衆参補欠・再選挙、与党全敗の原因と衆院総選挙への影響を最速で解説

国会議事堂(写真:cap10hk/イメージマート)

菅政権初の国政選挙は与党全敗

 菅政権で初となる国政選挙である衆参補欠・再選挙が25日投票を迎え、即日開票されました。既に報道されている通り、衆議院北海道第2区では、前衆議院議員で立憲民主党の松木謙公氏が、参議院長野選挙区では、新人で立憲民主党の羽田次郎氏が、参議院広島選挙区では、新人で諸派(実質的な野党連合)の宮口治子氏が、それぞれ当選確実となりました。(22時4分、朝日新聞発表)

 与党は衆議院北海道第2区には候補者を擁立せず不戦敗を選び、参議院長野選挙区と参議院広島選挙区にはそれぞれ候補者を擁立した上で実質的な1対1の対決に負けたことから、結果として菅政権初となる国政選挙は、与党の0勝3敗の「全敗」となります。

負けのイメージを払拭するつもりが逆効果に

 そもそも与党が候補者を擁立できなかった衆院北海道2区、羽田雄一郎元参院議員の死去に伴う弔い合戦で伝統的に野党の強い参院長野選挙区と異なり、参院広島選挙区は当初与党リードと言われていました。野党側は当初、元検事の郷原信郎弁護士の擁立を模索していましたが、郷原氏が3月9日にオンラインの記者会見で出馬見送りを発表したことで、候補者擁立というスタートラインに立つことが遅れました。最終的には、3月20日に宮口治子氏が立候補表明をしましたが、西田英範の記者会見(2月25日)からは約1ヶ月遅れる出遅れがあったわけです。

 しかし、この1ヶ月の間に河井克行・案里氏の公判が進んだことで状況が変わりました。河井克行は被告人質問で、これまでの陳述を変えて容疑を大筋で認めましたが、この態度豹変には法廷戦略があることを筆者も含めたマスコミが報じたことで、河井氏に対する批判は強まりました。(参考:「河井克行元法相は、なぜ突然買収容疑を全面的に認めたのか、選挙日程を逆算した裏事情とは」)

 また、今回の衆参補欠・再選挙では、3選挙のうち衆議院北海道第2区は早い段階で与党の不戦敗が決まり、参議院長野選挙区では羽田次郎氏の優位が早い段階で報じられていました。そのことにより、与野党共に参議院広島選挙区に焦点を当てる構図になりましたが、そもそも与党からすれば衆議院北海道第2区と参議院長野選挙区の2選挙では与党の0勝2敗となることから、3戦(1勝2敗)の構図に持ち込むために、2月の時点で自民党の要職が河井案里氏に議員辞職を迫ったことが契機だと言われています。その為、この戦いは結果的に「負けのイメージを強めない為に戦いの場を増やしたら、結果的に更に負けのイメージが強くなった」という与党側にとっては残念な結果になったと言えます。

 蛇足ですが、河井克行氏が3月15日までに辞職していれば、今回の補選に衆院広島3区の補選も同時に行われて「4戦」になっていた可能性もありました。今回の参院広島選挙区の結果から考えれば、この幻の4戦目も厳しい結果になったことが容易に想像されます。自民党としては、結果的に「3戦」にしたことが不幸中の幸いだったかもしれません。

なぜ与党は保守王国「広島」で負けたのか

岸田文雄自民党広島県連会長
岸田文雄自民党広島県連会長写真:つのだよしお/アフロ

 では、なぜ与党は保守王国「広島」で負けたのでしょうか。

 確かに、今回の参院補選は河井案里氏の失職による再選挙が理由です。その為、自民党にとっては不利であることは明らかではありましたが、それにしても2019年の参院選では野党の森本氏が32万9000票あまりに対し、自民党の河井案里氏が29万5000票あまり、同じく自民党の溝手顕正氏が27万0000票あまりの得票でした。自民党は2名の候補者で56万票以上を獲得しており、野党とは23万票以上の差があります。

 この差を埋めるためには、2019年参院選で自民党候補者に投票した人を一定数野党側にスライドさせなければなりません。結果からいえば、朝日新聞の出口調査では、自民党支持者の投票先が西田氏:宮口氏:その他の候補者=75%:20%:5%と割れたほか、公明党支持者も81%:15%:4%と割れる結果となりました。自民党支持者と言っても必ずしも党員というわけではなく、「ただなんとなく自民」と言われる層なども中心に、今回票の集中ができなかったことが敗因と言えます。また、公明党支持者も票の集中が81%に留まったことについても、政治とカネの問題が今回の選挙の理由だったことから、特に支援を受けている創価学会の女性部を中心に離反があったとされています。

