白がったりツッコミをいれたりし、それによって映像の面白さが増幅されていくつくりになっています。

『PS純金』は毎週金曜夜7時~、東海地方で放送中。MCは高田純次と藤森慎吾(画像提供/中京テレビ)
『PS純金』は毎週金曜夜7時~、東海地方で放送中。MCは高田純次と藤森慎吾(画像提供/中京テレビ)

「びっくりや四兄弟」の登場が転機に

このような番組づくりはどうやって確立されていったのか? そして視聴者の反応は? 番組プロデューサーの中京テレビ・笠井知己さんにお聞きしました。

―― 『PS純金』はシリーズ4作目にして、夜7時台放映と初のゴールデン枠。それまでと何か変えたことはあったのでしょうか?

笠井 「競争が激しい時間帯なので、当初は試行錯誤がありました。最初の1年間は東京からゲストのタレントを呼ぶことも今より多かった。しかし、逆に地元のより狭いところをフィーチャーしてみたら、これが思いの外視聴者の反応がよかったんです。やりすぎのモーニング(喫茶店のモーニングサービス)とか、『あなたの近所にたぶん日本一』というテーマで、例えば名古屋市中区の~ではなく中区〇〇町の~と細かい町の話題にまで掘り下げたり。地元に特化していくと視聴率も上向いていきました」

―― その流れの中で店主ら“人”にもスポットを当てるようになっていった?

笠井 「きっかけとなったのが『びっくりや』の四兄弟です(三重県亀山市の焼肉店を経営する一家)。最初に取り上げたのは2017年7月。おいしいのはもちろん、安くてサービスが過剰。話を聞いてみたらその裏にある人柄や生き様が面白い。個性的すぎるのでイチかバチか、という気持ちだったんですが、高田(純次)さんや藤森(慎吾)さんら出演者にものすごくウケて、さらにSNSの視聴者の反響もスゴかった。それを機に“食べに行きたくなる”だけじゃなく“会いに行きたくなる”店主の店を探し出す路線を強化していきました。現在の番組のキャッチフレーズ『やっぱり地元はオモシロイ』もこうした流れの中から生まれたものです」

番組HPには何と「びっくりやオリジナルグッズショップ」もある。グッズはTシャツ、キーホルダーなど(画像は番組HPより)
番組HPには何と「びっくりやオリジナルグッズショップ」もある。グッズはTシャツ、キーホルダーなど(画像は番組HPより)

“足で稼ぐ”という取材の原点に忠実に

―― 他にも「手書き看板の店はウマい?」「2階が自宅の店は安くてウマい」など他のグルメ番組にはない切り口が面白い。それはすなわちネットには載っていない情報だからだと思います。しかし、ネットに頼らずテーマに沿った店を見つけだすのはさぞや苦労があるのでは?

笠井 「机の上で考えるのを辞めて、とにかく足で稼ぐ。ディレクターが外に出てネタを見つけるのがすべてで、企画会議では気になることを1行でいいから書いてプレゼンするだけ。あちこち取材する中で、“そういえば看板が手書きの店って~”と普段から気になっていたことをあらためてネタにしています。もともと興味があったところから始めるのでそんなに無理はないんですよ」

――  とはいえ、これまでになかった切り口ということは、テレビの取材など受けたこともないようなお店も少なくないということになる。取材交渉も大変なのでは?

笠井 「演出チームの中で、最初は取材ではなく、1人のお客として食べに行くことを徹底しています。そこでご主人と話をして、取材の時も“あの人どうしてるかな?”という思いで訪ねていく。先方としても“前に来てくれたお兄ちゃんが今度はカメラ持って来た”という感じになるので、意外と受け入れてくれるんです」

―― 今や番組の名物キャラとなっているのが、先のびっくりや四兄弟をはじめ、大食いののり子さんやスーパーヒューマン・しおりさん、豊橋のチャ王(地元チェーン『スパゲッ亭チャオ』を食べ尽くしている常連客)らPSアベンジャーズの異名を取る店主やお客。こうした超個性的な一般人はどうやって見つけるのでしょう?

笠井 「しおりさんは『スゴ腕店主は市場に集まる!』、チャ王は『100回以上通ったやみつき飯』という企画の取材で出会いました。のり子さんにいたっては、大食いの企画なら家族で観て楽しめると思い、いろんなデカ盛りの店をしらみつぶしに当たったんです。完食者の名前を貼り出しているところが多いので、それをくまなくチェックし、いくつものお店を制覇しているのがのり子さんだった。それを糸口に探し出して出演交渉すると、すんなり出てもらえることになりました」

両番組でプロデューサーを務める中京テレビ・笠井知己さん。「やりすぎなモーニングの企画の時は嫌というほど喫茶店をめぐりました」
両番組でプロデューサーを務める中京テレビ・笠井知己さん。「やりすぎなモーニングの企画の時は嫌というほど喫茶店をめぐりました」

『オモウマい店』で取り上げた赤字店が行列店に!

