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マイナンバー問題は岸田政権にどれだけ影響を与えるか

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
マイナンバーに関する問題が政権を直撃した(写真:吉原秀樹/アフロ)

 マイナンバーカードの問題が岸田政権に打撃を与えています。

 直近の内閣支持率低下の要因とも言われているマイナンバーカードに関する様々な不具合やトラブルは、 秋の臨時国会の議論の中心になるとみられます。一説には通常国会閉会直前での衆議院解散を岸田首相が見送った理由とも言われたマイナンバー問題ですが、今後岸田政権にどのような影響を与えるでしょうか。

「住基ネット」トラブルとの類似性

 そもそもマイナンバーカードに先立ち、2002年に導入された住民基本台帳ネットワークの際にも、導入反対運動と様々なトラブルが発生したことは未だ記憶に新しいのではないでしょうか。当時もセキュリティ上の懸念が多く指摘されたほか、なりすましによるカードの発行が発覚するなど運用面での危惧から複数の自治体が初期の導入を見送ることがありました。

 その後、住基ネット上の個人情報削除やプライバシー侵害による慰謝料請求などの住民訴訟などが行われましたが、2008年頃にはほぼ全ての訴訟において最高裁はいずれも住基ネットそのものを合法とする判決が確定し、2015年には最後まで住民基本台帳ネットワークに加入していなかった福島県矢祭町も住基ネットに接続をし日本全国すべての自治体が導入したことになります。

 マイナンバーを巡る問題も、この住基ネットを巡る問題との類似性があります。よって、今後住民訴訟などさまざまな司法判断なども行われることになるとみられますが、最終的には国民の情報を一元管理する本来の目的の達成に向けて政府が粛々と動く方向に変わりはないでしょう。

過熱するマイナンバー批判報道

 岸田内閣の支持率低下に拍車をかけているのが、マイナンバーに関する批判的な報道です。今回のマイナンバー問題は、住民票交付システムの開発会社が発表した事故案件についての報道が嚆矢となりました。その後、相次ぐ問題発覚が起きていることから、底打ちするタイミングがまだみえない状態となっているのが現状です。

 一連の動きのなかで特に注目したいのは、マイナンバーカードの自主返納についてです。マイナンバーカードの自主返納については、Twitterなどで「#マイナンバーカード返納運動」のハッシュタグ運動などが行われ、大きなムーブメントが起きているように見えます。一方、朝日新聞の記事「マイナカード返納、6月に各地で急増「所持は不安」「信用できない」」によれば、都道府県庁所在地や政令市などの比較的人口の多い都市で返納が相次いでいるという趣旨ですが、記事中で紹介されている事例をみても、返納の件数が当該自治体の人口に占める割合はごくわずかです。マイナンバーカードに関する国民の不安が増えていることは間違いない事実でしょうが、不安を煽るような報道も増えてきており、政権にとっては厳しい批判となっているという認識でしょう。

 Twitter上で展開されているマイナンバーカード返納のハッシュタグ運動はトレンド入りし、ハッシュタグ運動そのものが報道されるなど報道は過熱をしていますが、実際の返納状況などをみる限り、少なくとも現時点ではカード返納運動は「エコーチェンバー」となっているとみられます。

河野大臣の手腕と大臣更迭の動きは

河野大臣がどのようにこの問題に収拾をつけるのか
河野大臣がどのようにこの問題に収拾をつけるのか写真:つのだよしお/アフロ

 では、マイナンバーカードをめぐる様々なトラブルはすぐに収束する見込みがあるのでしょうか。マイナンバーカードを利用した機能は始まったばかりであり、今後もトラブルが続く可能性は否定できません。実際、マイナンバーカードを利用した住民票交付システムの開発会社は、トラブルによる点検を6月20日に完了したと報告をし、河野大臣も「安心してお使いいただけます。」と自身のSNSで報告しました。しかしながら、その翌週には新たな住民票誤交付が発生し、証明書交付システムを再び止めて点検すると発表するなど、混乱を極めています。

 このような状況から、一部ではこれらマイナンバーの問題の責任を取らせるため、夏の内閣改造で河野デジタル大臣の更迭があるのでは、との声も上がっています。しかしながら、マイナンバーに関するこれまで発覚したトラブルは、長期的視野に立ったマイナンバー活用の発展途上においての「通過点」とするならば、乗り越えなければならない問題であり、これらの問題について「突破力」があると評価される河野大臣は「余人を以て代えがたい」という認識があるのもまた事実です。6月21日マイナンバー情報総点検本部において、再発防止策の徹底などについて具体的な指示があったことなどを踏まえれば、筆者はこの状況において今夏に河野大臣を更迭することはないと考えます。

 さらに秋の臨時国会ではこのマイナンバーが議論の中心になることは間違いない状況で、(河野大臣を更迭するとして)新たな大臣がマイナンバー問題に関する野党からの厳しい追及に答えることができるか、また答弁するために必要な前提知識を十分に持てるかは疑問です。過去にはサイバーセキュリティ戦略本部の担当であった桜田義孝大臣(当時)が、「自分でパソコンを打つということはない」「(USBを)使う場合は穴を入れるらしいですけど、細かいことは私はよく分かりませんので、専門家に答えさせます」などと答弁し、サイバーセキュリティに関する資質が不十分ではないかと厳しい指摘を受けた例もあります。

 コロナワクチン接種でも河野大臣はリーダーシップを発揮してプロジェクトを推進しましたが、一方で、国会での議論やSNS上のコロナワクチンに関する様々な批判の矢面に立つなど、困難な時期を過ごしていました。今回のマイナンバー問題はコロナワクチンと異なり、(完全にバグが取り切れるとの保証がないという「悪魔の証明」になりつつあるという点において)終わりの時期が見えない問題ではありますが、いずれにせよ、コロナワクチン接種に続き、国全体に大きな影響を与えるマイナンバー問題も河野大臣の手腕が試されることになりそうです。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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