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森会長辞任で、噂される後任候補。安倍晋三か麻生太郎か川淵三郎かそれとも

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
森喜朗東京五輪組織委員会会長の失言は、結局辞任という結論に至った(写真:ロイター/アフロ)

 森喜朗組織委員会会長が辞任の意思を固めたというニュースが入ってきました。3日の「女性が入る理事会は長くなる」発言は、4日には謝罪と撤回をしたものの、その際のふてぶてしい態度がニュースやワイドショーでも話題になったほか、インターネット上でも話題となり、問題は世界に波及しました。

 一時期は乗り切れるとみられていましたが、IOCが当初「この問題はケース・クローズド(もう終わり)だ」とコメントしたにもかかわらず、数日でと述べたほか、日本時間今日明け方には、IOCを支える巨大スポンサーで、米国における五輪放映権を持つNBCが「Tokyo Olympics head Yoshiro Mori called out by Naomi Osaka and others for sexism. He must go.」(森喜朗東京組織委員長は、大坂なおみ氏らから性差別だと非難を浴びた。彼は辞めなければならない。)と題する社説を公開したことで、実質的なチェックメイトになったとみられます。

日本政府・日本社会の「保留癖」による功罪

森組織委員長の後任候補は誰かという本題に入る前に指摘しなければならないのが、日本政府や日本社会の「保留癖」です。こういった国際社会の問題を前に、日本政府や日本社会はいつも「見(けん)に回る」癖があります。もちろん状況を注視し、国際社会の世論がどのように動くかを把握することは重要です。しかしながら、森会長の失言のように、起きてしまった失言については、謝罪や撤回はできても、発生した事実は取り返せません。森会長は謝罪会見後の毎日新聞インタビュー(「森氏、会見の舞台裏明かす「辞任する腹決めたが説得で思いとどまった」」)でこう答えています。

元々、会長職に未練はなく、いったんは辞任する腹を決めたが、武藤敏郎事務総長らの強い説得で思いとどまった

 結局、森会長が辞任しなかったのは、武藤敏郎事務総長や遠藤利明副会長らによる引き留めがあり、国際社会の様子をただ傍観したからということになります。それであれば、IOCやNBCも含めたコンセンサスをきちんと取れるかどうか見極めるべきだったはずですが、JOCやIOCはともかく、IOCに多大な影響力のあるNBCまでを考えずに乗り切ったと判断した執行部は甘かったと言わざるを得ないでしょう。

後任候補は誰になるか

 さて、組織委員長の後任についてみていきます。必要なのは、国際的な知名度・パイプと、国内における影響力と、それ以外のストーリー性です。この3点を兼ね備えた人物はいるでしょうか。

【本命】前内閣総理大臣 安倍晋三

開催1年前の式典でも握手をしていたバッハ会長と安倍晋三首相(当時)
開催1年前の式典でも握手をしていたバッハ会長と安倍晋三首相(当時)写真:アフロ

 本命はやはり、前内閣総理大臣の安倍晋三氏でしょう。森喜朗氏がこれまで東京五輪招致に相当力をかけていたことや、それ以前にもラグビーワールドカップ2019の誘致に成功するなど実績があったことは事実です。そして、国内におけるスポーツ業界の利権がひとえに森喜朗氏に集まっていることも事実であり、東京五輪招致決定後の6人の文部科学大臣のうち、実に5人が森派(清和政策研究会、今の細田派)から選ばれていることもその証左です。その点、安倍晋三氏も清和政策研究会であり、流れとしては問題が無いでしょう。

 国際的な知名度やIOCとのパイプは全く問題ないでしょう。東京五輪の招致にも大きくかかわった安倍氏は、昨年もバッハ会長から五輪運動の普及と発展への貢献をたたえる五輪オーダーを授与されたほか、昨年3月の東京五輪延期についてもバッハ会長と電話会議をするなど、IOCトップのバッハ会長とは十分なパイプがあります。また、リオ五輪にもマリオのコスプレで登場するなどこれまでの五輪招致や五輪機運醸成にも大きく貢献してきました。

 国内での影響力も問題は無いはずです。総理大臣経験者という意味では森喜朗氏と変わりません。不安材料があるとするならば、体調面の心配と、様々な政治的疑惑ですが、前者については首相ほど多忙というわけではなく、また議員活動については問題ないと本人がコメントしていること、さらに東京五輪までの期間がわずか数ヶ月ということもあれば乗り切ることはできるでしょう。政治的疑惑については多くの指摘が国会や世論からあったところですが、一方で「桜を見る会」については、検察の捜査は終了していることから、更なるスキャンダルは考えにくいでしょう。ただ、国内世論が納得するかどうかは別問題です。また、組織委員長は記者会見も多く、過去の問題を掘り起こされる可能性もあることから、安倍氏自らが組織委員長の要職を望まない可能性もあります。

