幼児虐待を防ぐ選択肢の1つ、特別養子縁組でも育休が取れる。経験者に話を聞いた。

仮名:西野かな子さん/取材時に筆者撮影

虐待で亡くなった船戸結愛ちゃん5歳が残した「おねがい、ゆるして」のメッセージ。このニュースに心痛めない人はいないのではないか。このような痛ましい事件をどうすれば防げるのか。その選択肢の1つとして、望まない妊娠や貧困などで育てられない産みの親にかわり、育ての親が実子として養育する「特別養子縁組」がある。

昨年2017年1月より改正育児法が施行し、育児休業の対象となる子の範囲が拡大され、特別養子縁組の監護期間にある子、養子縁組里親に委託されている子なども育休の対象となった。しかし、範囲が拡大されたこと自体あまり知られていないばかりか、養子縁組の情報さえも広く届いていないように思う。

そこで、特別養子縁組とはどのような制度か、特別養子縁組の育休と一般の育休とはどこが違うのか、経験者に語ってもらった。

参考記事:死亡の5歳、ノートに「おねがいゆるして」両親虐待容疑

●特別養子縁組とはどんな制度?

まず、養子縁組には、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」がある。特別養子縁組は、6歳未満の子どもに限られ、子どもとその実親側との法律上の親族関係を消滅させ、育ての親との間に実親子関係に準じる安定した養親子関係を家庭裁判所が成立させる。普通養子縁組は養子養女と記載されるのに対し、特別養子縁組は戸籍に長男長女と記載され、実子として育てられるのが大きな特徴である。

日本財団ハッピーゆりかごプロジェクトのHPより
日本財団ハッピーゆりかごプロジェクトのHPより

養子縁組は、行政機関である児童相談所により里親制度の中で実施されるケースと、民間の養子縁組団体によって実施されるケースがある。

児童相談所を通して養子縁組となる場合、新生児・乳児の委託はほとんどない。多くの自治体では、まず新生児・乳児を施設で預かり、1~2年間実親の意向や子どもの障害・病気の有無を充分把握してから面会交流、里親委託、そして養子縁組へという流れになっているためである。この場合、養親となる夫婦の研修、審査、あっせんに関わる費用、子どもの委託までの保育料などはすべて税金で賄われ、養親の経済的負担はほとんどない。

一方、民間の養子縁組団体や医療機関から子どもを迎える場合は、新生児・乳児のうちに養親に委託されることがほとんど。それぞれの団体で養親となる条件(年齢や働き方など)があり、条件を満たす夫婦に対して独自の審査・研修を設けている。産まれてくる子どもの福祉を優先するため、妊婦への支援や養親候補の面接審査等を実施しており、一般に養親側がその費用を負担する。目安は100~200万円と言われるが、その金額は団体によって異なる。団体を選ぶ際に、自分の考えとフィットする団体を見つけられると、その後の流れも比較的スムーズになる。

東京都福祉保健局のHPより
東京都福祉保健局のHPより
仮名:西野かな子さん/取材時に筆者撮影
仮名:西野かな子さん/取材時に筆者撮影

●自分の子でも育児は大変なのに、ましてや他人の子なんて…

西野かな子さん(仮名/41歳)は、結婚してから5年間ほど不妊治療をしていた。治療前から妊娠は難しい身体と分かっていた。体外受精まで努力したが、やはり妊娠できず、40歳前までに治療はおしまいにしようと夫と決めていた。

西野さんはもともと幼稚園教諭をしていて、子どもが大好きだった。学生時代から児童教育を学んでいて、社会的養護の授業を受けていたので、以前から養子縁組について知識があり、特別養子縁組で子どもを育てることを考えた。

しかし、夫にはそのような知識がない。まずは勉強会に行くように勧め、徐々に夫の理解を得ていった。

39歳で民間の養子縁組団体に登録する際に、双方の親に相談した。「自分の子でも育児は大変なのに、ましてや他人の子をきちんと育てられるのか」と当初は心配されたという。それでも、西野さんにとって母親になることは、血の繋がりの有無に関わらず、人生のなかで当たり前のプランだった。

民間団体は、全国でわずか15 団体ほど。西野さんはそのうちの1団体にだけ登録した。登録してもすぐに子どもを得られるわけではない。登録自体の選考も厳しく、登録後も何年待つか分からない。子どもと養親とのマッチングで決まり、登録順ではないからだ。

けれど、とても幸運なことに、西野さんは登録の申込をしてから約3ヶ月後に子どもを迎え入れることができた。長い間待つ覚悟でいたので、迎え入れが決まった際には、「こんなに早く出会えるなんて!」という喜びの気持ちで溢れ、不安は1ミクロもなかったという。

イメージ画像/仮名:西野かな子さん提供
イメージ画像/仮名:西野かな子さん提供

●産んでくれて、託そうと思ってくれて、ありがとう!

