Yahoo!ニュース

大阪街宣が話題になった日本保守党、その実力と今後の展望は

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
百田代表率いる日本保守党に保守の関心が集まりつつある(画像は党公式HP)

日本保守党の街宣からみる党勢

日本保守党が先日実施した大阪街宣の様子が、SNSなどで話題となっています。

今回の日本保守党による大阪街宣は、まだ国会に議席を持たない政治団体である日本保守党の大阪初となる街頭演説という位置付けでしたが、現地の様子を収めた写真や投稿などから、相当の人数が集まったことと、その演説が大阪府警による中止要請により途中で終了したことが、話題となりました。 政党や政治団体が行う街頭演説の動員人数の発表は数字が多く盛られる傾向にあり、今回も「数万人」などといった誇張した表現もみられますが、それでも大阪・梅田の有名街頭演説スポットであるヨドバシカメラ前で、歩道橋の上や(店舗に迷惑がかかっているという指摘はあるものの)店舗の入口周辺にまで密集した群衆ができることは、主要政党による大物弁士の街頭演説並の動員力ともいえ、この動員力は過小評価すべきではなく、同党へ相応の関心が集まっているとみるべきでしょう。

百田尚樹チャンネル「日本保守党・大阪街宣ノーカット動画」(https://www.youtube.com/watch?v=KIbaN-HtJ4Q)よりスクリーンショット
百田尚樹チャンネル「日本保守党・大阪街宣ノーカット動画」(https://www.youtube.com/watch?v=KIbaN-HtJ4Q)よりスクリーンショット

日本保守党の関心が高まっていることの背景には、岸田内閣発足による保守的政策の後退に対する不安があるとの指摘があります。 安倍晋三元首相が銃撃されて以降、自民党の保守系派閥である清和政策研究会(安倍派)の存在力は自民党内で相対的にやや低下しており、そのような中で憲法改正発議に向けての党内の動きも、かつてより弱くなってきているとみられています。 ハト派と目される岸田首相の支持率が低下していくなか、自民党支持層のとりわけ保守層の一部が、今の自民党を見限り、日本保守党を支持しているようなケースもあるでしょう。近年、保守分裂の選挙が増えてきたことで、巨大化した自民党の内輪揉めに飽きた与党支持者や、憲法改正を推進する団体やその支持者、保守論者などが支持しているとみられます。岸田首相も憲法改正論議を自らの総裁任期中に進めると発言していますが、保守系支持者のつなぎ止めではないか、と見透かす声もあります。

日本保守党の政党支持率と選挙の展望

マスコミ各社の実施する世論調査では、支持政党に「日本保守党」の回答選択肢がないことから、日本保守党の支持率は現時点で正確には判別がつかない状況です。とはいえネット界隈における保守層の支持を得ていると見られる日本保守党の、国内全体での知名度や支持率はまだそこまで高くはないと見られますが、かつてれいわ新選組がネット世論などの支持を受けたことを嚆矢として党勢拡大に努め、結果的に参議院議員選挙における比例区や東京都選挙区で議席を獲得するなどして国政政党の地位を固めたという事例もあります。自民党支持層における岸田内閣支持の割合も下がってきていることから、今後の党勢拡大の状況によっては、国政政党への道はそこまで長くないとの見方もできます。

では具体的にいつ国政政党になることができるのでしょうか。

自民党総裁選を来年秋に控えるなか、国政選挙は再来年夏の参議院議員選挙よりも先に衆議院の解散総選挙があるとの見方が濃厚です。日本保守党が衆議院議員選挙に候補者を擁立するとなると、小選挙区で勝つことのできる候補者を擁立するのは(後述する河村たかし名古屋市長の衆議院小選挙区鞍替えなど、サプライズがなければ)なかなか厳しいとみられ、東京ブロックや近畿ブロック、特別友党関係にある減税日本の地盤である東海ブロックでの候補者擁立が現実的でしょう。先日の記者会見では、衆議院議員選挙への候補者擁立を前提とする発言もすでにありましたが、当選ラインに届くかどうかという点は未知数です。一方、参議院議員選挙であれば、全国比例という選挙区の特性を生かすことで議席獲得の現実味を帯びてくるとみられますし、注目候補者を擁立できれば、東京都選挙区や愛知県選挙区などでも議席獲得を狙う動きも十分考えられます。

ロジスティックの重要性

ただ、現時点の日本保守党には大きな課題もあります。政党を運営していくためには、事務能力などの兵站(ロジスティック)の長けた人材が必要です。 街頭演説をやるにあたっても、警察等への道路使用許可の申請のほか、雑踏警備や道路交通整理等の人材確保やそのノウハウ、救護やトラブル発生時の対応、撮影や記録の担当など、様々な準備が必要です。

河村たかし市長率いる減税日本とは特別友党関係だが、ノウハウが活かしきれるか
河村たかし市長率いる減税日本とは特別友党関係だが、ノウハウが活かしきれるか写真:つのだよしお/アフロ

日本保守党は河村たかし名古屋市長率いる減税日本と特別友党関係にあり、この大阪街宣にも河村たかし市長は参加していました。また、広沢一郎元愛知県議(元名古屋市副市長)が日本保守党の事務局次長として、大阪街宣における所轄警察とのやり取りをしていたことが明らかになっています。既に地域政党を運営をしていた両者が関与することで、ロジ周りには一定のノウハウがあるとみられていましたが、結果的に想定を上回る参加者が集まったことで雑踏警備に問題が生じて所轄警察から演説の中止要請が出たという事実からは、党のロジ周りに不安があることを露呈した結果となりました。

