総裁選・「議員票」の最終盤情勢

 自民党総裁選の投票日である29日まで残すところあと2日となりました。菅総理の総裁選不出馬表明により一気に火がついた総裁選も、いよいよあと2日で終わりますが、まずはその総裁選、最終盤情勢をみていきたいと思います。

自民党総裁選2021議員票動向の図、筆者作成
自民党総裁選2021議員票動向の図、筆者作成

 筆者が先々週からまとめている Googleスプレッドシート「自民党総裁選2021 議員票動向」では、議員本人のホームページやSNS、YouTubeなどのコメント、さらには全国紙やテレビ、地方テレビ局や地方紙への意向表明をもとに、情報源のリンク付きで投票意向を掲載しています。

 これによれば、28日早朝現在で議員票の動向は70%以上が明らかになっており、多い順に岸田文雄氏が99票、河野太郎氏が84票、高市早苗氏が69票、野田聖子氏が21票となっています。このほか、態度を公表していない議員などの意向を踏まえれば、岸田文雄氏と河野太郎氏が議員票では130票近くで1位を競る可能性が高く、それを高市早苗氏が追う展開となる見込みが強くなってきました。野田聖子氏は序盤以降、議員票の支持が広がっていません。

総裁選・「党員党友票」の最終盤情勢

 党員党友票についてはどうでしょうか。報道各社によれば、党員党友票の動向調査では、1位河野太郎氏はすべての報道に共通しており、疑う余地はありません。一方、2位は岸田文雄氏、3位は高市早苗氏という点もほぼ共通するものの、この差は数ポイントであり、固定電話への調査が多い電話調査ベースの世論調査では、若い世代の意向が反映されていない可能性などもあることから、2位・3位の逆転もあり得る状況がまだ続いています。友好団体・支援団体や職域による組織票に強いと呼ばれる岸田氏が最終的に高市氏を突き放すことができるかどうかにも注目です。野田氏は党員党友票でも3候補に離されている状況です。

 なお、決選投票になった場合には、都道府県別の党員党友票のうち、全体1位・2位候補のいずれか多い方に都道府県票が1票割り当てられることになりますが、現時点では岸田氏が1位の場合には広島県、高市氏が1位の場合には奈良県と山口県を取る可能性があり、その他の都道府県については河野氏が取る可能性が高いとみられます。

 以上から、現時点では「河野氏と岸田氏」による決選投票となる可能性が高く、決選投票となった場合には高市氏の議員票が河野氏・岸田氏のどちらに回るかで勝敗が決まると見られます。下馬評では高市氏の票は岸田氏に流れると言われていますが、河野氏の都道府県連票を上回る票を岸田氏が獲得できるか、野田氏の獲得した議員票の動向などにも注視する必要があります。また、党員党友票に関しては高市氏が岸田氏を上回る可能性もわずかながら残っており、可能性としては少ないですが1回戦目の2位候補に高市氏が浮上することがあれば、状況は一変する見通しです。

 おおよその総裁選の流れは報道各社で報じられているとおりですが、視点を総裁選から総選挙に移すと、この総裁選にも影響する極めて興味深いデータが出てきたので、紹介したいと思います。

興味深い「次の総理にふさわしい人」世論調査の結果

 情勢調査などを手がける調査会社グリーン・シップが9月25日に行った電話調査(RDD調査、N=2,142、固定=1,021、携帯1,121)によれば、次の総理にはふさわしいと思う人を自民党総裁選立候補者4名と野党第一党代表の枝野氏の計5名から選択してもらったところ、河野太郎氏が45%と最も多い結果となり、高市早苗氏21%、岸田文雄氏17%、枝野幸男氏11%、野田聖子氏6%という結果でした。

 その順位自体はそこまで驚かない(とはいえ野党第一党で政権交代を唱える枝野幸男氏が11%と低いのは気になる)のですが、この調査で最も興味深いのは、支持政党別に「次の総理にふさわしい人」を聞いた結果(下表)です。

グリーンシップ「<衆議院選挙に関する調査を実施>次期総理は河野氏に期待 支持政党別、比例投票政党別でも 1 番人気に」(2021年9月27日リリース)調査より引用
グリーンシップ「<衆議院選挙に関する調査を実施>次期総理は河野氏に期待 支持政党別、比例投票政党別でも 1 番人気に」(2021年9月27日リリース)調査より引用

