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かこさとしさんの絵本 『たねからめがでて』に思う

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

 絵本作家のかこさとしさんが亡くなられました。こどもたちにとても素敵な絵本をたくさんプレゼントした92年の生涯でした。各紙とも大きく取り上げています。代表作として共通してあげているのは「からすのパンやさん」「だるまちゃんとてんぐちゃん」です。しかしぼくにとっての代表作は、科学者でもあるかこさとしさんの「かがくの本」のひとつである「たねからめがでて」です。この本を読んで種好きになったこどもたちが大勢います。

 埼玉県西部の山間地に位置する秩父に住んで、仲間と秩父雑穀自由学校(コーディネーター西沢江美子)をやっています。アワ、キビ、ヒエ、タカキビ、秩父の山間地の在来大豆、それに埼玉県にかつてあった農水省鴻巣試験場が戦前育種したパン用小麦の鴻巣25号などを2年3作の輪作で栽培しています。種を播き、草を取り、収穫し、種を採り、その種を翌年播く、という繰り返しを10年ほども続けています。雑穀―ダイズ―ムギの2年3作の輪作体系も、その繰り返しの中で行き着いた農法です。

 もちろん、その合間にはジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ネギ、カボチャ、スイカなども植えます。種を採り、その種を播くたびに「たねからめがでて」という言葉がふっと頭に浮かびます。参加者の中にも、この絵本で育ったという人が何人もいます。種はみんなのもの、かこさんの絵本はそのことを静かに物語っています。

童心社、1988年 かこ さとし【著】/若山 憲【絵】

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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