Yahoo!ニュース

石垣のりこ参院議員「体を壊す癖」発言、炎上を巡る感覚の違いと自浄への期待

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

突如twitterトレンド入りした「石垣のりこ」

 昨日は、突然の安倍首相辞任会見で、永田町をはじめ政界は大騒ぎになりました。ネット界隈でも当然この話題で持ちきりだったのですが、twitterトレンドには一連の流れとは別に「石垣のりこ」参議院議員がランクインしたことも注目を集めました。ただ残念ながら、このトレンド入りは決して歓迎できる内容ではなく、安倍首相辞任会見を受けた石垣議員のツイートが炎上したことによるものです。まずは当該ツイートを引用します。

 立憲民主党所属の石垣のりこ参院議員から「体を壊す癖」という病気を揶揄する発言自体が出てきたことに筆者も驚きを覚えたのですが、この発言がツイッターで炎上する過程で最も印象的だったのは、党執行部や党所属国会議員の対応が遅れ、党所属地方議員からの指摘が先だったと言うことです。党執行部や党所属国会議員に先んじて、石垣参院議員の発言に苦言を呈したのは、同じ立憲民主党所属の治田学渋谷区議会議員、藪原太郎武蔵野市議会議員でした。

時間軸を簡単にまとめると、以下の通りです。

  • 15:53 石垣参院議員が問題のツイートを発信。
  • 16:16 石垣参院議員が、一般の方の指摘にリプライで返答。
  • 16:25 治田学渋谷区議が、石垣参院議員の問題のツイートにリプライで指摘。
  • 16:52 藪原武蔵野市議が、石垣参院議員の問題のツイートにリプライで指摘。
  • 16:52 中村党岩手県連幹事長が、石垣参院議員の問題のツイートにリプライで指摘。
  • 18:48 twitterで「石垣のりこ」がトレンド入り。
  • 22:21 枝野代表が、お詫びと執行部への対応指示を表明。
  • 22:21 石垣参院議員が、報道機関からの対応文書を表明、謝罪無しでさらに炎上。
  • 23:54 石垣参院議員が、福山幹事長から指摘を受けたことを明らかにし、謝罪。

 これらの時間軸から見えることは、同じ党所属の地方議員が早期に指摘したにもかかわらず、石垣議員の対応が遅れ、結果的にtwitterトレンド入りしたことで更に問題発言が拡散されたことで対応が後手に回ったと言うことです。石垣のりこ氏は参議院議員ですから、地方議員から指示を受ける立場にはないでしょうが、それでも早期に発言の問題性を指摘した議員のリプライを無碍にしたことで、この不適切発言問題の早期解決というチャンスを逃したことは否定できません。

SNSの特性を理解していない最悪な対応

 筆者は選挙コンサルタントとして、普段から議員や候補者、候補予定者に対して情報発信の手法や効果についてコンサルティングを提供しています。その中でよくお話をするのは、「発信することはゴールではない。ただどう発信するかという1手詰め将棋ではなく、自らの発信を受けた受け手がどう思うか受け手の立場になって考えて、さらに考え得る反応に対してその次にどういう対応をすべきかを3手詰め将棋のように考えてから、発信しよう」ということです。政治家が一般的に使うビラやはがきといった従来型の広報物と違い、twitterやFacebookといったSNSは、情報の伝播が早く、本人の思った以上に拡散されることがままあります。ビラやはがきは目的の人だけに届けることで、意図した人だけが読むものですが、SNSはひとたび「投稿」ボタンを押したら最後、(投稿者にとって)想定していない人が読み、想定しない反応がされ、想定しない解釈をされて炎上をする可能性があることを心に留めなければなりません。ここで述べてきたことは政治家だけに言えることだけではなく、企業公式アカウントなどのマーケティングでも言われていることであり、SNSを業務的に活用している人であれば、ITリテラシーの一部として基本中の基本とも言えるような内容のレベルです。

