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Bリーグを盛り上げる下剋上 B1への最短昇格を目指すライジングゼファー福岡

大島和人スポーツライター
写真=B.LEAGUE

B2初年度で西地区首位の福岡

16年秋に開幕した男子バスケのBリーグは、Jリーグと同じような昇降格制度を取り入れている。しかしサッカーに比べると年間売上、競技力の両面で1部と2部の「格差」が大きい現実も否めない。今季からB1に昇格した島根スサノオマジック、西宮ストークスはいずれも36試合を終えて7勝。B1の最低勝率で沈んでいる。

しかしB2に目を移すと、こちらは「下剋上」が激しい。特にライジングゼファー福岡はB3からの新昇格にもかかわらず、30勝6敗で西地区の首位に立っている。東地区、中地区も含めた18チーム全体で見ても、福岡の勝率は2位。このままの成績を保てば、5月のプレーオフに進むことになる。

B1ライセンスの取得を前提にすれば、B2の2位以内でB1への自動昇格が決まる。またB2の3位もB1の「16位」と入れ替え戦を戦う権利があり、そこで勝てば昇格だ。

中地区首位との大一番は2連勝

2月10日、11日には福岡市民体育館で彼らの大一番が組まれていた。対戦相手のファイティングイーグルス名古屋は中地区首位で、B2のプレーオフ準決勝で対戦する可能性も少なからずある強敵。彼らの目標である「最短でのB1昇格」を達成するための、試金石となるカードだった。

福岡は初戦を96-90で取ると、2戦目は107-84と大勝。今季初の100点ゲームで、チームとしてB2昇格後の最多得点を記録した。

話を県全体に広げると、福岡はおそらく日本最高のバスケどころ。福岡大大濠、福岡第一の両校は先日のウィンターカップでも4強に残った強豪だし、日本代表のエース比江島慎も福岡県生まれだ。

一方でこの土地には「見るスポーツ」としてこの競技がなかなか根付けなかった過去がある。旧JBLスーパーリーグ時代の2006年には、福岡レッドファルコンズがリーグ戦をシーズン半ばで棄権するという不祥事を起こした。ライジング福岡(現ライジングゼファー福岡)は07-08シーズンからbjリーグに参戦しているが、決して順風満帆だったわけではない。Bリーグの設立が決まった後も、福岡県協会が加盟申請に必要な支援承諾書を出さず、一時は参戦すら危ぶまれた。オーナーの変更などもあり体制を整え、滑り込みで申請手続きを行ったが、初年度のカテゴリーはB3。おそらくリーグ側が彼らの安定性を危ぶんでいたからだろう。

しかし福岡は愛称を「ライジングゼファー」に改めて臨んだ16-17シーズンのB3を制し、今季から戦いの場をB2に移した。現経営陣の手腕は早々に実り、昨季から「タレント的にはB2でも十二分に戦える」「経営規模はB1 に近い」という評価が耳に入っていた。今季の結果はそれを裏付けている。

「豊富なタレントが全力を尽くしてプレーする」

そんなタレントの一人がキャプテンの山下泰弘。彼は11日のFE名古屋戦で3ポイントシュートを「5分の4」の高確率で決め、12得点6アシストというMVP級の活躍を見せた。彼は31歳のベテランPGで、東芝でプレーしていた2015-16シーズンにはNBL制覇にも貢献している。

107点の理由を聞くと、彼はこう説明してくれた。「後半戦に入ってオフボールスクリーン(ボールがないところでのスクリーン)を増やそうという指示が出て、その練習を年明けから重ねた。パプ選手(ファイパプ月瑠)が起点となってインサイドにボールを入れたとき、相手ボールの寄りが早いので、逆サイドの空いたスペースを上手く使おうとした。それを今日の試合で上手く出せた」

FE名古屋の渡邊竜二ヘッドコーチ(HC)はこう敗因を振り返っていた。「福岡の走るバスケットに我々がついていけなかった。福岡はタレントも豊富で、しかもその豊富なタレントが全力を尽くしてプレーする。ジェイコブセン選手が継続して走って、インサイドで身体を張ってというところが、我々にとって非常に脅威となった。それを止めるべく全員で戻っても、そこでどうしてもズレができてしまった」

