Yahoo!ニュース

旧統一教会と自民党、問題はさらに縦展開・横展開しながら臨時国会へ?

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
旧統一教会と自民党との関係についての報道が続いている(写真:つのだよしお/アフロ)

 旧統一教会の問題による内閣支持率低下が止まりません。報道各社による内閣支持率は先月と比較しても10ポイント以上の下落をみており、もう少し早く収束するとみられていた旧統一教会の問題は、依然として永田町を支配しています。臨時国会が10月3日には召集される見込みであり、岸田政権にとっては厳しい国会運営が予想されますが、この旧統一教会と自民党との関係性についての問題は、さらに縦展開・横展開をするとみています。

縦展開・地方議員への波及

写真:ロイター/アフロ

 自民党は伝統的に地方議員を基盤としているピラミッド型の組織です。衆参国会議員の選挙では、地方議員や地域支部・職域支部が一丸となって地方組織としての選対を構築し、選挙戦を戦います。その意味では、国会議員にとって選挙における地方議員は手足そのもので、国会議員の当選回数や地方議員の当選回数によっては、地方議員が国会議員よりも実力を持っている「逆転現象」が起きているところも少なくありません。

 その地方議員の選挙は、選挙区の規模や定数にもよりますが、国会議員が必要とする票の数%〜数十%程度で当選をすることができます。また、国政選挙と異なり地方選挙はどうしても有権者の関心度合いが低くなり、従って「組織票」が当落を決めるウェイトが大きくなります。自民党所属の地方議員にも、旧統一教会との関わりがまったく無い者から深い関係がある者まで様々ですが、国会議員よりも「組織票」や選挙運動の手伝いなどの依存度が高い議員が多いことは想像に難くありません。事実、旧統一教会の関係団体と呼ばれる各種団体のうち、地方議員が団体の役員を務めていたケースなどが相次いで報道されていますが、これらは地方紙の取材力などによって濃淡がまだだいぶある状態であり、今後これらの地方議員に対する取材や調査報道がまだ増えることが予想されます。

 来年4月の統一地方選挙では、全国の都道府県議会議員選挙の実に9割近く(41/47)が行われます。この秋はこれらの都道府県議会議員選挙へ立候補する予定の者への公認を決定したり、現職新人問わず立候補表明するタイミングでもあり、その機会を狙って旧統一教会との関連を調査したり報道することが増えるでしょう。特にここ最近では、自民党本部が所属国会議員に行った「点検」結果と事実との齟齬が指摘される事態や、民主党政権以前の十数年前などの会合参加記録などが確認されたことで確認不足が指摘される事態も起きており、同様のことが地方議員にも起きる可能性があります。

 また、都道府県議会議員をささえる市区町村議員にも同じことがいえます。政令市はともかく一般市にいたっては、数百票程度でも当選をする議員もおり、先述の「組織票」や選挙運動に対する依存割合はさらに上がることでしょう。市区町村議員レベルでは全国紙に取り上げられることまでは考えにくいですが、地方紙レベルであれば十分に取り上げられる可能性があります。また、政務活動費などで旧統一教会の関係団体が主催する会合へ出席するなどをした議員などが取り上げられるケースも出始めており、今後さらに情報公開請求などによって数多くの情報が出てくる可能性もあります。

 いずれにせよ、冒頭に記したように、自民党が地方に支えられたピラミッド構造の組織である以上、これまでの国会議員に対する旧統一教会との関連の問題は、氷山の一角に過ぎず、この根深い問題はまだまだ尾を引くことが確実です。

横展開・他の宗教団体などへの波及

 今回、旧統一教会の問題が顕在化してきたのは、安倍晋三元首相銃撃事件の容疑者が旧統一教会の信者を親族に持ち、親族が多額の献金を旧統一教会にしていたことなどを犯行の動機として語っているとされているからでした。旧統一教会は過去にも高額な寄附や霊感商法が社会問題として取り上げられていた時期もありましたが、最近は(名称変更なども要因となって)注目を集めることも少なくなっていたため、銃撃事件の影響も大きいことから、再度スポットが当たっています。