 しかし、石垣議員の問題の発言や一連の対応ツイートは、まさにこのSNSの特性を理解していない「残念な対応」の例だったと言えるでしょう。党代表や執行部から指摘を受けるまで自身の主張を続けたこと、執行部の対応や最終的なお詫びの表明が深夜の時間帯にわたったことから、twitterユーザーの多くは最終的な党(ないしは石垣議員)の対応を知らないままで一日を終えた可能性が高いです。そうすると、翌朝に枝野代表のお詫びや石垣議員の謝罪ツイートを見つけたところで、いくら石垣議員が謝罪を深夜帯にしたとはいえ、受け手からすれば時間経過としては一晩経っているわけですから、「余りに対応が遅い」という強い印象を持つことになります。この問題のツイートから、本人の謝罪までは(上記の時間軸から単純に計算すると)8時間かかったわけですが、この「8時間で謝罪」を受け手の立場から素早い対応ととるか、遅い対応ととるか。情報発信は受け手の立場で物事をみなければならないわけですから、ここが石垣議員と周囲の感覚の違いであり、今に至るまで炎上してしまっている背景だと筆者は考えています。

SNSの特性を理解している議員から学習するべし

 一方、問題のツイートから1時間以内に、同じ党所属の地方議員からリプライで指摘が入るなど、党内にもこの発言が問題だという認識を持つ政治家は複数いたことにも注目をしています。治田区議、藪原市議はいずれも普段からツイッターを活用している議員であり、地方議員は(2人に限らず)自分自身でtwitterの投稿をしていることから、こういったセンシティブな問題に対する感覚・嗅覚は人一倍に敏感でしょう。仮に治田渋谷区議、藪原武蔵野市議の指摘を受けて、石垣議員が問題の発言を謝罪したり削除していれば、ここまで大きな問題にはならなかったはずです。実際、治田区議、藪原市議の指摘ツイートには多くの「リツイート」「いいね」がついていたことからも、問題発言を憂慮する人が多かったことがうかがえます。(藪原議員の指摘ツイートは、石垣議員の問題ツイートよりも多くの「いいね」がついていたことに、支持者の良心を感じることができたのが救いだったと感じました

 筆者が言いたいのは、問題発言をしかねない国会議員はSNSで発信をすべきではないと言いたいわけではなく、むしろ現代社会においてSNSを活用した情報発信は公人である議員にとってもはや必須であるからこそ、普段からSNSを活用している地方議員からでもこういった発言問題の本質やSNSの特性、炎上時の対策などについてきちんと学ぶことが必要だということです。政党同士の戦いである参議院都道府県選挙区と違い、地方議員の多くは政党の公認推薦を受けていても、結局は個人単位の政治活動・選挙運動が集票に直結することから、自身の発言や対応の感覚は、時に国会議員より優れています。今回の石垣議員の発言のように、ネット上での不適切発言について、数時間経過した後での対応となったのは、まるで対応方法がわからずに逃げてしまった印象すら受け、現代情報化社会においては政治生命に直結するほどの対応の遅さと言わざるを得ません。今後も同様の問題が起きないようにするためにも、日常的にSNSを活用している議員とのITリテラシーに関する勉強会や研修を、議員の種別や現職新人、当選回数を問わない形で早期に行うべきでしょう。

 立憲民主党は9月16日の合流新党結党に向けて、個々の議員が支援者に状況の説明をしたり、来たる選挙に向けての準備を進めるなど、まさに緊張の状態が続いています。野党の結集という大きな大きなイベントに向けて、党所属議員がそれぞれの立場で苦労する中での今回の石垣議員の発言とその後の対応は大変残念なものでした。繰り返しになりますが、二度とこのような問題発言が出てこないよう、SNSに知見を持った議員や専門家による問題の総括と再発防止を急ぐべきです。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

大濱崎卓真の最近の記事