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U-23北朝鮮代表の早大・梁賢柱 「無観客開幕」から夢のJリーグへ!

大島和人スポーツライター
梁賢柱選手(早稲田大):筆者撮影

関東大学サッカーは3ヶ月遅れで開幕

学生スポーツが新型コロナウィルスの影響に見舞われる中で、2020年の関東大学サッカーリーグ戦は7月4日に開幕した。もちろん普段通りとはいかず、一般の観客は入場禁止で、選手や関係者も細かい対策を求められている。各校は貸切バスでチームの本拠と拠点を往復し、不要な接触を避ける配慮がされている。

とはいえサッカーに人生を懸ける大学生たちにとって開幕は朗報だ。サッカーは新人の契約時期が自由で、例えば法政大は既に5名がJクラブの内定を得ている。しかし多くの選手は7月から始まるシーズンが2021年に向けた「就職活動」の山場で、会場を訪れるスカウトはそのプレーをオファーの判断材料にする。

目を引いた丸刈りドリブラーの活躍

5日に茨城県龍ケ崎市で開催された早稲田大(昨年8位)と法政大(昨年4位)の試合を取材していたら、妙に目立つサイドアタッカーがいた。左サイドのウイングとして起用されていたその選手は、スピードに富んだドリブラー。守備も球際の勢いがあり、何より丸刈りが目立っていた。

「早大にこんな選手はいたっけ?」が第一印象だった。普段ならメディアに配布されるメンバー表を見るが、新型コロナの影響で今季はJリーグも大学サッカーも「紙」の配布がない。

早大の丸刈りドリブラーは53分に決勝ゴールを決め、2-1の勝利に貢献した。

早大は練習が2ヶ月中断

早大も3月27日から6月1日まで、2ヶ月に及ぶ練習中断期間があった。今も一般学生はキャンパスへの立ち入りを禁じられているという。ただしサッカー部を含む一部の体育会は行動管理、健康管理を前提に活動再開が認められている。

外池大亮監督は中断期間の取り組みをこう説明してくれた。

「オンラインでグループディスカッションをしたり、思考を深める活動は、ある意味で全選手に等しく与えられた機会です。4年生を中心に積極的に取り組んでくれて、今まで能力だけでやっていた子が、もう一歩先の強さや逞しさを得られた」

丸刈りドリブラーの活躍について尋ねると、こう述べていた。

「相手(法大の右サイドバック)の関口(正大)くんはJに内定している選手です。Jに行く選手と対峙するのは、怖さもあると思います。だけど、そこを乗り越えていくことが自分自身(の運命)を切り開くと、ずっと話していた。彼もオンザピッチが中心だった選手ですけど、この2ヶ月間で状況を分析して、駆け引きでも選択肢を持てるようになった。鼓舞していく、空気を作るみたいなところも意識できている」

プロ志望も進路決定はこれから

丸刈りドリブラーは梁賢柱(リャン・ヒョンジュ)。名前を聞けば大宮アルディージャU-15時代に全国大会のMVPに輝いたこともある「エリート」だった。2015年秋のU-17ワールドカップは朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の代表選手として出場し、16強入りに貢献した。その後も共和国の年代別代表に呼ばれており、2020年1月のAFC U-23選手権でもゴールを決めている。

早大4年の彼はプロを志望しつつ、まだ進路が決まっていない。この日の梁賢柱は風貌も含めて「勢い」「脱皮」を感じさせるプレーを見せ、何より結果でアピールした。

中断期間の準備を生かした決勝ゴール

試合後の梁賢柱はこう語っていた。

「コロナの影響で長い間準備期間があって、チームとしてやるべきことを準備期間に徹底していた。それが今日の試合に出た」

決勝ゴールはサイドチェンジを受けて左サイドのスペースに抜け出し、自ら運んで1対1から流し込んだ形だった。結果に結びついた準備が自チームのスカウティング、コミュニケーションだ。

「練習試合(の映像)を見て、仲間の特徴をもう一度確認して『どうしたら自分が生かされるのか』を自分になりに分析してやっていました。右サイドバックの柴田選手はロングボールがあって、練習から『(外に)張っておいて』と言われていた。柴田くんに入った瞬間に『あ、来るな』と思ったので準備して、突っ込むだけでした」

19分の1点目も、最初は梁賢柱の得点と発表されていた。法政大のディフェンダーがコーナーキックのクリアを失敗し、彼が詰めて触る形だった。最終的にはオウンゴール判定となったのだが、「幻のゴール」も中断期間の準備が反映していた。

梁賢柱は説明する。

「練習から『お前はこぼれ球を徹底しろ』と口酸っぱく言われていたので、ずっと練習から意識してやっていた。たまたまボールが来て、ゴールに入りそうなところでちょっと触りました」

こだわった「結果」

青々しい丸刈りは、この試合の直前に刈っていた。

「コロナのときに、気分転換で坊主にしてみようと思って、『あ、似合うじゃん』となった。結構イジられキャラなので、関東リーグが始まる前に『一回丸めてこい!』みたいに(チームメイトから)言われて、床屋で(刈った)」

相馬勇紀(名古屋グランパス)は既に日本代表キャップも得ている早大OBだが、梁賢柱の2年先輩で、寮の同部屋だった。小柄だけど逞しいウイングという特徴は重なっている。そんな先輩の励ましも、彼を力づけていた。

「『結果を残せ』『結果を残さないと上の世界にでは通用しない』と言われていた。結果を残せてよかったです」(梁賢柱)

チームメイトの強みを知り「活かされ方」を探る。“ビジュアル”で人の目を引き、空気をつかむ。結果にこだわり、結果を出すーー。そんな意志と工夫があって、運命の扉が動き始めている。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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