迎え入れたのは新生児(生後0ヶ月)の男の子。実母は予期せぬ妊娠のため、自身で育てられる状況になく、養子として託すことを決断したそう。

特別養子縁組は子どもの福祉のためにあるので、「男の子がいい」「女の子がいい」「産みの親に病気がない子を希望」「胎内環境がよかった子を希望」などという養親の希望は一切認められない。特別養子縁組になる子どものほとんどは、予期しない妊娠、とくに貧困、レイプ、学生、風俗、パートナーの裏切りなど、女性にとってはとても複雑で苦しい状況の中から生まれてくる子たち。どんな環境で芽生えた命でも、将来的にどんな病気や障害が出ようとも、自分の子どもとして一生責任をもって守り、愛情豊かに育てていく決意が養親には必要だ。

西野さんは、「自分のもとに来てくれただけで有難い!産んでくれて、託そうと思ってくれて、ありがとう!」という気持ちでいっぱいだったという。

迎え入れたあとは、試験養育期間(監護期間)というものがあり、家庭裁判所の審判や児童相談所の家庭訪問を受けたりもする。西野さんの場合は、産みの親と顔を合わせることはなく、やりとりはすべて民間団体を通して行われた。家庭裁判所で養子縁組の結審が下りるまで9ヶ月間かかり、1歳を迎える前に戸籍上も実の親になることが出来た。

西野さんは、産まれたばかりの赤ちゃんであっても、実母と離れたということは分かっていると思うという。産まれた時のお母さんの匂いや肌触り、お腹のなかにいた時に聞いたお母さんの声、それらとは異なる環境にやって来たということは本能的にきっと分かるはずだという。民間団体の多くが、迎え入れてしばらくは子育てに専念することを条件に設けている。

現在、子どもは2歳。西野さんと夫の双方の親も、今では実の子同然に可愛がっている。

●会社への相談は早めに!

西野さんの育休はどんなだったのか。まず、自身が妊娠・出産しないので、上司に妊娠を報告することがなく、事前に上司に相談していないと、いきなり育休取得となり、これでは職場に迷惑を掛けてしまう。

西野さんはまず、民間の団体に登録する時点で会社に相談した。その後、選考を通過し無事登録でき、待機の状態になった時点で再度共有したという。職場の反応は、「事故や病気など突然のことは他にもある。無事養子を迎え入れることが出来たら、その時に一緒に考えよう」というスタンスで、とても温かいものだった。もともといつ誰が仕事を抜けても業務が滞らないように、一つの仕事を二人体制でやっている職場だった。

いつ養子を迎え入れられるか分からない状態だったが、西野さんの場合は、3ヶ月後にその時が来た。育休は子どもが生まれて5日後の同居開始日から取得することにした。育休取得が突然決まったので、5日間で子どもを迎え入れる準備と仕事の整理と、やることがものすごくあった。そこで、最初の2ヶ月間は半育休という形をとり、その後完全育休を取得することにした。半育休とは、月80時間までなら育休制度(社会保険料の免除と給付金)を利用しながら働くことが出来るというもの。半育休中の子どもの世話はベビーシッターを使い、仕事は在宅ワークで行った。

自身の経験を振り返って、西野さんは「会社への相談は早い方がいい」という。法改正で育休対象の子の範囲は拡大されたが、実務レベルでは知られていないため、人事など対応部署が戸惑う可能性もあるからだ。

今は養子での育休と一般の育休と内容に違いはないが、西野さんが取得した当時は法改正前だったので社会保険料の免除がなく、そのため人事や西野さん自身も手続きに戸惑ったという。

仮名:西野かな子さん/取材時に筆者撮影
仮名:西野かな子さん/取材時に筆者撮影

●養子縁組で子どもを迎えたことを、オープンにしている

日本では結婚する4組に1組が再婚というデータがある。再婚や事実婚により、血縁のない親子関係や兄弟姉妹関係を含んだ家族形態を「ステップ・ファミリー」という。

冒頭で紹介した、虐待で亡くなった船戸結愛ちゃんも母親の連れ子で、継父から暴力を振るわれていた。近年、日本もステップ・ファミリーが増加傾向にあり、今後も増加が想定される。しかし、この家族が直面する課題に関しては関心が低く、ステップ・ファミリーという家族形態の認知がまだまだ低いのが日本の現状である。

児童養護施設に預けられている子どもはおよそ4万人。厚労省は今、目標値を定めて里親や養子縁組を推進するよう動き出している。

欧米に遅れをとっているものの、ステップ・ファミリーや養子縁組など血にこだわらない家族のあり方は、今後日本でより一般化してくるだろう。その後押しの一助として、西野さんは、養子縁組で子どもを迎えたことを、周囲に対しかなりオープンに話している。一般的な家族のあり方として、養子縁組の家族が増えて欲しいと願っているという。