名古屋で「酒場本」が出版ラッシュ!その背景と狙いとは?

「酒場」をタイトルに謳った名古屋本の数々。いずれも令和元年後半に出版された

「酒場」がキーワードの出版物が相次いで発売

名古屋で今、酒場本の出版ラッシュとなっています。『大人の名古屋「大人の名古屋的 酒場大全」』『KELLY Premium 最高の酒場』『ぴあMOOK 名古屋名酒場』、そして僭越ながら拙著『名古屋の酒場』と、タイトルに「酒場」を謳う本や雑誌の出版が主に昨年後半に相次ぎ、書店の売り場をにぎわせています。

期せずして起こった名古屋の酒場本ブーム。書店での反響、出版社の狙い、そして背景にある街の酒場事情を探っていくこととします。

同様のテーマの本が同時期に出版されたことで書店ではコーナー展開しやすくなる。写真は丸善名古屋本店
同様のテーマの本が同時期に出版されたことで書店ではコーナー展開しやすくなる。写真は丸善名古屋本店

「同じテーマで、同時期にこれだけ出版物が重なるのは確かに珍しい。でも、それだけ『酒場』本が売れるという勝算が各社にあるのでしょう」というのは丸善名古屋本店副店長の大森いずみさん。複数の類書が出そろったことは、「コーナーを大々的につくれるのでお客様の目を引きやすい」というメリットが生まれる一方、「興味が分散してしまう恐れもある。そのため、特にプッシュしたい本を前面に打ち出すなど、売り場づくりに書店の考え方も反映されます」といいます。

そして、この出版ラッシュの背景には、名古屋の街の変化もあるのではないかともいいます。

「『酒場』には界隈という意味も含まれるので、飲み屋が集まったエリアも指すことになる。むつみ小路や伏見地下街など、名古屋市内にはこの2~3年で注目を集めるようになった横丁がいくつもあり、これらを取り上げるにも酒場というキーワードはしっくり来ます」(大森さん)

出版ラッシュの背景に名古屋の酒場の盛り上がり!

街の酒場の盛り上がり。これは各誌が口を揃えた出版の要因でもありました。

ここ数年、名古屋の街が酒場を中心に活性化している。駅西は名古屋駅に降り立った人たちも含めてにぎわい、大人向けの飲み屋が点在して独特な酒場文化が根づく新栄のようなエリアもあれば、栄には初心者でも入りやすい立ち飲み屋が増えてきた。伏見の長者町横丁のような近年急速に盛り上がったホットスポットもある。こうした街の動きがバックグラウンドにあったから、同時多発的に酒場をテーマとした本が出版されたのでは」(『大人の名古屋』編集部・篠田享志さん)

「2010年にイチ早く『愛しの1000円酒場 東海版』を出した時は、内容はよかった割に売れ行きは今ひとつだった。しかし、『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)の人気やネオ大衆酒場ブームもあって“酒場”というキーワードが浸透し、名古屋でも伏見の長者町横丁、むつみ小路などが誕生して立ち飲み文化が普及してきた。そういう社会情勢や街の変化も背景に、2015年に出した『名古屋名酒場100』が爆発的にヒットしました。今回は特にこうした動きを象徴する、酒場で街がにぎわっている雰囲気を誌面に反映させたいと考えて制作しました」(『ぴあMOOK 名古屋名酒場』編集長・住田貴通さん)

「テーマが決まったのは今期首の春ごろ。今の名古屋の象徴する動きとして酒場が自然と浮かび上がってきました。名物店主による個性的な店が増えていて、店同士の横のつながりが強く、お客さんを含めた“寄り合い感”を感じられるようになっている。こうした街の動きがあったからこそ、各誌の企画が偶然にも重なったのではないでしょうか」(『KELLY Premium』編集長・堀井好美さん)

名古屋の酒場の盛り上がりを象徴するスポット、栄のむつみ小路。2013年頃から立ち飲み屋が続々とオープンし、名古屋の立ち飲みシーンの代表的存在となった
名古屋の酒場の盛り上がりを象徴するスポット、栄のむつみ小路。2013年頃から立ち飲み屋が続々とオープンし、名古屋の立ち飲みシーンの代表的存在となった

各誌がカラーを打ち出す編集方針と店のチョイス

「酒場」というテーマは同じですが、それぞれ編集方針は異なります。

「酒場から連想されやすいレトロな雰囲気とは少し解釈を変えて、フレンチ、イタリアン、和食など、『大人の名古屋』ならではの比較的高級感のある店も取り上げています」(『大人の名古屋』篠田さん)

「『KELLY』は女性誌で、編集部員も男性は1人だけで他は全員女性なので、当然女性を意識して編集しています。例えば店主がイケメンだったり、夫婦で店に立っている、新しくオープンした、など女性が関心を抱きやすい切り口でお店をセレクトしています」(『KELLY Premium』堀井さん)

「ぴあMOOKのワンテーママガジンという強みを活かして、徹頭徹尾誌面を酒場で埋め尽くしている。情報量の多さを『昼呑み』『老舗』『味噌おでん・どて』『立ち呑み』『看板メニュー&名物鍋』などバラエティに富んだ章立てによって分かりやすく構成しています」(『ぴあMOOK 名古屋名酒場』住田さん)

ちなみに拙著『名古屋の酒場』は“オジさんが1人で飲める店”をセレクトの目安とし、何より筆者がすべて自腹でリサーチ・取材・撮影していることを一番の差別化のポイントとしています。