―― 今年4月に始まった『オモウマい店』は『PS純金』のフォーマットを全国に拡大した番組。ローカル局制作の番組が全国区のゴールデンタイムに進出するケースは非常に珍しいのではないでしょうか?

笠井 「当社ではかつて『サルヂエ』という番組(2004~2007年のクイズバラエティ)が深夜枠からゴールデンに移ったことがありますが、東京制作部の制作で最初から全国放送でした。『オモウマい店』は名古屋の『PS純金』を経験したスタッフがつくっていて、私が知る限りあまりないケースだと思います。特番で2回全国放送した『全日本びっくり仰店グランプリ』も基本的に『PS純金』のノウハウでつくったもので、これが視聴率もよく、高く評価していただいたことが全国区のレギュラー番組化につながっています」

―― 取材の手法や見せ方など、『PS純金』と何か変えているところはあるのでしょうか?

笠井 「特に変えてはいません。スタッフが足で稼いで取材交渉のやりとりから見せる。名古屋で当たり前のようにやってきたことをそのまま全国に広げてやっています。もちろんリサーチの段階ではネットを使って候補を探します。『皿』『あふれる』など番組独特の検索ワードで探し、さらに口コミ情報も店の人の人柄に関する記述に着目します。それでも、まずはお客として足を運んで感じたことを重視して取材先をしぼり込みますし、道中でたまたま見つけた店が取材対象になることも少なくありません。演出も基本的に同じです。ナレーションは極力少なくしてテロップで説明する。出演者の皆さんにも打ち合わせで“家でテレビを観ている感じでVTRを見てしゃべってください”というだけなので、“えっ、それだけ?”とびっくりされます(笑)

―― 名古屋地区と全国で、視聴者の反応に違いはありますか?

笠井 「単純に絶対数が違うので(『PS純金』の放映エリアの東海3県の人口は全国のおよそ1/10)、SNSの反応がケタ違いで驚いています。“生きる元気が出た”“くよくよ悩んでいたことが吹っ飛んだ”と好意的なご意見が多いので、その点はとてもありがたいですね。東海地方の視聴者の方たちからは“週に2回もPSが見られる!”といった、姉妹番組であることを理解して楽しんでくれている反応が多いです」

――  特に印象的なエピソードは?

笠井 「料理の値段が安すぎて赤字になってしまい、店主がウーバーイーツで働いている店を6月に取り上げたんです。その後の様子を8月にもう一回放送したら、“応援したい!”というお客さんが殺到して行列のできる人気店になっていました。しかも、壁にかかっているウーバーイーツのカバンをみんなが記念撮影したり、“売上に貢献したい”とウーバーイーツの配達員が食事に来るようにもなっていた。長年テレビの仕事をしていますが、こんなことは初めてです。まだまだテレビの力はある、とあらためて実感しました

番組のTwitter公式アカウント。店主がウーバーイーツの配達で赤字を穴埋めする店を取り上げたところ、お客や同業者が殺到する“聖地”に!
番組のTwitter公式アカウント。店主がウーバーイーツの配達で赤字を穴埋めする店を取り上げたところ、お客や同業者が殺到する“聖地”に!

―― 『PS純金』『オモウマい店』でそれぞれ今後やっていきたいことは?

笠井 「どちらも生活者の視点を大切にして、“会いに行きたい”と思える人、店を探して、その思いをすくい上げていきたい。これまでは中華料理店や大衆食堂が多かったんですが、パン屋とかイタリアンとか他のジャンルの店も取り上げていきたいですね。『PS純金』ではローカルスターをもっと発掘したい。“おいしい”とはまた違った感動を得られる番組をつくっていきたいと思っています

◆◆◆

『PS純金』が地元で支持を得、そして『オモウマい店』が全国でもウケているのは、お行儀がよくなってしまった近年のテレビ番組にはない、アクの強さと熱量に、新鮮さと刺激を感じるからではないかと思います。“会いに行きたい”店主の店というセレクトも、“体験したい”が店選びの重要なファクターであるSNS時代にマッチしているのでしょう。また、どちらも一般人の強烈なキャラクターに光を当てながら、素人いじりには走らず、ドキュメンタリー的に人間味を映し出し、さらにそこにいくばくかのリスペクトが含まれていることが、見終わった時の不思議な清々しさをもたらしているのではないでしょうか。『オモウマい店』に「ヒューマングルメンタリー」という新語のフレーズがついている通り、テレビ番組の新たなジャンルが開発されたといっても過言ではありません

『PS純金』は東海地区で金曜夜7時~、『オモウマい店』は全国の日テレ系列で火曜夜7時~放送中。前者は「Locipo」(ロキポ)、後者は「Locipo」と「TVer」(ティーバー)でそれぞれ見逃し配信しているので、地上波放映エリア以外の人も一度視聴してみてください。

(写真撮影/筆者 ※クレジット記載の写真は中京テレビ提供)