 8月2日、自民党本部は旧統一教会について「組織的な関与はないことがわかった」と茂木敏充党幹事長が発言し、問題の認識に対する不足だと指摘を受けることがありました。党幹事長の発言は、自民党本部にある組織運動本部が窓口となって自民党と交流をする「友好団体」に旧統一教会がないことを根拠にしているとみられます。一方、自民党本部の友好団体には、旧統一教会ではない宗教団体や宗教団体の政治団体などが多数存在しています。宗教団体の政治団体や宗教団体自体が政党と窓口をもって折衝をすることは、(主たる目的ではない限り)法律で禁止されているものではなく、ごく自然のことです。例えば宗教法人に対する規制の緩和や税制改正を求めるために宗教法人法の改正などを求めるなどといった活動は態様によっては政治活動とみなされますが、これを(少なくとも現在は与党第一党であり政府提出法案を政務調査会や部会で審査をする)自民党に訴えることは、憲法にも認められた活動といえます。自民党だけでなく、野党でも宗教団体や宗教団体の政治団体と政党とが政策について協議したり要望を受けることは通例であり、(政教分離の議論はあれど)創価学会を支持母体とする公明党など、宗教と政治の関連自体は否定されるものではありません。重要であって取り違えてはならないのは、「宗教団体やその政治団体」と政党(自民党)との関連が問題なのではなく、あくまで社会的に問題とされた活動をしていた団体との交流が問題だということです。

 しかしながら、各々の宗教団体がどのような宗教活動を行っているか、また社会的問題を抱えているかは、これも濃淡がある問題です。霊感商法や高額寄附といった旧統一教会の抱えた問題についても法律の整備が追いつかなかったことなどから、多数の被害を生み出しました。過去には(時間軸的には逆ですが)地下鉄テロを起こしたオウム真理教を母体とする真理党などの歴史もあります。宗教団体等がそれぞれの信徒や檀家との間でトラブルがあったり、規模の大小はあれど高額な寄附を集めているような実態があれば、その点から「社会的に問題を抱えている宗教」として、その宗教団体と政党との繋がりが指摘される可能性もあります。

 選挙戦を戦うにあたっては、どの規模の選挙であっても、有権者ひとりひとりと面と向かって会って話すのは時間的にも厳しいことから、様々な団体や集団を相手に政策を訴えたり要望を聞いたりすることが一般的です。これが自治会や町会であったり、商店街や企業であったり労働組合であれば、多くの有権者も「通常の政治活動や選挙運動」と見做すことでしょう。しかしながら、無宗教者の多い日本においては、ここに「宗教団体」が入ってくることで、「政治と宗教」の関係性に不安を覚え、本来とは違う意味での「政教分離」を持ち出して非難するような動きがみられています。

今後の展開はどのようになるのか

 ここまで述べてきたように、自民党と旧統一教会の問題は、国会議員を対象とした調査報道に留まっていることから氷山の一角とも言え、今後の統一地方選挙に向けて地方紙や地元テレビ局を中心にさらに報道が増えることが想定されます。また、社会的に問題のあった団体という本来の問題認識からずれ、「政治と宗教」というテーマに問題の軸足が展開した場合には、他宗教団体などに問題が横展開する可能性も秘めています。

 政治活動と宗教活動については、日本国憲法においてその自由が定められている関係で、個人情報保護法や労働基準法など様々な法律でも配慮がなされています。例えば、労働基準法第3条では「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない。」とされていますが、ここでいう「信条」とは、「宗教上の信仰」と「政治的な信条」を指すと言われており、一般的に企業の採用時などでこれらを理由に差別的取り扱いを起こさないためにも、これらの情報を取得することは避けられています。こういった事情から、選挙ボランティアの中に旧統一教会の信者がいたかどうかを事務所が明らかにすることは困難ともいえ、最近の党本部点検と報道各社の調査との整合性を問う報道に至っては、事実上は悪魔の証明となりつつあります。

 従って、来年の統一地方選挙に向けてこれらの報道は引き続き行われることが想定されますが、与党側にとっては臨時国会において野党側の追及にどの程度答えていくのか、また閣僚などの交代まで発生するのかに注目です。また、河野太郎消費者庁大臣は霊感商法に関する有識者検討会を開きこの問題について協議しているほか、立憲民主党と日本維新の会が霊感商法や高額献金をめぐる法整備も含めた対策を講じる教義を実施することで共闘する旨を発表するなど、追及だけでなく同様の問題を起こさないための活動もはじまっていることから、今後どのようにこれらの問題を起こさないか、という立法府としての着地点が今後は焦点になるとみられます。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

大濱崎卓真の最近の記事