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東京五輪の秘密兵器候補は205センチ シェーファーアヴィ幸樹が見せる急成長

大島和人スポーツライター
写真=B.LEAGUE

Bリーグ入りして2か月

2月のバスケットボール男子日本代表強化合宿を観察していて、ある選手のプレーに驚いた。シェーファーアヴィ幸樹は21歳のセンタープレイヤーで、代表やBリーグでまだあまり実績がない。しかし彼はニック・ファジーカスや竹内兄弟、太田敦也ら同ポジションのベテランに優るとも劣らない動きを見せていた。ワールドカップ(W杯)予選の遠征メンバー13名には入らなかったが、少なくとも「もう一歩」のレベルだった。

シェーファーはジョージア工科大学を中途退部し、2018年12月に昨季のB1王者アルバルク東京と契約したばかり。205センチ・106キロの体格を誇り、2017年夏のFIBA U19 W杯では八村塁と共に「世界」を相手に奮闘を見せた。同大会の10位は日本にとって史上最高成績だった。今は1年半前に比べて見違えるほど全身が逞しくなり、プレースピードやシュートの質も上がっている。

日本代表は2月24日のカタール戦で、W杯予選の全日程を終えた。本大会出場を自力で決めたのは21年ぶりという快挙だった。

8月31日に開幕するW杯中国大会、来年の東京オリンピックに向けた競争はもう始まっている。昨年11月以降の予選4試合に出場していない渡邊雄太(メンフィス・グリズリーズ)、八村塁(ゴンザガ大)、渡辺飛勇(ポートランド大)、テーブス海(ノースカロライナ大学ウィルミントン校)といった海外組も、NBAやNCAAがオフになれば代表に加わる。シェーファーも代表のポジション争いに絡んで欲しい、絡むべき才能だ。

なぜ「出場が難しいチーム」を選んだのか?

3月3日の富山グラウジーズ戦で、彼は第1クォーター残り3分3秒にコートイン。試合が実質的に決着した「ガベージタイム」でなく、ホットな時間帯から起用されていた。最終的にシェーファーは合計4分42秒と今季最長のプレータイムを得て、4得点2リバウンドも記録している。ただそれは6試合ぶりの出場だった。アルバルクのインサイドには外国籍選手と、各クラブの外国籍選手と互角以上に渡り合う竹内譲次がいる。途中加入の若手がプレータイムを得ることは容易でない。

また有望な若手が、戦力の揃ったビッグクラブに進むことを否定的に受け止める人もいるだろう。「挑戦より安定を選択した」ようにも受け取れるからだ。自身も当初は出場機会を優先する考えを持っていたという。敢えて「出場が難しいチーム」を選択した理由について、彼はこう説明する。

「環境と、ルカ(パヴィチェヴィッチHC)の存在を考えて、アルバルクが一番成長できると思いました。教えてもらわず、ただ試合に出るだけでは成長できない。(アルバルクは)ちゃんとイチから教えてくれる」

高1まではサッカー一筋

彼のバスケ歴はまだ4年強。関西で育ったシェーファーはセンアーノ神戸というクラブに所属し、サッカー一筋でプレーしていた。センアーノはいわゆる街クラブだが、小学生年代で全国制覇の実績もあり、前身となる神戸NKサッカークラブは香川真司(ベシクタシュ)を輩出している。

高校に上がるタイミングでシェーファーは関東へ転居し、セント・メリーズ・インターナショナルスクールに入学する。ただ移籍先探しは不調に終わった。インターナショナルスクール秋始業で、引っ越し前に各クラブのセレクションは既に終わっていたからだ。中途入部となれば、どうしても敷居が上がってしまう。

セント・メリーズにもサッカー部はあったものの、レベルが落ちた。一方でインターナショナルスクールは総じてバスケ熱が高く、横田や横須賀にある米軍系のハイスクールはBリーガーも輩出している。身長2メートル超のサッカー少年も、高2でバスケ転向を決意した。

競技開始から年代別代表に招集されるまで、1年もかからなかった。インターナショナルスクールの選抜メンバーとしてU-16日本代表が練習試合を戦う機会があり、彼はそこでトーステン・ロイブルヘッドコーチ(現3×3日本代表HC)の目に留まった。シェーファーは本人の言葉を借りれば「アメリカと関西人のミックス」で、日本国籍を持っている。希少なサイズを持つ初心者は代表に引き上げられ、シンデレラストーリーが始まった。

