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前原新党はなぜこのタイミングで結成したのか、公選法の移籍禁止規定と財政問題に注目

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

国民民主党から4名が離党し、5人で新党が結成される

11月30日、前原誠司元外相ら国会議員5人が、新党「教育無償化を実現する会」を結成しました。

この新党立ち上げに際し、前原誠司、斎藤アレックス、鈴木敦の衆院議員3人と嘉田由紀子参院議員は、国民民主党を離党(離党届は受理されておらず、正式な離党は今後)。更に立憲民主党を今年夏に離党していた徳永久志衆院議員が加わり、国会議員5人による新党「教育無償化を実現する会」の旗揚げとなります。

なお、「教育無償化を実現する会」の役員は、前原誠司代表、嘉田由紀子副代表、徳永久志幹事長、斎藤アレックス政務調査会長、鈴木敦国会対策委員長となっており、今後の報道各社による世論調査などでも「教育無償化を実現する会」の支持率などが報じられることになる見込みです。

ワンイシューの影に潜む「維新」への合流の目論見

この新党「教育無償化を実現する会」は、そもそも名称からして近年の国政政党にはない点、すなわちワンイシューという大きな特徴があります。

これまでの国会を見渡すと、(厳密には「NHKから国民を守る党」などもありましたが、)主要政党からの離脱・新党立ち上げという、選挙を経ていない形での政党旗揚げで、ワンイシューを掲げるということは非常に異例なケースと言えます。

日本維新の会の参院選2022重点政策(確認団体届出ビラ1号)、https://o-ishin.jp/sangiin2022/より引用
日本維新の会の参院選2022重点政策(確認団体届出ビラ1号)、https://o-ishin.jp/sangiin2022/より引用

そして教育無償化というと、日本維新の会が掲げている政策と極めて近似していることにも注目です。日本維新の会は先の参院選でも重点政策の第1項目に「教育無償化」を掲げ、既に大阪府では高校授業料の完全無償化を進めるなど、具体的な動きもある目玉政策となっています。

ワンイシューの政党は一般的に長続きしないとされ、更に言えば教育無償化という大きなテーマであるにしても異論がそこまで出そうにない政策という事柄をみると、次の衆院選に向けて政策テーマを設定する時限政党として役割を担う位置付けとみることもできるでしょう。

これまでの前原氏と日本維新の会との親密さを考えれば、前原氏によるワンイシュー政党の旗揚げを通過点として、日本維新の会への合流がいよいよ始まったという観測が、永田町では主流となっています。

なぜ維新に行かないのか、比例復活議員の移籍禁止条項とは

そうなると、そもそもなぜ「新党立ち上げ」という手間のかかることをするのか、という疑問が起きることになります。この理由を筆者がツイートしたところ、大変多くの反響がありました。

この理由には、公職選挙法の規定があります。括弧書きが多い条文で大変複雑ですが、まずは条文を参照します。

(衆議院比例代表選出議員又は参議院比例代表選出議員の選挙における所属政党等の移動による当選人の失格)
公職選挙法九十九条の二 衆議院(比例代表選出)議員の選挙における当選人(第九十六条、第九十七条の二第一項又は第百十二条第二項の規定により当選人と定められた者を除く。以下この項から第四項までにおいて同じ。)は、その選挙の期日以後において、当該当選人が衆議院名簿登載者であつた衆議院名簿届出政党等以外の政党その他の政治団体で、当該選挙における衆議院名簿届出政党等であるもの(当該当選人が衆議院名簿登載者であつた衆議院名簿届出政党等(当該衆議院名簿届出政党等に係る合併又は分割(二以上の政党その他の政治団体の設立を目的として一の政党その他の政治団体が解散し、当該二以上の政党その他の政治団体が設立されることをいう。)が行われた場合における当該合併後に存続する政党その他の政治団体若しくは当該合併により設立された政党その他の政治団体又は当該分割により設立された政党その他の政治団体を含む。)を含む二以上の政党その他の政治団体の合併により当該合併後に存続するものを除く。第四項において「他の衆議院名簿届出政党等」という。)に所属する者となつたときは、当選を失う。

複雑だと思うので、(やや乱暴ですが)条文中の括弧書きをほぼ削除すると、以下の通りになります。

衆議院(比例代表選出)議員の選挙における当選人は、その選挙の期日以後において、当該当選人が衆議院名簿登載者であつた衆議院名簿届出政党等以外の政党その他の政治団体で、当該選挙における衆議院名簿届出政党等であるものに所属する者となつたときは、当選を失う。

