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特別定額給付金の再給付を菅総理・麻生財務相は否定、次の焦点は2月7日・15日

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
衆院本会議場でも閣僚席で横並びの菅総理・麻生財務相兼副総理(写真:アフロ)

特別定額給付金を菅総理・麻生財務相は否定

 特別定額給付金の再給付へ国民の期待が高まっていますが、通常国会が開会するやいなや、菅総理や麻生財務相は再給付について否定的なコメントをそれぞれ出しました。21日の衆院代表質問では国民民主党代表の玉木雄一郎議員の質問に対して菅総理が「再度支給することは考えておりません」と述べたほか、19日の財務大臣記者会見で麻生財務相は「国民に一律10万円の支給をするつもりはない」と述べています。

 筆者は、「特別定額給付金の再支給がいよいよ現実的に。緊急事態宣言は総人口の半数以上が影響を受ける」という記事で給付金再支給の可能性を探りましたが、政府が否定している現状を踏まえ、今後の展開を探りたいと思います。

政府が再給付を否定する根拠は

 政府が再給付を否定する根拠はなんでしょうか。FNN(フジテレビ)が麻生大臣に直撃したとするインタビュー記事「「10万円給付金」再支給ある? 麻生大臣直撃」に、その答えを垣間見ることができます。当該部分を引用します。

記者「あらためて一律での再支給についての所見を」

麻生財務相「これ税金でやると思ってる? その発想が間違いなんだよね。国債発行しているんだから、政府の借金でやるんだよ」

記者「国民からそういう声が出ていると...」

麻生財務相「じゃあ、これは税金ではありませんよ。借金でやっているんですよということを言われたら、どうです? 後生の人たちに、さらに借金を増やすということですか? あなたのために、あなたのご子孫に借金を増やしていくということでしょうか? という点をフジテレビで言われたらどうです?」

 俗に言う麻生節もあって直接的な表現にも見えますが、要は財政規律の問題が理由であることがわかります。麻生財務相としては、コロナ禍というという特殊な事情でもありながら、財政規律としてこれ以上の国債発行は何としても避けなければならないという強い意志でもあり、(前回と同様に1人10万円規模であれば)総額10兆円規模とされる特別定額給付金を再給付するだけの国債発行はできないということでしょう。

 自民党内では、長島昭久・武部新議員らの「経世済民政策研究会」による特別定額給付金の再支給を含めた要望があるなど、異論が無いわけではありません。今後、第三次補正予算や来年度本予算の審議の中で、どれだけ自民党内でこの給付金再給付の問題が検討の俎上(そじょう)に上るかに注目です。また、財政規律の問題が言われる一方で、コロナ禍以前からプライマリーバランスの問題や膨らむ国債の問題は顕在化しており、自民党では安藤裕衆院議員らが主体となって主張しているMMT理論など根本的な財政政策と一緒くたに考える必要もあるでしょう。コロナ禍における経済対策に消極的な理由として国債発行による財政規律問題を掲げるのであれば、現実問題として我が国の財政をどのようにすることが望ましいのか、またコロナ禍においてもそれが言えるのか、検証が必要です。

 もう一点注目すべきは、公明党です。前回(昨年4月)の特別定額給付金支給の決定においては、当初岸田氏らがまとめた「減収世帯への30万円給付」案が、一転して「国民1人10万円の給付」に変わった経緯がありました。この「国民1人10万円の給付」を要望したのが公明党です。この「国民1人10万円の給付」案を要望した山口那津男代表と公明党は、安倍総理(当時)に直接電話をかけて予算組み替えを交渉したほか、予算委員会の理事懇談会を欠席するという連立政権の友党としてかなり強硬な手段に打って出ました。結果的に「国民1人10万円の給付」案が認められて予算は組み直しとなったことは、公明党にとって大きな実績となった反面、岸田氏の面目が潰れ、後の総裁選にも悪い影響を及ぼすことになりました。この点、山口那津男代表の現在の意向が気になるところですが、テレビ東京のインタビュー記事「「給付金また出ますか?」前回の一律10万円支給のキーマンだった公明党山口代表に聞いてみたら…」では、まだ公明党としても要望する状況では無いということがわかります。当該部分を引用します。

昨年の状況と今の状況をよく比べ合わせて、前提が異なるところもあるし、今後どう変化していくかもよく見る必要があると思います。いずれにしても、政府が我々の提言に対して一度実行した政策でありました。その経験をよく踏まえ、政府として、他の対応策と合わせてどういう支援策が望ましいか、これを今、またこれからの状況に合わせて的確に判断していただきたいと思います。