 もう一つは投票率が低い選挙なのにも拘わらず、無党派層の投票割合が伸びて、自民党支持者の投票割合が減ったことが言えます。そもそも、無党派層の投票傾向も大きく変わりました。同じく朝日新聞の出口調査によれば、無党派層の投票傾向は、2019年参院選の際には与党系候補者:その他の候補者:野党系候補者で32%:17%:52%でしたが、今回は与党系候補者:その他の候補者:野党系候補者で20%:2%:78%の差がつきました。無党派層でこれだけの差がつけば、現場感覚としては相当の逆風といえるでしょう。その中で更に組織を使った従来型の選挙が「政治とカネの問題」によって行いにくい、ましてや集会などといった戦術がコロナの関係でもやりにくいということであれば、ますます与党にとっては厳しい選挙だったといえます。

 また、最後まで野党が野党統一候補という表現や野党結集という状況を作らなかったことにも触れなければなりません。立憲民主党の枝野代表と国民民主党の玉木代表はそれぞれ広島入りしていますが、この二人が同じ場所で演説することは最後までありませんでした。与党が熱の入りやすい「与野党対決」という構図を作らなかったことで、与党側の支援者を本気にさせるタイミングを遅らせたことも野党側の戦略が実を結んだ結果でしょう。いずれにせよ、新型コロナの第4波や経済対策など様々な国政課題がある中にもかかわらず、河井夫妻の政治とカネの問題という土俵で最後まで戦うことになってしまい与党側が防戦一方になった時点で、こういった結果になることは致し方なかったとも言えます。

菅政権0勝3敗で政権にダメージは

記者会見をする菅義偉総理
記者会見をする菅義偉総理写真:代表撮影/ロイター/アフロ

 国政補選で、衆参で3つの選挙が同時執行というのは近年稀にみる形でした。この3つの選挙で与党がすべて敗れたという事実は、自民党にとって衆院の任期満了前とはいえ非常に厳しい結果と言えます。

 まず、今回の選挙敗北を自民党内でどのように総括するのかに注目したいと思います。山口泰明自民党選挙対策委員長の責任問題でおさまるのか、それとも更に上の二階俊博幹事長までの責任まで党内で追及されるのかが最初の課題と言えるでしょう。特に衆院総選挙を直後に控えている現状において、若手議員らからは現執行部体制で戦えるのかという不安の声も上がってくるでしょう。

 一方、単に広島での敗北が「河井夫妻の政治とカネの問題による地域限定の問題」ということであれば、広島県内での問題となります。自民党広島県連の代表は岸田文雄衆院議員ですが、今年の自民党総裁選の兼ね合いからも現在の党執行部が今回の敗北をあくまで「広島県内での問題」と総括し、岸田文雄県連代表の責任問題として終わらせる可能性も十分にあり得ます。河井克行氏の辞職に伴う補欠選挙は衆院総選挙に組み込まれる以上、党執行部としても一連の「政治とカネの問題」は今回の補選で終結という考え方でしょうから、この問題を大きくしないためにも、広島県内での問題として片付ける方向性に傾くと想像できます。

 今回の衆院補欠・再選挙が国会の議席に与える影響は軽微ですから、当面の国会運営には支障はないと考えられます。(ただし、今回の参院再選挙の結果、参院の改憲勢力3分の2を割ったことには留意が必要です。与党自民党にとって悲願の改憲が今回の再選挙で遠のいたことは、少なからず憲法改正論議に影響を与えるはずです

 しかし、先述の通り、若手議員らからは現執行部体制で戦えるのかという突き上げは大きくなることが考えられます。特に「魔の3回生」と言われる2012年当選組にとっては、はじめて「安倍総裁」以外をトップに迎えた選挙で不安も高まっています。自民党総裁選と同時並行で迫ってくる衆院選を前に、自民党内の党内力学がどのように働くのか、今回の衆院補欠・再選挙の総括と派閥同士の牽制にも注目したいと思います。

 また、野党にとっては初の「3勝」という大きな実績を手にしました。特に広島選挙区での戦い方については、当初は与党優勢と言われる中でもぎ取った勝利ではありますが、この戦い方を「広島だったから」ではなく、衆院総選挙にどう反映させていくのかが鍵となります。高まる政治不信に加えてコロナ禍という不安定な情勢だからこそ、今回の3選挙で見えた野党側の強みや戦略戦術を全国に波及することが、野党の衆院選躍進のための新たな課題となります。