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ついに20連敗。B1島根が低迷する理由とブースターの向き合い方

大島和人スポーツライター
写真=B.LEAGUE

男子バスケのBリーグ1部(B1)に参戦している島根スサノオマジックが、連敗記録を更新し続けている。3月25日の京都ハンナリーズ戦で連敗は「20」に到達し、現在18チーム中最下位。12月23日の滋賀レイクスターズ戦が直近の勝ち試合で、2018年は未勝利だ。

NPB(プロ野球)82年の歴史を見ても、最長連敗記録は千葉ロッテマリーンズが1998年に記録した「18」止まり。Jリーグも京都サンガ(1996年)の「17」が最長だ。B2は岩手ビッグブルズが今季に入って24連敗を記録しているし、bjリーグでは広島ライトニングが46連敗(2015-16シーズン)を喫している。しかしこの国の「2部以下があるプロスポーツの1部リーグ」で20連敗以上が起こったのは、おそらくこれが初めてだろう。

島根はレギュラーシーズン60試合中46試合を終えて7勝39敗で、残留プレーオフに回る可能性が極めて高い。B1からB2への降格は2チームもしくは3チーム。レギュラーシーズン終了後の5月には「B1残留プレーオフ」が勝率下位の4チームで争われ、1回戦に敗れると自動降格だ。連勝すれば残留だが、プレーオフの2回戦で敗れるとB2の上3位と入替戦を戦うことになる。(※B1ライセンスの問題などで、入替戦が行われないケースもある)

外国籍選手の契約解除は既に5名

島根の低迷には必然と不運の両面があるだろう。彼らは昨季のB2西地区王者で、プレーオフは準優勝で昇格を決めた。しかしB1とB2の格差は経営規模、レベルともに大きかったようで、今季は西宮ストークスも含めて昇格2チームが苦戦している。島根は勝久マイケルヘッドコーチが退任し、主力選手も大きく入れ替えるなどチームのラインアップを大きく変えた。ただ「継続」を選択した西宮も8勝38敗の17位と苦しんでいる。

とはいえ島根がチーム編成の面で迷走したことも間違いない。Bリーグは外国人選手の「出入り」が野球やサッカーに比べて激しいが、それにしても島根の出入りは極端だった。

2017-18シーズンが9月末に開幕してから島根の退団者は4名もいる。ブレンダン・レーンが11月29日、ギャレット・スタツが1月5日、タイラー・ストーンが2月2日、ジャミール・マッケイが2月28日と外国籍選手の契約解除が相次いだ。また昨季は琉球ゴールデンキングスでプレーしていたレイショーン・テリーは開幕前に契約が発表されたものの、一度もプレーしないまま開幕前の9月8日に契約が解除された。つまり1年間で5人の外国籍選手がクラブを去った。ストーンは3か月、マッケイは2か月しかクラブに在籍しなかった。

京都戦も苦しい展開に

不運は主力選手の負傷だ。Bリーグは選手登録の締め切りが2月末で、3月に入れば「出」はともかく「入り」が不可能になる。そんな中でチームは3月17日にインサイドの柱であるジョシュ・スコットが左手親指付近の剥離骨折を負い、チームは外国籍選手を2人しか起用できない状態になっている。

24日の京都ハンナリーズ戦を取材したが、西地区2位の相手に対して68-83と完敗を喫していた。京都のセンターを務めるのは「自称体重150キロ」の巨漢ジョシュア・スミス。島根は彼に対してダブルチームの対応を徹底したが機能せず、ゴール下の戦いで圧倒された。

鈴木裕紀ヘッドコーチは試合をこう振り返る。「今日はポイントガードと4番(パワーフォワード)から(2人目のマークを)行かせていた。しかしポイントガードのところはいいタイミングで行ってもサイズが無いので簡単に上を通された」

スミスはオーバーハンドパスなどでフリーな味方選手を使い、島根の守備を上手く逆用していた。また島根は京都インサイド陣のパワーと物理的な「大きさ」に苦しみ、リバウンドは京都の44本に対して29本と大きく後れを取った。

一方で2月末に加入したアル・ソーントンは、NBAでも活躍したB1トップクラスの大物で、この試合も22得点を記録した。ただし彼はどちらかというとアウトサイドのプレイヤーで、まず彼の能力を引き出す展開に持ち込むことが必要だ。24日も鈴木HCが「アル・ソーントンの個人能力を使おうとし過ぎて、みんながテンポダウンをした結果、ロースコアになってしまった」と振り返る展開となった。後半は持ち直したものの、持ち味の速攻を出せず、前半はわずか25得点に留まっている。

次につながる敗北との「付き合い方」とは

ただどんなに負けてもリーグ戦、クラブの歴史は続く。自分が松江市総合体育館で印象づけられたのは連敗の中でも、試合に対して前向きなブースターの姿だった。試合中、試合後ともに罵声は全く聞こえず、チームを励ます声しか耳に届かなかった。

松江市総合体育館は松江駅から徒歩約10分の好立地で、2016年に竣工したばかりの新しく快適な施設だ。そういう「地の利」もあるのだろうが、25日時点の1試合平均観客数は2287名と昨季(1503名)から大幅に増加している。勝てない中でもクラブは地域に根付いていることは間違いない。Jリーグでは「昇格すると勝てなくなって、逆にお客が減る」というパラドックスをよく目にするが、島根は昇格効果を享受している。

鈴木HCはこう述べる。「昨シーズンの島根はB2で、ブースターの方々は負けることを知らない状況だったと思うんです。今は毎試合毎試合こういうゲームになってしまって、辛い思いをさせてしまっている。でもこうやって諦めずにメガホンを叩いて僕たちを後押ししているので、感謝の気持ちしかありません」

佐藤公威キャプテンはこう口にする。「負けが込んでいるときは当然、曇った感じもあるんですけれど、どんな状況でもきっかけを作るのは自分自身。みんなきっかけをつかみたくて、試行錯誤をしながらやっているわけですけど、その中でもみんなが空元気を出しながら、チームのために行動したり、雰囲気を明るくしたり、そういうのは毎日やっています。どういうきっかけがあるか分からないですし、きっかけをすぐ作れるか、どれくらいかかるか分からないですけれど、いいきっかけを作る行動をとっていきたい」

スコット選手の剥離骨折については「あと3週間は最低かかる」(鈴木HC)という状態だが、5月の残留プレーオフにはぎりぎりで戻って来る可能性がある。チームはその間にも、やれることをやるしかない。

鈴木HCは彼の不在についてこう述べていた。「ジョシュ(スコット)に頼ってきたところは凄く大きかったけれど、それ以外の引き出しを見つける機会になると思います。無いものをねだっても仕方ない。今いるメンバーでできるところをしっかりやりたい」

勝つことは素晴らしいが、敗戦を受け入れて真摯に次の戦いへ向かうことも大切だ。仮にトーナメント戦なら負けたら終わりで、潔く区切りをつければいい。しかしリーグ戦は人生と同じで、どんなにひどい失敗をしても「次戦」「翌シーズン」がある。やれることは続けて、その上で前向きな選択肢を探って、再び次の希望に向かって歩き出すしかない。

苦境は嫌な奴だが、いい加減にあしらうと別れられない。でも上手く付き合えば、きっとすっきり別れられる。島根ブースターは20連敗の中でも、シビアな状況と上手く付き合っている――。そんなことを感じた松江の一戦だった。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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