参議院議員通常選挙(参院選)が6月22日に公示されます。衆議院議員総選挙(衆院選)と異なり、3年に1回定期的に行われる参院選(任期は6年で、3年ごとに半数改選)は、同じ国会議員を選ぶ選挙とはいえ、衆院選といくつか制度が異なります。特に今回は参院選の「比例代表」で用いられている「非拘束名簿式」について、解説していきます。

同じ比例代表でも異なる「拘束と非拘束」

 国政選挙である衆院選と参院選では、いずれも有権者は通常、投票用紙を2枚渡されます。1枚目の投票用紙は「選挙区」候補を選ぶもので、衆議院であれば小選挙区、参議院であれば都道府県選挙区の候補者名を書くこととなります。

 2枚目の投票用紙は「比例代表」ですが、衆議院と参議院ではこの比例代表の制度が大きく異なります。衆議院は「政党名」を書き、都道府県を単位としたブロックごとに政党の議席を割り当てますが、参議院は「政党名」もしくは「候補者名」を書き、全国を1単位として政党の議席を割り当てます。日本全国を対象とすることから、参議院の比例区は「全国比例」「全国区」とも呼ばれます。

 参議院の定数は、今回の選挙で248(選挙区148、比例代表100)に増えますが、比例代表で改選される議席は50です。各政党の議席数は、「政党名」と「(その政党に所属する)候補者名」の合計の得票数を使ってドント方式で比例代表の定数を各政党に分配して決まります。そして、その政党に割り振られた議席数の中で、候補者名の書かれた票が多かった順に当選が決まります。これが「非拘束」と呼ばれるゆえんです。

参院比例「非拘束名簿式」と「特定枠」当選イメージ(画像制作:Yahoo! JAPAN)
参院比例「非拘束名簿式」と「特定枠」当選イメージ(画像制作:Yahoo! JAPAN)

 言い換えれば、政党の所属候補者名を書いて投票すれば、政党が何議席を獲得するかを決めるための一票になるのと同時に、政党所属候補者のうち、どの候補が当選するかを決めるための一票にもなります。従って特定の政党を支持しているだけでなく、特定の候補者を応援したい場合には、候補者名を書くことがより民意を反映することになるでしょう。逆に、衆議院の場合は、名簿の当選順位は政党があらかじめ決めておきます。

「非拘束名簿式」導入の経緯

 そもそも戦後、現行憲法の施行直前に行われた第1回参院選からは、文字通り「全国区」という選挙区がありました。定数100(改選50)を争うこの時期の全国区は、現在のような政党による議席配分といった枠組みと関係なく、単純に日本全国を一選挙区として争う選挙だったため、過去には石原慎太郎氏や青島幸男氏といったタレント議員が上位当選したことでも知られています。

 一方、この全国区は、上位当選の候補者が票を取り過ぎる事象が目立ったほか、日本全国で選挙運動を展開しなければならないという費用面の問題などが課題となり、1983年の参院選からは、今の衆議院と同じ拘束名簿式が導入されました。ところが、政党が名簿順位を決定する拘束名簿式は、政党内における順位決定に関する癒着の問題などもあり、2001年の参議院議員通常選挙からは現在の非拘束名簿式に落ち着きました。2019年の参院選には後に解説する「特定枠」が登場したことにより、現在は「(実質的には拘束名簿式も可能な)非拘束名簿式」となっています。

非拘束名簿式のメリット・デメリット

 それでは現在の非拘束名簿式はどういうメリット・デメリットがあるのでしょうか。

 まず、名簿順位を政党ではなく得票数、すなわち有権者が決められるという透明性が挙げられます。有権者からの得票数が多い順に当選が決まるというスキームにより、党ではなく有権者が当選者を決めるという透明性が担保されることで、密室政治を防止する効果もあるでしょう。

 また、個人名を書かせることにより、タレントなどのような著名人の候補者が当選しやすくなるほか、業界団体などの組織候補が有利になるともいわれています。実際、与党の自由民主党や、野党の立憲民主党、国民民主党の比例候補には、支持組織が擁立する「組織内候補」と呼ばれる候補者が擁立され、それぞれの支持組織ではその候補者名を書くよう強く勧められます。業界団体などの政策提言を国政に反映させるという目的から、支持組織の集票力が試されるともいえます。

 一方、全国比例に関心の低い有権者が多いのもまた事実です。前回(2019年)の参院選では、投票した人のうちおよそ75%が政党名を書き、候補者名を書いたのは約4人に1人(25%)に過ぎません。前述の組織内候補やタレント議員となじみのない有権者の多くが、政党名を書いているのが現状です。

2019年から新たに「特定枠」も登場

 前回選挙からは、新たに「特定枠」という制度が導入されました。特定枠では、政党が提出する名簿に順位をつけることができるとされており、候補者名票の得票に関係なく当選することができる仕組みです。特定枠に選ばれた候補者は実質的に選挙運動ができなくなり、特定枠の候補者名を書いた投票用紙は政党名を書いたものとして見なされますが、政党が獲得した議席の中で優先して候補者が当選することのできる仕組みとなっています。

 そもそもこの特定枠の制度は、2016年の参院選から始まった合区制度の救済措置といわれていました。いわゆる1票の格差問題を是正するため、鳥取県・島根県と、徳島県・高知県が合区になったことで、それぞれの都道府県から代表としての参議院議員を送り込めなくなった自民党が、その救済措置として法律改正をしたとされています。実際、自民党は2019年の参院選において、この特定枠に各合区の選挙区候補とならなかった者を充てています。

 この「特定枠」の制度を利用するかどうかは政党に任されていますが、2019年に特定枠を利用したのは先に述べた自民党と、れいわ新選組でした。れいわ新選組は比例代表に9人を擁立しましたが、全国的に知名度のある山本太郎代表の上に特定枠として、ALS患者の舩後靖彦氏と重度障害者の木村英子氏を擁立し、当選させました。

 参議院の「非拘束名簿式」は一見難しい選挙制度ですが、正しく理解することで、選挙戦の理解が深まると同時に、より政治を面白く読むことができます。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】