コーチ陣の特訓で上達

アルバルクに加入した彼は、充実した時間を過ごしている。日々の練習でマッチアップするのはアレックス・カーク、ミルコ・ビエリツァ、ジャワッド・ウィリアムズ、竹内とB1最強クラスの面々。若者は錚々たる先輩たちと対峙についてこう述べる。

「全員タイプが違うので、日々刺激を受けています。マッチアップしてやられることも多いので、『もうちょっとこうした方がいいな』と勉強になる。ただ初めはコテンパンにやられていたけれど、段々やり返せるようになってきた」

恋塚唯GMによると最近は「アレックス(カーク)がムキになっている」とのこと。新入りが元NBAに一泡吹かせる場面もあるらしい。

シェーファーは急成長の一因にワークアウト、つまり全体練習後の個別練習を挙げる。

「ワークアウトが凄い量です。シュート精度とか、ドリブルとか細かい面ですごく上達してきている。他にはバスケIQの部分で、動きの中で自分がどうポジションを取るとか、そこをルカは細かく、理由をつけて教えてくれる。自分でもちゃんと理解できるので、勉強になっている」

アルバルクは自前の体育館を持ち、食事や休養の環境が整い、医療や施術のサポートも充実している。大器に目をかけて特訓してくれるアシスタントコーチ陣もいる。バスケ歴が浅い彼はまだスキル面で発展途上。他の選手が小中から取り組んでいるような基本をしっかり身体に刷り込んで、実戦レベルまで上げる「仕込み」が残っている。丁寧に教えてもらえる環境は最適だ。

アルバルクはルカHCを筆頭に、ファンダメンタル(基礎)を重んじるヨーロッパスタイルのカルチャーがある。ジョージア工科大ではあまりいい扱いを受けられなかったというシェーファーだが、日本バスケやアルバルクにとっては金の卵。周りにも手をかけて彼を育てようという意志がある。

もっともレギュラーシーズン中は個人練習に時間を割くことがなかなか難しい。だが富山戦の直近はW杯予選の関係で長いオフがあり、彼は「ガッツリ追い込んでもらった」という。ルカHCも「2週間チームとしっかり練習して、プレータイムを勝ち取った」とその成長を認めていた。

代表合宿も「普通にやれた」

代表合宿参加について聞くと、彼も手応えを感じていた。

「全然普通にやれたと感じている。(自分は)ビッグマンの中では足も速いし動けるし、日本人ビッグマンの中では跳べる方なので、そういう面は勝っていると思います。細かいスキル面の失敗はあったけれど、今アルバルクでガッツリやっているので、そういうのを上げていけば本当に(代表入りを)狙える」

当面の目標はスキルアップと共に、Bリーグでプレータイムを増やすことだ。3日に対戦した富山は、アルバルクにいないタイプの「大物」を擁していた。ジョシュア・スミスは208センチ・138キロのビッグマン(実測は150キロを超えているだろう)。そのポストプレーはダバンテ・ガードナー(新潟アルビレックスBB)と並んでB1最強レベルだ。

ただシェーファーは“肩透かし”を受けてしまった。富山のドナルド・ベックHCは21歳のルーキーがコートに入ると、すぐスミスを下げて休ませていたからだ。彼はこう悔しがる。

「スミスとやり合いたいというか、自分がどれくらいできるか確かめたい思いはあったけれど、付いていたのはワンプレーだけだった。そのときはスミスがボールに触っていなかった」

シェーファーはこう抱負を口にする。

「僕の出た時間が穴だと思われないように、逆に僕が出てきたら怖いと思われる選手になって、アルバルクの手助けをしたい」

日本バスケの秘密兵器に

今の彼はまだ実戦で起用されても、相手の外国籍ビッグマンとやり合えない場合がある。ボールを持っていても、そこまでタフに対応されない。ただシェーファーがスキルを上げれば、より濃い経験を積めるようになる。実戦で色んなビッグマンと渡り合うことで、その経験値も上がっていく。そう考えるとまだキャリアはまだ入口だ。

ともあれシェーファーはまだ21歳。バスケを始めて4年で日本のトップクラブに入り、代表合宿にも呼ばれた事実はポテンシャルの証明に違いない。彼は205センチ・106キロの巨躯でしっかり走って跳べて、身体を張る献身性もある。加えて陽気で前向きな性格も、アスリートとしてプラスになるだろう。質問に対して当意即妙で、無駄がなくそれでいて楽しい答えを返してくるクレバーさも魅力だ。(※英語も堪能だが筆者とのやり取りは日本語)

彼は日本バスケにとって「2020年以後」のキーマンのひとりだろう。アルバルクでの取り組みが実ればもっと早く、夏のW杯や東京オリンピックの秘密兵器となり得る存在だ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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