【対抗】麻生太郎財務大臣

写真:つのだよしお/アフロ

 対抗できる政治家としては、麻生太郎氏が上げられるでしょう。国際的な知名度は安倍氏に劣りますが、それでも長く財務大臣・副総理として国際外交の場には出てきています。また、東京五輪は延期もあって財政が厳しく、赤字の場合の国家補償という課題がありますが、この点においても現職の財務大臣が就任することはIOCは歓迎するでしょう。

 また、麻生太郎氏は自らが五輪出場者というストーリー性があります。1976年モントリオールオリンピック「クレー射撃」の日本代表でもあったことから、就任のストーリー性は頷けるでしょう。ただ、国内での人気はそこまで高くないことや、バッハ会長とのパイプは安倍氏ほどではないことから、この短期間でどれだけ関係構築ができるかは未知数です。

【対抗】川淵三郎氏(元JFA会長・現JFA相談役)

東京五輪2020選手村の村長も務める川淵三郎氏
東京五輪2020選手村の村長も務める川淵三郎氏写真:森田直樹/アフロスポーツ

 日本サッカー協会に地位向上を務めた川淵三郎氏を後任との声も上がっており、すでに11日の時点では「次期組織委員長に内定した」との一部報道も出ています。川淵氏は現在、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会評議員会議長を務めており、(あくまで五輪委員会内における組織体は別といえども)スライド人事のような形になります。

 サッカー業界では知名度のある川淵氏ですが、今では誰もが知るサッカー女子日本代表の愛称「なでしこJAPAN」の名付け親でもあることや、政治家出身ではなくあくまでスポーツ界の代表ということを考えれば、女性差別的発言による森会長の辞任の後継としては安定感がある印象も持たれるかもしれません。また、東京五輪2020選手村の村長も務めており、昨年はバッハ会長の選手村訪問時のアテンドをするなど、IOCとのパイプも少なからずあります。安倍晋三氏が昨年、4年ぶりに「五輪オーダー」を授与されましたが、まさにその4年前の「五輪オーダー」が授与されたのも、また川淵三郎氏です。

 ちなみに、前回の1964年東京オリンピックでは、サッカー日本代表の一員として出場、グループリーグ戦では強豪アルゼンチン相手に得点を決めるなどの活躍をしているれっきとした元・五輪選手でもあります。この点、ストーリー性も高いと言えるでしょう。

【大穴】谷垣、遠藤、小池、...居並ぶ政治家たち

 筆者は上記3人の誰かで決まると考えていますが、一応大穴についても考えていきましょう。

自民党谷垣元総裁
自民党谷垣元総裁写真:Motoo Naka/アフロ

谷垣禎一氏(元自民党総裁)は、自転車事故後に車椅子生活となり、すでに衆議院議員を勇退しています。自民党の会合などに稀に顔を出すこともありますが、現在は無役であり、(首相経験者ではありませんが)自民党総裁というポジションにいたことや、実質的に無派閥ということ、さらに電動車椅子に乗られていることがパラリンピックを注目させるための要素となり得ることからも、名前が上がっています。実際に永田町では谷垣元総裁と親しいグループで谷垣元総裁を組織委員会会長に、との声も上がっているそうです。

森組織委員長と遠藤組織副委員長
森組織委員長と遠藤組織副委員長写真:つのだよしお/アフロ

 組織委員会の副委員長を務めている遠藤利明氏(衆議院議員・元五輪担当大臣)との声もあります。確かに五輪担当大臣経験者であることもあり、また組織委員会副委員長としてこれまで森会長を傍で支えてきていることからも、可能性はあるでしょう。一方、前述の森会長謝罪会見前後では「留任」を森会長に直訴したと言われていることからも、世論が納得するかは未知数です。また、国際的な知名度は元首相経験者らと比較すれば劣るでしょう。

 このほかにも、小池百合子東京都知事との声も上がっていますが、コロナ対策もある中で都知事自らが就任する可能性は低いのではないのでしょうか。東京五輪開催まで残りわずか数ヶ月という短期決戦を、国際的な知名度とパイプで切り盛りできる人物は限られます。政治的センスだけでなく、国内世論・国際世論的にも喜ばれ、「おもてなし」のできる人物が組織委員長に就任することを強く望みます。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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