あんかけスパ=餡子スパ? なぜ“名古屋ぎらい報道”はデタラメだらけなのか?

名古屋叩きはオイシイ?『名古屋はヤバイ』に週刊ポスト「名古屋ぎらい」特集記事など

誤解だらけの「名古屋=魅力がない街ワースト1」

昨年からちょっとしたトレンドになっている「名古屋ぎらい」報道。週刊ポストの「名古屋ぎらい」特集に端を発し、様々なメディアがこれに追随。つい先頃はこの流れに便乗した『名古屋はヤバイ!』(ワニブックスPLUS新書)なる本も刊行されました。

以前にも書きましたが(「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」)、一連の名古屋バッシングのきっかけは、昨年6月に発表された「名古屋=魅力がない、行きたくない街ワースト1」のアンケート結果だと思われます。全国主要8都市を対象とした調査で、「行ってみたい」の回答がダントツに少なく、それが発表された結果、「魅力がない→不人気→嫌われている」と解釈され、面白半分のヘイト報道につながったと考えられます。

当の名古屋人としてはケチをつけられっぱなしで当然気分の良いモノではありません。しかし、発端となったアンケートの発信の仕方にそもそも誤解を生む要因がありました。報道では、あたかも名古屋が日本中で最も魅力がない、行きたくないと思われているかのようなイメージが拡散されていますが、調査対象は名古屋市、東京23区、横浜市、京都市、大阪市、神戸市、福岡市の8都市に過ぎません。しかも、調査項目はほとんど“観光都市として魅力があるか”を基準としています。というのも、このアンケートは名古屋市が観光都市としてブランディングを図るための資料として自ら集めたものなのです。ようするに、全国の人気観光都市7都市と比較したら観光地としての魅力は一番不足している、というのが調査結果の正しいとらえ方。市長自ら「日本一魅力のない街、行きたくない街」と自虐ネタにするようなものではないのです。

「あんかけスパ=餡子(あんこ)のスパ」!? ここがヘンだよ!「名古屋ぎらい」報道

首長が先頭を切って誤解を広めているのですから無理もないとも言えますが、「名古屋ぎらい」報道の中身もずい分と誤解が目立ちます。名古屋をネタにしていながら、付け焼刃だったり牽強付会にもとづいた内容が多いのです。

それでも、いちいち誤りを指摘するのも大人げない、と思っていたのですが、とうとう極めつけのトンデモ「名古屋ぎらい」記事が飛び込んできました。

先頃、『アサ芸プラス』にアップされた「専門家が解明!名古屋はなぜこんなにも嫌われるのか?」です。さすがにコレばっかりは放置できない、と私に筆を執ることを決心させたのが下記の記述です。

「食べ物にはやたら餡子を入れる習慣もあるが『その代表が小倉トースト、あんかけスパゲティで』」

・・・んんん? これはあんかけスパゲティと「喫茶マウンテン」の甘口抹茶小倉スパを混同しているんじゃ? あんかけスパゲティとは、ミートソースを具がなくなるまでこして中華や和食の“あん”のようなとろみをつけたソースをかけたもので、間違っても餡子など乗っていません。

「喫茶マウンテン」の甘口抹茶小倉スパ。決して“名古屋めし”ではありません
「喫茶マウンテン」の甘口抹茶小倉スパ。決して“名古屋めし”ではありません
これがあんかけスパ。中華や和食の“あん”のようなとろみのあるソースが名前の由来
これがあんかけスパ。中華や和食の“あん”のようなとろみのあるソースが名前の由来

コメントの主は先の『名古屋はヤバイ!』の著者でもある“県民性博士”こと矢野新一氏。著書の煽情的なタイトルや帯のアオリは、編集部の意向が反映されているのだと思いますが、とりわけ「名古屋めしはパクリだらけ」という主張は、ポストの「名古屋ぎらい」への便乗が色濃いため、根拠に乏しい強引な結論づけが目立ちます。

アサ芸プラス記事では「ひつまぶしは大阪由来だし、味噌カツとトンテキも三重県が発祥地」と完全に断定。しかし、ひつまぶし(大阪よりもむしろ三重県津市の発祥説の方が、名古屋の由来とは異なり興味深いです)、味噌カツ(津市に昭和40年に味噌カツを独自に開発したお店があります。ただし、名古屋にはそれより創業の早いとんかつ・洋食店はあり、この当時味噌串カツ以外の一枚揚げの味噌カツがなかったかは判然としません。これについてはまだかなり調査が必要です)に関しては、そういう説もあるとしか言えません。トンテキについては、名古屋めしとして売っている飲食店は私が知る限りありませんし、あったとしてもきわめてレアケースだと言えるでしょう。

