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47歳となった今季も現役続行 選手兼オーナー・折茂の恐るべき挑戦

大島和人スポーツライター
写真=B.LEAGUE

現役続行を宣言

6月19日14時。バスケファンの間でちょっとした「ざわめき」が起こっていた。Bリーグのレバンガ北海道から折茂武彦選手の記者会見が予告され、「重大発表」を匂わせていたからだ。先月14日に47歳を迎えた彼だから、現役を続行するにしても、引退するにしても、それ自体が大きなニュースになる。筆者も遠く東京から、インターネットの配信に見入った。

折茂は「Bリーグをモチベーションとしてやってきた」「最低限の仕事はできたと思う」と語り始めると、「たくさんの方にご心配をおかけしましたが、現役を続行させていただきたい」と宣言。以後のコメントはチャンピオンシップ、オリンピックへの意欲も語る前向きな内容だった。

46歳の昨季も全試合に出場

折茂は15-16シーズン(NBL)に右足甲の骨折でシーズンの大半を欠場。出場も13試合にとどまった。しかしBリーグ初年度となった昨季は全60試合に出場。先発こそ12試合だったが途中交代で渋いプレーを見せ、1試合平均の出場時間も19.3分(1試合40分)とチームの欠かせない戦力になっていた。特にレバンガが負傷者の続出による選手不足に陥っていた序盤戦は、ほぼフルタイムで土日の連戦に出場していた。

190センチ77キロと痩躯の彼はシュートの名手で、今季も1試合平均9点近くを記録している。外角からのシュートを淡々と沈めるプレースタイルが特徴で、昨年11月29日の千葉ジェッツ戦では日本バスケでも前人未到の通算9000点を記録した。

B1を見れば42歳の高橋マイケル、40歳の桜木ジェイアール(ともにシーホース三河)といった大ベテランがおり、昨季は36歳を迎えた田臥勇太(リンク栃木ブレックス)の活躍も素晴らしかった。ただ47歳はバスケ界でも比較不能の次元。代表選手としての実績、ハードな競技性も含めて考えれば日本のプロスポーツでも横浜FCの三浦知良選手(50歳)に次ぐ存在と言っていい。

彼は”天才肌のシューター”としても知られている。シューターは何百本とシュートを打ち込む”練習の鬼”揃いだが、折茂選手は自主練習すらしないというからそういう意味でも特別な存在だ。

経営者としても続けてきた戦い

折茂がすごいのは「オーナー兼選手」という立ち位置だろう。レバンガの前身レラカムイ北海道は2010年に経営の行き詰まりが表面化し、リーグ戦への参戦継続も危ぶまれる状況に陥った。2011-12シーズンの開幕を前に折茂は現役選手でありながら一般社団法人北海道バスケットボールクラブを自ら設立。理事長(のちに株式会社化して代表取締役)として経営責任を持つ立場になった。

クラブは11年8月に現チーム名で再出発を果たした。今以上に厳しいバスケ界の環境の中で、折茂は資金繰りやスポンサー集めといった部分でも戦ってきた。

厳しい経営状態は今も変わりなく、クラブは18-19シーズンのライセンス付与に向けて債務超過(資本増強)の解消を求められている。B1に参戦し続けるとなれば、折茂が単独オーナーとしてクラブを背負うことは難しい。新たな出資者(株主)を探して、資本をしっかりと積み、経営の安定化を図る必要がある。

またレバンガが参戦するB1の東地区は、昨季の8強が5チームも入る”大激戦区”になっている。秋田ノーザンハピネッツと仙台89ERSがB2に降格した一方で、川崎ブレイブサンダースと渋谷サンロッカーズが中地区からズレてきたからだ。昨季は東地区4位、全体13位で残留を決めた彼らだが、今季の残留は何倍も難しくなるだろう。

経営者として、選手としてそんなシビアな状況に立ち向かい続けているという意味でも、折茂の挑戦は「最年長」に止まらない価値を持っている。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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