要は、衆議院議員総選挙で比例当選した議員は、比例当選した時に所属していた政党から、その総選挙の時にあった別の届出政党に所属した場合、当選を失う(=失職する)という比例議員の移籍禁止条項が定められています。

今回、新党結成に加わった議員のうち、前原代表(京都2区)は小選挙区で当選しており、嘉田副代表(参院滋賀)は参院議員で、かつ選挙区で当選しているため、仮に日本維新の会に直接移籍しても問題はありません。

一方、徳永幹事長(比例近畿@滋賀4区)、齋藤政務調査会長(比例近畿@滋賀1区)、鈴木敦国会対策委員長(比例南関東@神奈川10区)の3名は、いずれも先の衆院選で比例復活した議員であり、比例近畿ブロックや比例南関東ブロックにおいて競合していた日本維新の会には移籍することはできません。このため、離党して新党立ち上げを行ったものとみられます。

もちろん今後衆議院が解散した段階では衆議院議員としての身分を失うため、この新党メンバーごと日本維新の会入りすることも可能となります。そのためのワンクッションとしての政党という位置付けだという見方が大勢となっています。

なぜこの時期に新党結成なのか、政党助成金の基準日とは

更に言えば、なぜこの時期なのかという疑問も湧いてきます。前原代表は、数日前に政府の補正予算案に国民民主党が賛成した場合、離党するという意向を示したと報じられていました。ただ、この報道は本人が「誤報」とXに投稿するなど、一度は否定しており、今回の行動との矛盾を感じさせます。

くわえて、岸田首相のこれまでの発言から年内の解散は無いとの見立てが強まっているなか、この時点での離党は直接的な選挙対策として説明がつきません。

ここで意識したいのは、政党助成法に基づく政党助成金の基準日が1月1日であることです。政党交付金の交付の対象となる政党は、直近の選挙における得票割合が一定以上を満たした政治団体か、国会議員5人以上を有する政治団体と決められています。新党の旗揚げでは、前者(直近の選挙における得票割合基準)は理論上あり得ないため、後者の「国会議員5人以上」が、新党結成の際の目安として知られています。

今回、5人の国会議員が所属する新党「教育無償化を実現する会」は、(国民民主党を離党した4人の離党手続きが完了し)、来年1月1日現在でも所属国会議員が5人以上いる限り、政党交付金を受け取ることができます。

新党の今後と、試金石となる京都市長選挙の見通しは

新党「教育無償化を実現する会」ですが、今後の見通しはどうなるでしょうか。反自民・反共産の位置付けを自負している前原代表のもと、野党連携の枠組みを強化していくことが想定されます。

とりわけ、前原代表と馬場代表との関係は極めて緊密です。「教育無償化を実現する会」の名称について、同党の記者会見以前に日本維新の会の馬場代表が記者に漏らしたほか、前原代表も記者会見において、記者会見前日に馬場代表に対して新党旗揚げの「さわりだけ」話したと述べており、維新との連携を軸に新党運営は進むものとみられます。

京都市長選挙は、令和6年1月21日告示、2月4日投開票予定
京都市長選挙は、令和6年1月21日告示、2月4日投開票予定提供:アフロ

そして、その試金石となるのは来年の京都市長選挙(来年2月4日投開票)です。日本維新の会は、これまで大阪府を基盤として党勢拡大に務め、最近の国政選挙では兵庫県や和歌山県に進出したほか、今年春の統一地方選挙では、大阪府外初の公認知事として、山下真奈良県知事を誕生させました。一方、京都府への進出は遅れており、最近でも11月12日の京都府八幡市長選挙で日本維新の会公認の尾形賢氏が落選するなど、悲願の京都進出は長年苦戦しています。

ただ、現職の勇退による新人同士の争いになる京都市長選挙には、日本維新の会・国民民主党・京都党が推薦する元京都市議の村山祥栄氏が立候補を予定しており、この市長選挙で馬場代表と前原代表は共闘関係にあります。

国民民主党京都府連の推薦は維持したまま、新党「教育無償化を実現する会」としても村山祥栄氏を応援する考えを示した前原代表と日本維新の会の思惑通り、村山祥栄氏が勝利を掴むことができるか、それとも自民、立憲民主、公明の3党相乗り候補である元内閣官房副長官の松井孝治氏、前回は共産・れいわの推薦を受けた福山和人氏、自民党を離党した京都府議の二之湯真士氏が勝つのか。この結果が当面の前原・馬場共闘体制の命運や、日本維新の会の関西席巻を決定づけるだけに、注目です。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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