 従って、現時点では自民党内では給付金再給付は主流ではなく、また公明党でも自民党に要望する状況ではなく様子見ということがわかります。今後、公明党がどういう判断をするかが大きな鍵となるでしょう。

野党が再給付を求める根拠は

国民民主党が昨年11月にまとめた緊急経済対策のパネル(玉木雄一郎衆院議員Twitterから引用)
国民民主党が昨年11月にまとめた緊急経済対策のパネル(玉木雄一郎衆院議員Twitterから引用)

 一方、野党はどうでしょうか。先述した玉木雄一郎代表率いる国民民主党は、低所得者向けの20万円給付、現役世代の所得税10万円還付という、「特別定額給付金の再支給」と遜色ない政策提言を訴えています。

 立憲民主党やその他の野党においても、個別の国会議員レベルで特別定額給付金の再支給を訴える声をSNS上で見かけることはありますが、まだ法案を提出するまでに至っていません。野党4党(立憲民主党、共産党、国民民主党、社民党)は住民税非課税の子育て世帯を対象とする給付金再給付の法案を今国会に提出しましたが、まずは生活困窮世帯などへのバックアップとしての給付を実現させることを目指しており、国民全員への給付金再支給という意味では足並みが揃っていないと言えます。

当面の焦点は「2月7日」と「2月15日」か

 では、特別定額給付金の再支給は現実的に難しいのでしょうか。筆者は、まず当面の焦点として2月7日と2月15日という二つの日付に注目をしています。

 まず2月7日は、現在発出されている緊急事態宣言の終了予定日です。この緊急事態宣言の発出は、先日の筆者執筆記事にも書きましたが、麻生財務相が「特別定額給付金というのは、緊急事態宣言を全国に拡大したという状況を踏まえて簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計の支援を行って、我々が連帯して国難を乗り越えていくためのものというのがあのときの、特別定額給付金を出したときの大前提です。」とコメントしていることからも、特別定額給付金の再支給の前提条件です。ここで緊急事態宣言が終了すれば、一旦は給付金再支給の前提条件が崩れることになりますし、緊急事態宣言が延長すれば、再給付の前提は残ることになります。

 次に2月15日、これはGDP速報値(2020年10〜12月期・1次速報)の発表日です。コロナの経済影響は国際的にもGDP速報値で比較されることが多く、また政府の経済施策に対する重要な根拠指標でもありますが、四半期別GDPは、4〜6月期でマイナス28.1%、7〜9月期でプラス22.9%(いずれも2次速報)と乱高下していました。第3波到来という10〜12月期の数字が悪く、かつ緊急事態宣言が延長しているような状況であれば、第四四半期(1〜3月期)の悪化が確実視される中で大規模な経済不況が想定されることになり、直後には開催されるであろう予算委員会の締めくくり総括質疑などで再度特別定額給付金の再支給の議論となることが想定されます。

 ましてや、年度末を目前に控えて企業による雇い止めや解雇といった問題が起きやすい環境にあります。雇用調整助成金など企業・事業者を対象とした補助金は多くが拡充・延長されていますが、たとえば東京五輪の中止決定など事業者の事業継続意思を失うような象徴的出来事があれば、これらの方策空しく多くの失業者が発生し、最悪自殺者が急増するようなことも想定されます。このことからも、個人への再給付という選択肢は引き続き最終手段としてでも検討されるべきでしょう。

選挙前のバラマキ戦略としてキープ?

特別定額給付金は「合法的なバラマキ」戦略という側面もある
特別定額給付金は「合法的なバラマキ」戦略という側面もある写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 もう一つうがった見方として、今年中に確実にある衆院選の直前にバラマキ戦略として特別定額給付金の再支給を行うという切り札として、最後まで選択肢として残したいのではないかという思惑も指摘されています。特別定額給付金については、公明党の調査では多くが「食費」にまわったとのアンケート結果もあり、生活費として使われた以上、中長期的に恩恵を感じにくいという特性があります。ましてや、2回目の給付金ということでインパクトも薄く、仮に再給付するのであれば、給付に対するインパクトを選挙で最大限に生かしたいのであれば、ギリギリまで再支給に否定的な態度を前面に出しておいた上で「サプライズ給付」という戦略も考えられます。先に述べたように岸田氏の「減収世帯への30万円給付」案が、一転して「国民1人10万円の給付」に変わったことが岸田氏の総裁選での失速に繋がったことは、永田町や自民党内でも強い記憶として残っています。今年も総裁選の年であり、また衆院選の年でもあるという事情から、(本来は望ましくないにしても)給付金再支給問題は選挙戦略と表裏一体となることは避けられないでしょう。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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