ただし、矢野氏はポストが「パクリだ!」とあげつらっていた岐阜の鶏(ケイ)ちゃんやトンテキについては、著書の中でしっかり現地取材をして、これらを名古屋めしと謳っている店はほとんどないことを検証しています。アサ芸記事のトンデモすぎる誤解は、編集部が勘違いしたままコメントを曲解してまとめた可能性も無きにしもあらずです。

ついでなので今さらですが、誤解報道の大元、ポストの名古屋めしに関する記事の「?」な箇所も取り上げておきます。

「名古屋めし。ひつまぶし、天むす、トンテキなどが有名だが」(2016年9月9日号)。

この出だしだけで、記者がいかに名古屋めしに関する知識が薄いかが明白です。名古屋めしの代表的な3品として、天むすはまだしもトンテキを挙げる名古屋人はまずいません。私は名古屋人約200人を対象に名古屋めしアンケートを行ったことがありますが、トンテキ、そして鶏ちゃんを挙げる人は1人もいませんでした(ちなみに天むすは13位)。鶏ちゃんについては、私も矢野氏同様に実地検証してみました。名古屋で鶏ちゃんを最も売っている飲食店は「かぶらやグループ」だと思いますが、実際に食べに行ってスタッフに「これって名古屋めしなの?」とカマをかけたところ、「いえ、飛騨の郷土料理で名古屋めしとは別物です」ときちんと説明してくれました。

“名古屋人=ムダが嫌い”も間違い?

矢野氏は、尾張藩の緊縮財政が、ケチで見栄っ張りな名古屋人気質を生み、「文化はムダから生まれる、という言葉がありますが、名古屋はムダを排除しすぎたため文化的思考が薄くなり、結果『おもてなし』的な部分が抜け落ちてしまったのかも」とも論じていますが、これもいささか乱暴な印象を受けます。

名古屋の歴史に詳しい蓬左文庫の元調査研究員の松村冬樹さんによると「江戸時代は全国どの藩も財政は苦しく、尾張藩の緊縮策は適切な経済政策の範囲内だったと考えられます。何より尾張では深刻な飢饉はほとんどなく、庶民の生活にも比較的ゆとりがあり、煎茶や番茶で一服する習慣も浸透していたようです」とのこと。

喫茶店のモーニングは名古屋流おもてなしの象徴。写真はコメダ珈琲店
喫茶店のモーニングは名古屋流おもてなしの象徴。写真はコメダ珈琲店

それを背景に発展したのが現在の喫茶店文化であり、名古屋市民の年間の喫茶店支出額はお隣の岐阜市とともに他を大きく引き離して全国トップを誇ります。また、モーニングやおつまみなどのおまけサービスや、「コメダ珈琲店」に代表される長居をうながす空間作りやサービスはこれぞ“名古屋流おもてなし”として今や全国に広まっています。喫茶店に費やすコーヒー代や時間はいわば大いなるムダ。喫茶店文化が栄えている名古屋に対して“ムダやおもてなし”がないと断ずるのは、名古屋に対する“ケチ”“文化不毛の地”という旧来のレッテルによる先入観にとらわれすぎている感を否めません。

「Nagoya,Worst」で大衆をあおるポピュリズムのきな臭さ

あるグルメ評論家が“店の悪口を書くならすべてのメニューを食べた上で発言するのが最低限のマナー”という趣旨の発言をしていましたが、批評するには相手に対する十分な知識・情報が前提になることは言うまでもありません。「名古屋ぎらい」で残念なのは、名古屋に対する理解が浅いままに、思い込みや結論ありきでバッシングする報道が目立つことです。トランプ大統領の「America,First」ならぬ「Nagoya,Worst」で大衆をあおるポピュリズムにはきな臭さすら禁じ得ません。

しかし、こうした残念な風評を誘発してしまうのは、名古屋の情報発信力にも問題があると自戒を込めて思うのもまた事実。市が行ったブランディングのための調査で逆ブランディングしてしまい、あまつさえ市長がウケを狙ってネガティブなキャッチフレーズを“ネタ”にして吹聴するのはその最たるものと言えるでしょう。私自身、いまだに「あんかけスパゲティ=餡子の乗ったスパゲティ」と勘違いされてしまうなんて、名古屋ネタライターとしての力不足を痛感するばかりです。

浅薄な「名古屋ぎらい」報道に歯止めをかけるためには、まずは名古屋が今回の件を教訓にして、正しい発信力を身につけていくことから始めるしかありません。名古屋をネタにする皆様も、どうぞ名古屋のことをよくご理解いただきご意見頂戴できればと存じます。