 支持政党別に「次の総理にふさわしい人」を聞いた結果、自民党支持者の中だけでなく、立憲民主党支持者においても、次の総理候補1位が「河野太郎」となっているのです。野党共闘で小選挙区対決に持ち込もうとしている中でこの結果は、野党にとって衝撃的と言わざるを得ません。野党(の支持者の中)で枝野幸男氏を次の総理にふさわしい人1位としたのが共産党と社民党だけという事実からは、立憲民主党に対する有権者の期待の脆さが露呈しただけでなく、現実的な野党共闘のあり方まで再考させられたようにも思えます。

グリーンシップ「<衆議院選挙に関する調査を実施>次期総理は河野氏に期待 支持政党別、比例投票政党別でも 1 番人気に」(2021年9月27日リリース)調査より引用
グリーンシップ「<衆議院選挙に関する調査を実施>次期総理は河野氏に期待 支持政党別、比例投票政党別でも 1 番人気に」(2021年9月27日リリース)調査より引用

 おそらく固定電話のみに行った調査であれば、高齢者割合が増えることによって結果は異なったと思われますが、固定・携帯のハイブリッド調査を行っている同社では若い世代の回答もある程度反映されているとみられ、特に野党各党にとっては衆院選に向けての戦略練り直しまで必要になる結果とも言えるでしょう。

 同社の調査以外でも報道各社の世論調査では、ほぼ全ての調査で自民党総裁候補4人に絞った「総理(総裁)にふさわしい人」の1位を河野太郎氏が独占しています。衆院選前に自民党党員党友や自民党支持者だけでなく、無党派層や他党支持者までを巻き込める河野太郎氏か、それとも岸田派をはじめ議員票を固めきり、目論見通りの決選投票持ち込みで当選の可能性が高いとみられる岸田文雄氏か、態度未表明議員を中心とした決選投票ありきの議員票動向は最終日(29日)の投開票会場までもつれ込みそうです。

自民党の議席はどうなるか

 ただ、総裁選後には、すぐに解散総選挙です。解散総選挙は10月26日(火曜)公示、11月7日(日曜)投開票の日程が濃厚とされており、総裁選から公示までは1ヶ月もないとみられています。

 この間、自民党は菅首相の総辞職、新総裁による党役員人事、新総裁の首班指名、組閣(閣僚人事)、そして所信表明演説と代表質問、さらには党公約の発表とイベントが続きます。この総裁選でも続いたメディアジャックが引き続き行われるとみて間違いないでしょう。野党側は代表質問で新総理総裁との対決が可能ですが、本会議という場の性質上、アピールには限界があります。衆院選の公約対決に野党が持ち込めるかどうか、また新総理総裁の党役員人事や組閣人事に「落とし穴」があり、この1ヶ月で内閣支持率が乱高下するようなことがあるかどうかが注目ポイントです。

 では、衆院選での自民党議席数はどうなるでしょうか。

 前述の世論調査では、河野氏が総裁となった場合には野党支持層の一部も自民党票にひっくり返すだけの力があることが示唆されました。小選挙区の多くで自民党対立憲民主党となる構図であることからも、この場合は自民党の大勝が予想されます。結果として、現有議席を維持する見込みが高いと思われます。

 岸田氏が総理総裁となった場合でも、派閥の論理がある程度は働き、バランスをとった人事が期待されることから、無難な船出となることが想定されます。菅総理総裁では現有議席から60〜70議席減との観測もありましたが、そのような大幅な議席減まではないとみられます。

 高市氏が総裁となった場合には、与野党の対立軸がより鮮明になるため、政権選択選挙としての色は濃くなるはずです。自民党内が総選挙までに落ち着きを取り戻し、党内対立などが収まることが自民党内には求められるでしょう。ただ、いずれにせよ女性初の総理大臣誕生ということも踏まえご祝儀相場になることは間違いありません。

 いずれにせよ、菅総理の記録した低調な内閣支持率から復調することは間違いなく、ご祝儀相場のまま衆院総選挙に持ち込まれることはほぼ確実となりました。あとはコロナ第6波が来ないうちに総選挙を迎えられるかどうかが自民党にとっては鍵となりますし、野党にとっては新総理総裁との焦点設定や対立軸の構築がポイントとして急がれることになります。