菅内閣の目玉政策に「ワクチン対策」が急浮上

 通常国会初日から、大ニュースが飛び込んできました。菅総理は、2月中旬にもはじまる新型コロナウイルス感染症のワクチン接種について担当大臣を新設し、河野太郎行政改革担当大臣を充てる方向だと報道各社が一斉に報じました。施政方針演説ではこのような内容には触れられていませんでしたから、一種のサプライズ発表とも言えます。

 菅内閣は昨年発足後に、新型コロナ対策に加えてデジタル庁の創設や不妊治療補助、携帯電話料金引き下げ、カーボンニュートラルへのコミットをはじめ様々な政策を発表し、「スピーディーな政策実現」を打ち出していました。それらの政策は国民目線的には喜ばれそうな内容だったものの、一方で「ビジョンのない近視眼的政策」との批判があったほか、今は新型コロナの収束を第一に考えるべきだとの指摘も多かったことから、今日発表された施政方針演説でも「まずはコロナ対策に全力を尽くす」と述べるなど、コロナ対策により比重を置く方向に転換したと言えます。

 筆者は、今回の人選を2つの見方でみています。一つは、困難が予想されるワクチン接種について、国民からの不満が高まることを想定した「クッション材」としての河野太郎氏の起用、もう一つは業務能力の高さが評価されている河野太郎氏に国家プロジェクトを賭けざるを得ない事情です。

国民の人気が高い河野太郎氏

自身が取締役会長も務めていた湘南ベルマーレのマスクを着用している
自身が取締役会長も務めていた湘南ベルマーレのマスクを着用している写真:ロイター/アフロ

毎日新聞が16日に行った全国世論調査では、「次の衆院選後の首相にふさわしいと思う人」という質問に対し、河野太郎行政改革担当相が最も多くの票(12%)を集めました。このランキングでは、2位に前回総裁選にも出馬した石破茂自民党元幹事長(10%)が、3位には前回調査で1位だった菅義偉首相(8%)がランクインしたことを踏まえると、以前はネット界隈など一部で強い人気を誇っていた河野太郎氏の人気が、より広く浸透してきたことがわかります。安倍内閣では外務大臣や防衛大臣を歴任した後に、菅内閣でも入閣したことでメディアの露出も多く、また独自の政治観を持つ河野氏のファンは多いことからも、この結果は不思議ではありません。河野氏のツイッターアカウント(@konotarogomame)は、現職国会議員の中ではフォロワー数が2位(1位は安倍晋三氏)ですが、その数は200万人を超えており、現職国会議員3位の蓮舫氏(約50万フォロワー)を大きく超えています。また、河野氏のツイッターは、河野氏を想起させる投稿を(河野氏に気づかれないように、ステルス的に)どのように投稿しても河野氏が反応することから、「エゴサ能力の高さ」が評価されるなど、SNSでのコミュニケーションにも定評があります。

 ネット界隈だけでなく、高齢者にもよく知られていることも特徴です。河野氏といえば、父は衆議院議長を長く務めた河野洋平氏、祖父も副総理を務めた河野一郎氏とあって、政界きってのサラブレッド家系でもあります。ここまで述べてきたように、幅広い世代層から人気を集めることができる河野太郎氏のワクチン担当大臣抜擢は、国民の広い理解を得るためという観点からは、現政権にとって不可欠な選択だったことがわかります。

ワクチン接種は一大国家プロジェクト

G7のワクチン接種状況、日本だけ未実施なのでグラフにも出てこない(出典 Our World in Data - 2021/1/18現在)
G7のワクチン接種状況、日本だけ未実施なのでグラフにも出てこない(出典 Our World in Data - 2021/1/18現在)

 ただ、我が国のワクチン接種はまだスタートラインにも立っていません。G7(先進主要7カ国)で、ワクチン接種が始まっていないのは日本だけです。先行する諸外国をみると、米国では、ワクチンを超冷凍状態で運搬するための「コールドチェーン」の構築が遅れており、当初計画していた接種予定数に届かない状況が続いています。また、フランスでは、メディアの調査によると「国民の6割が接種を希望しないか様子見」という状況で、今後の接種についても前途多難な状況です。

 一方日本では、2月中旬にも独立行政法人下の医療従事者から接種が開始されると言われていますが、その他の医療従事者や高齢者などの本格的な接種は3月からと言われています。多くの地方議会では、ワクチン接種のための事務費用についての専決処分がこの時期行われていますが、議会報告や議員質疑の中では、執行部側が「国から何も情報が降りてこない」「接種のスケジュールなどが全くわからないまま事務費用だけ見積もる必要がある」との声も上がっており、今後の混乱が予想されます。

 東京五輪開催までにワクチンを相当数接種させる一大国家プロジェクトを、なぜ厚労省管轄ではなく担当大臣設置までして河野太郎行革相に任せたのでしょう。現状、厚生労働省はコロナ対策で繁忙な状況が続いており、職員も含め1年近くのコロナ対応で疲弊しています。

 また、菅内閣の支持率は発足以来降下の一途を辿り、「内閣支持率と与党第一党支持率を足した数字が50%を切ったら倒閣ライン」と呼ばれるいわゆる「青木率」にも近づくなど、急激に悪化しています。ワクチン接種プロジェクトが失敗した場合には、即倒閣ラインという危機感も持っているはずです。そのため、もはやコロナ対策でミスが許されない菅総理としては、国民の人気が非常に高く、業務能力も評価されている河野大臣にこのプロジェクトを託すしかなかった、言い換えれば河野大臣に賭けるしかなかった、というのが実情ではないでしょうか。

ワクチン接種が成功すれば総裁選へ弾みも

 仮にこの一大国家プロジェクトに成功し、ワクチン接種を順調に進めることができ、早期に集団免疫を獲得できるようなことがあれば、河野太郎氏の実績として大きく評価されるでしょう。ワクチン接種が順調に進んだ結果、東京五輪の開催が可能になれば、その実績も含めて河野氏の政治的手腕の評価は急上昇することが考えられます。今年9月末で任期満了となる自民党総裁選への出馬意欲を隠さない河野氏にとっては、菅総理から託された挑戦とはいえ、二度とない自身の「アピールの場」となるでしょう。

 一方、ワクチン接種のプロジェクトが失敗した場合には、国民からの不満の声を一手に引き受ける役となるでしょう。すでに新型コロナウイルス感染症の対策については、田村憲久厚生労働大臣と西村康稔担当大臣が表に立っていますが、職務分掌と責任の線引きについても課題になる可能性があります。発信力には定評のある河野氏ですが、過去には記者会見で記者の質問に答えなかったりするなどの一面も報じられたことがありました。いくつかの課題はあるものの、現状では河野氏にしかこの国家プロジェクトは任せられないというのが実情でしょう。今回はワクチン接種という国民ひとりひとりにとっての課題であることからも、丁寧な情報発信が大きな課題となることが想定されます。この一大プロジェクトを持ち前の能力を発揮して乗り切れるかどうかが、河野氏の政治生命にとって大きな分かれ道となるでしょう。