エリック・ジェイコブセンは23歳のアメリカ人選手で、208センチ・116キロのビッグマン。彼はB2でもトップレベルのスコアラーだが、バスケのIQや献身性も兼ね備えている。

福岡はPGの山下が187センチで、SGの北向由樹が185センチ。薦田拓也、加納誠也といった190センチ台の選手が3番(SF)にも入ってくるサイズ感は、B2にあってかなりのアドバンテージだ。

またファイパプ月瑠はB1横浜ビー・コルセアーズから移籍してきた200センチのPFだが、「帰化選手」のためオン・ザ・コート1(外国籍選手の同時起用制限が1名以内)の時間帯にも二人目としてプレーできる。福岡はインサイドの余裕から、外国人枠の一つをアウトサイドプレイヤーのジョシュ・ペッパーズに割ける。

ベテラン選手たちが持つバスケIQ

11日のFE名古屋戦は5人が二けた得点を挙げたが、福岡はどこからでも攻められるチームだ。河合竜児HCはチームについてこう評する。「みんなでボールをシェアしようということは、そんなに喋らなくてもいい。選手がベテラン揃いでそういうことは言わなくても理解できている」

福岡にとって今季はB2初年度で、加えて地区の違うチームは対戦する機会が少ない。FE名古屋も初顔合わせの相手だった。そんな相手に対して、福岡は1戦目の経験値を活かす大勝を見せた。河合HCはこう胸を張る。

「(選手たちが)スカウティングだけで感じ取れない部分、個々の能力や癖を昨日対峙して学習した。試合の後半になってきてチーム内の色んな考えが一致してきた。あいつがこういうDFをしているから、こちら側はこういうプレーをしようと、かなり先回りして名古屋のやりたいことを止められた」

B1昇格に向けた好材料

チームの目標はB1への最短昇格で、現在の成績を見ればそれは十分に可能だ。河合HCも「シーズンを通して段階を踏んで上がってきている」と手ごたえを口にする。一方で残り24試合の日程を見ると西地区2位の熊本ヴォルターズ戦が4試合あり、東地区首位・秋田ノーザンハピネッツとの交流戦も残っている。彼らにB1で戦う資格があるのかどうかを占う、「最後の山」となるカードが続いていく。

そんなチームにとって、明るい材料となりそうなのが副キャプテン小林大祐の復帰だ。福岡大大濠高、慶應義塾大、日立(現サンロッカーズ渋谷)、栃木ブレックスと有力チームを渡り歩いてきた30才のSGだが、17年10月25日の広島ドラゴンフライズ戦で左上腕骨骨幹部骨折の重傷を負っていた。しかし河合HCは小林について、「3月中には間違いなく復帰できます」と太鼓判を押していた。

昇格に向けた成績以外のハードルの一つが「平均1500人以上」を基準とした観客数だが、10日は2248名、11日は2439名のファンが福岡市民体育館に駆け付けた。平日開催や福岡市以外の開催は観客数の減る傾向があり、現時点での平均観客数は1649名。ただし「1500人」のクリアは全く問題ないだろう。

福岡県出身でもある山下キャプテンはそんな状況をこう喜ぶ。「試合を重ねるごとにブースターさんが増えていることを、僕たちもうれしく感じている。接戦などで僕たちがシュートを決めるとすごく盛り上がってくれるので、モチベーションもすごく上がる」

また福岡の土地柄かもしれないが、ライジングゼファーはブースターの応援への「参加率」が高い。試合とともにBリーグの“華”となるチアリーダーも、わざわざ他県から撮影に来るファンがいるほど。メンバーの一人であるKANAさんは、Bリーグのチアリーダーとしてはおそらく初の写真集を出すことが発表された。

加えて18年秋には福岡市東区に5千名収容の新アリーナが建つ。「熱が熱を呼ぶ」「客が客を呼ぶ」のがプロスポーツだが、福岡のバスケからもそういういい循環の生まれそうな気配が感じられた。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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