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山本太郎衆院議員の「万死に値する」発言が炎上、国会の場での「万死」発言は

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
衆院総選挙を戦うれいわ新選組山本太郎氏(写真:つのだよしお/アフロ)

 れいわ新選組代表の山本太郎衆院議員は10日、記者会見で麻生太郎自民党副総裁について「はっきり言ってもう副総裁辞任とかじゃなくてもう万死に値する人間であると、万死に値する存在であるとしか言いようがないことです。」と述べました。この「万死に値する」という表現が不適切ではないかとして、インターネット上では賛否両論が渦巻いています。

国会会議録には「万死」が数多く記録されている

 「万死に値する」という表現が適切かどうか、これは人によって受け止めが異なるでしょう。「死に値する」という表現の最上級とも言える「万死に値する」という言葉は、人間の生死という尊厳に関わる問題に直接触れる表現であり、残虐な表現との指摘もあります。一方、あくまで比喩表現であるほか、政治的責任としてそれだけの責任なのだという指摘もみられます。

 ところで国会会議録システムで「万死」というキーワードを検索すると、243件の議事録で、該当箇所287件と表示されます。「万死に値する」という表現が使われる文脈によって、その言葉の重さは異なると思いますが、参考までに、以下にいくつか見ていきましょう。

 もっとも最近のものは、今年5月12日に、参議院政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会における、西田昌司参院議員の発言です。

○西田昌司君 (前略) そこなんです、そういうことができていないのが一番問題。要するに、法制局というのは単に字面を見ているだけの話、そういうふうに思われているからこういう事故が起きるんですよ。そうじゃなくて、自分たちの置かれている立場、国会議員に付されたこの立法権、この国会の立法権を補佐する重要な仕事であり、その当事者は我々国民の代表である議員なんですよ。その議員に報告をせずに、情報をそのまま遮断してしまったというのは、本当に万死に値しますよ。(後略)

 衆議院では、今年2月1日の本会議で、新型インフルエンザ等対策特別措置法等の一部を改正する法律案に賛成討論(修正)をした、白石洋一衆院議員の発言が直近のものです。

○白石洋一君 (前略)  菅政権は、コロナ対策、危機管理を後手後手にし、国民に批判されていますが、まだ懲りていないのでしょうか。国対委員長代理といえば党の要職、議運理事は院の要職、副大臣は政府の要職、まさに、政府・与党一体で国民をだまそうとしていたことは、万死に値します

 さらに去年の国会では、自民党議員が麻生大臣(当時)を「万死に値する」と述べることもありました。昨年11月24日の参議院財政金融委員会における、西田昌司参院議員の発言です。

○西田昌司君 (前略) ところが、財務省側がいわゆる財政再建、プライマリーバランス、こういうことを重視した結果、上げていったわけですよ。そして、結果的に、上げただけじゃなくて、上げれば当然景気悪くなりますけれども、そもそも金融緩和やっているときに財政出動はセットでやるものですよ、これは当然。金利が低いんですから、財政出動のこの金利負担も非常に少ない。これセットでやるべきなのに、これもやってこなかったわけですね。私は、今日は麻生大臣来られていませんけれど、この間の麻生大臣、財務省のこの財政政策は、本当にこれは、申し訳ないですけど、万死に値すると思っています。非常に厳しい言い方しますけれども、これは元々、金融の日銀だけにこの政策の責任を押し付けるような形になってしまっているわけですよ。(後略)

「万死」が使われる類型とブーメラン

 このほかにも数多くの「万死」が登場しますが、その多くが、①政治家の失言に対して糾弾するための「万死」、②(政治家や官僚が)自らの政策に誤りがあったことに対するお詫びとしての「万死」、③それらの発言や新聞報道などによる評価としての発言を引用した「万死」発言、のいずれかです。

 また、2011年には鉢呂元経産相の「死の町」発言を石原伸晃幹事長(当時)が「万死に値する」と発言したことについて、ブーメランのように国会で指摘し、その発言が国会内で問題になったこともありました。いずれにせよ「万死」という表現自体が問題になることは、これが初めてではないことがわかります。

 議事録を見ている限り、野党議員による「万死に値する」発言が与党議員による「万死に値する」発言より多いことがわかります。政府与党を批判したり責任を追及する表現の一つとして、相応の頻度で使われてきている言葉とも言えます。

 ただいずれにせよ、「万死に値する」の発言自体は相当センシティブであることには違いないでしょう。今回の「万死に値する」発言は、記者会見という場という点で国会議事録に載ることはありませんが、公党の記者会見という極めて公的な性質を帯びた場面であったことは否めません。先日の衆院選における民放テレビ局の選挙特番で、芸能人が候補者であった政治家に対して「ご愁傷様」と発言した問題と似た性質とも言えるでしょう。

 国民が国会に期待する議論は、「冷静な政策論議」であって「誹謗中傷合戦」ではないはずです。厳しい経済情勢などが続く中、来月6日から開かれるであろう臨時国会での各党による冷静な議論が期待されます。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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