ただ、東京・秋葉原で行われた日本保守党の街頭演説は、大きなトラブルなく終わっていることから、今後街頭演説を各地域で回数を重ねていくことで、党として街頭演説のノウハウも蓄積され、十分な活動ができるようになるでしょう。今回の大阪街宣では救急や消防が現場に多数臨場したことに対しても情報が一時期混乱するなど、ロジ周りだけでなく党としての情報発信などにも不安が残る点がみられましたが、党立ち上げ時のこのような困難を乗り越えて、党勢拡大に努めることができるかが問われています。

既に5万人を超えたという党員が生み出す党費、資金力にも注目です。れいわ新選組はかつて2019年参院選で個人寄附を約5億円集めて、その集金力に注目が集まりました。一方、日本保守党もすでに党員が5万人おり、党費が年6,000円である(※家族党員や特別党員など、党費の異なる党員資格はある)ことから、相応の資金を調達できるとみられます。この資金力を党勢拡大のために使うにあたり、ロジスティックを十分に育てることができるかどうかが、当面の党勢拡大が成功するかどうかの分水嶺となるでしょう。

自民党や参政党から支持層を引き込めるか

さらに、国政選挙は年々投票率が低下していくなかで、新たに選挙に行く層を取り込むというのはなかなか現実的ではなく、日本保守党にとっては、他党支持者のスイッチ(別の政党支持者を転向させて取り込むこと)をどれだけ出来るかが目標になります。そうなると、これまで自民党を支持していた層や、(近年躍進してきた)参政党からのスイッチが当面の目標になるとみられています。

自民党支持層へのアプローチ

自民党の保守論客で知られる青山繁晴参院議員が、総裁選への出馬を明らかにした(画像は自民党HPより引用)
自民党の保守論客で知られる青山繁晴参院議員が、総裁選への出馬を明らかにした(画像は自民党HPより引用)

対・自民党という観点からは、先ほど述べたように岸田内閣発足以降の岸田内閣における政策に不満を持つ者が一定数いることや、LGBT関連政策などに対する不満などが同党の支持に繋がるものとみられています。自民党の保守系議員である高鳥修一衆議院議員は昨日、「内閣支持率や政党支持率が軒並み下がった大きな要素は理解増進法の成立だ。安倍政権を支えた岩盤保守層が離れてしまった」と述べています(ただし、内閣支持率の低下の主な要因は経済対策とみられます)。

一方、巨大組織でもある自民党には右派政治家も多数おり、最近では保守系とされる青山繁晴参議院議員が自民党総裁選への出馬を表明するなど、右派系議員の党内での動きが停滞しているわけでもないことから、総裁選をいしきしてかんがえたときに党員資格のある自民党支持者の離反は限定的ではないか、との見方もあります。

また、防衛増税など保守系支持者にとっては必要ある政策を岸田政権が打ち出している点にも留意しなければなりません。政権与党である自民党は政策実行力を前面に打ち出していることも踏まえれば、自民党支持から日本保守党支持への転向があっても一時的なものに過ぎず、衆参国政選挙の際には結果的に自民党に支持が戻ってくるとの見方もあるでしょう。このあたりは、選挙が近づくにつれて、日本保守党が自ら訴える政策の実行をどのように行うのかという説明が求められるポイントになるとみられます。

参政党支持層へのアプローチ

2022年参院選で議席を獲得した参政党の今後も、日本保守党に影響するとみられる
2022年参院選で議席を獲得した参政党の今後も、日本保守党に影響するとみられる

対・参政党という観点からは、両者は右派かつ保守色の強い政党という点で一致しています。個別の政策をみても、移民政策に反対、消費税の引き下げに賛成、LGBT関連法に反対など政策的に近似し、競合することは明らかでしょう。最近、参政党では党執行部メンバーの離党などが続いており、11月に入っても、党代表を務める神谷宗幣参議院議員の街頭演説で、党アドバイザーであった吉野氏や武田氏に対する言及がなされるなど党内部で問題を抱えているとみられており、参政党支持者がこの状況を踏まえて参政党支持からスイッチする可能性も否定できません。実際に参政党アドバイザーを務める武田邦彦氏が、百田氏との対談動画で神谷宗幣参政党代表を否定する発言をするなどの動きもあります。

一方で、現時点で報道各社の調査による参政党の支持率に大きな変化があるとはいえません。各級地方選挙における候補者の擁立をこまめに行ってきた同党支持者は、草の根の力と地域ごとのネットワークを持ち始めています。結党から時間が経過したことで支持者の結晶化も強まっているともみられ、参政党から日本保守党に大きな離脱・転向のムーブメントがすぐ起きるかと言われると、疑問符のつくところです。

党勢拡大はガバナンスとロジスティックが鍵

いずれにせよ、日本保守党の動きは今後活発になってくると思われますが、新党が必ず抱える情報発信などの「ガバナンス」の課題や、事務周りなどの「ロジスティック」の問題を解決できる党運営ができるかが、今後の党勢を決める大きな要素になるとみられます。

繰り返しますが、党勢拡大、さらに選挙に勝つためには「ロジスティック」がもっとも重要であり、大阪街宣におけるトラブルのような事態をどれだけ防ぐことができるかが重要だということを指摘せざるを得ません。

これらの課題を乗り越えて日本保守党が躍進するか、はたまた課題を乗り越えられずに終わるか、日本保守党は最初の試練に差し掛かろうとしています。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

大濱崎卓真の最近の記事