【名古屋の酒場本 4誌 比較】

『大人の名古屋』「大人の名古屋的 酒場大全」(CCCメディアハウス) 6月30日発売 148頁 1320円 43軒掲載

『KELLY Premium 最高の酒場』(ゲイン) 12月8日発売 116頁 891円 136軒掲載

『ぴあMOOK 名古屋名酒場』(ぴあ中部支社) 12月19日発売 100頁 979円 104軒掲載

『名古屋の酒場』(リベラル社・大竹敏之著) 11月20日発売 196頁 1760円 84軒掲載

(※『大人の名古屋』の酒場大全は第1特集のため全体では他の掲載店などあり)

4誌制覇は名古屋一の老舗とオープン半年の最新人気店

このようにそれぞれ編集方針に個性があり、店選びも当然ながら異なります。4誌すべてに掲載されていた店は2軒だけ。4誌制覇したのは「大甚本店」、そして「大賛成」。奇しくも名古屋で最も歴史のある明治40年創業の超老舗と、令和元年5月にオープンしたばかりの新鋭店という対照的な2つの酒場でした。両店のコメントは下記の通りです。

大甚本店は110年以上(!)の歴史を誇る、名古屋を、というより日本を代表する居酒屋(『名古屋の酒場』より)
大甚本店は110年以上(!)の歴史を誇る、名古屋を、というより日本を代表する居酒屋(『名古屋の酒場』より)

「そんなに載っとったかい? (雑誌などを見たお客さんの反応は)“載っとったな”と言うくらい。常連さんだって若い新規のお客さんだって同じもん食べて同じもん飲んでくれるもんで、一緒だよ。若い人も一回来れば次からは慣れた調子で使ってくれるでね。女同士のお客さんも最近は多いよ。でも1人や2人ならええんだけど、女の子4、5人だとおしゃべりに夢中になってまってやかましいでかんわ。そういう人には釘を刺すんだけど、雑誌を見て来てくれたお客さんも、周りからやかましいと思われんよう飲んでほしいわね」(「大甚本店」店主・山田弘さん)

「大賛成」は2019年5月にオープン。開店直後から大勢のファンをつかみ、一躍人気店に(『名古屋の酒場』より)
「大賛成」は2019年5月にオープン。開店直後から大勢のファンをつかみ、一躍人気店に(『名古屋の酒場』より)

「よくいらっしゃるお客様から“雑誌見たよ”と声をかけていただける機会が増えました。こちらからはアプローチできないので、たくさんのお客様に知っていただける機会が増えてうれしく思います。歴史があるお店には勝てない部分があるので、それを逆手にとって普段は大衆酒場にあまりなじみのない方でも、気負わずに楽しんでいただける店づくりをしたことがニーズに合っていたのかなと考えています」(「大賛成」代表・仲野智博さん)

この他、3誌に掲載されていたのは下記の6軒でした。このラインナップを見るだけでも、各誌の傾向が少しうかがえるのではないでしょうか。

のんき屋(名古屋駅近くの老舗立ち飲み店/『大人の名古屋』『ぴあMOOK 名古屋名酒場』『名古屋の酒場』掲載)

島正(屋台発祥の味噌おでんの名店/『大人の名古屋』『ぴあMOOK 名古屋名酒場』『名古屋の酒場』掲載)

StanDiningやまびこ(名古屋の立ち飲みブームの火付け役/『KELLY Premium』『ぴあMOOK 名古屋名酒場』『名古屋の酒場』掲載)

たか(今池の大人気庶民派居酒屋/『KELLY Premium』『ぴあMOOK 名古屋名酒場』『名古屋の酒場』掲載)

美奈登(昭和32年創業のホルモン焼肉店/『KELLY Premium』『ぴあMOOK 名古屋名酒場』『名古屋の酒場』掲載)

一位(地酒の品揃えは名古屋屈指/『大人の名古屋』『KELLY Premium』『名古屋の酒場』掲載)

上段左からのんき屋、島正、中段左からStanDiningやまびこ、たか、下段左から美奈登、一位(『名古屋の酒場』より)
上段左からのんき屋、島正、中段左からStanDiningやまびこ、たか、下段左から美奈登、一位(『名古屋の酒場』より)

名古屋発の名古屋本だからこその信頼性

丸善名古屋本店・大森さんは、これら酒場本がどれも地元発信であることにも意味があるといいます(『大人の名古屋』は東京のCCCメディアハウス発行ですが、制作チームの中心は名古屋。しかも各地で出版された『大人の~』シリーズの中で現在唯一名古屋版だけが継続されVol.49まで号を重ねて地元で定着しています)。

「かつての名古屋本ブームの際は、東京の出版社や著者による少々底が浅いものも見られました。しかし、今回はどれも地元発。そういう点で読者からの信頼を得られやすいし、私たちも自信を持ってお薦めできます」(大森さん)

地元密着の出版社や編集者だからこそ、近年の名古屋の酒場の盛り上がりを敏感に察知し、現在の酒場本ブームにつながったというわけです。

名古屋で熱い酒場の今を伝える、酒場本の数々。これらを参考に名古屋の酒場の魅力にふれ、街の活気を体感していただきたいものです。

□関連記事 「『立ち飲み不毛』を返上。名古屋で個性派立ち飲み屋や横丁が登場してブームに」

(写真撮影/すべて筆者 ※『名古屋の酒場』より と記載の写真は大竹敏之著・リベラル社発行『名古屋の酒場』より転載)