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元阪神・福永春吾投手の心をとらえる“ラテンベースボール”

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
※ことしメキシカンリーグで再会した元阪神のナバーロ選手(左)と福永投手(右)。

 2020年まで阪神タイガースに在籍した福永春吾投手(28)は、昨年から古巣の四国アイランドリーグplus・徳島インディゴソックスに所属し、海外でのプレーを目指していました。その2021年シーズンの5月に台湾プロ野球からオファーがあったものの、新型コロナウイルスの感染拡大により断念。

 さらに、いったん契約していたチームがあったけれど、昨年末のMLBロックアウトでGMも解雇されたため、白紙になってしまったそうで…。でも同じく昨年12月にメキシコのチームがキャンプに呼んでくれることになったと言います。

 この話をまとめたのは、徳島インディゴソックスの関係者から紹介してもらったエージェント。その方はドミニカ人ですが日本にも長く住んでいて、奥さんは日本人だとか。まさに適任ですね!

 チームは、メキシカンリーグの北地区にあるドゥランゴ・ジェネラルズで、福永投手はまず3月のキャンプに招待選手として参加し、それから契約という流れでした。ただ、そのキャンプへ合流するのがなかなか大変だったようで…。のちほど詳しくご紹介します。

 その前にメキシカンリーグについて、簡単に書いておきましょう。

メキシカンリーグとは

 元レッドソックスで、ちょうど2日前に古巣のENEOS復帰が発表された田澤純一投手が、同じドゥランゴ・ジェネラルズと契約して試合に投げたというニュースはご覧になったでしょう。福永投手とも時期が重なっていました。

 他にも、元DeNAの乙坂智外野手がレオン・ブラボーズ(南地区)で、元中日の小川龍也投手はモンテレイ・サルタンズ(北地区)でプレー。元ヤクルトのバレンティン選手がサルティーヨ・サラペメーカーズ(北地区)にいたそうですね。既にリーグが終了しているのと、途中で契約を解除になった選手もいるので過去形で書いています。

 以下は福永投手の説明によるものですが、メキシカンリーグは3月末にキャンプインして、シーズンは4月末から8月(今季は7日)まで。試合数は新型コロナの影響もあって昨年が60試合、ことしは90試合と徐々に戻していき、来年は110試合で9月末まで行われる予定だそうです。

 全部で18チームあり、北地区が9チーム、南地区が9チーム。2地区の勝敗は別々ですけど、両方の地区と試合はあります。「日本の独立リーグみたいなチームもあれば、メジャー落ちした選手ばかり集めたチームもあって、本当に差がすごい」というのが福永投手の感想でした。

※5月6日の試合で投げているところ。
※5月6日の試合で投げているところ。

すったもんだの出発劇

 では、大騒ぎだったキャンプまでの出来事を聞きましょう。3月下旬に突然出発したそうで驚きましたが、いつ頃にというのはあったんですよね?

 「はい、それはありました。もともとは2月中に入ってくれと言われていて、でも何の連絡もなく。そのあと3月10日らしい。また何も連絡がない。5日後らしいで。何もない。じゃあ、ないやん!と思ったところで、あしたと言われたんです」。あ、あした!?

 「ESTA(エスタ=アメリカに入国する条件を満たしているかどうかを確認するための電子渡航認証)だけ申請しといてと言われて、やっておいた。だからいつでも出国できる状態だったのに連絡がなく、ある日電話がかかってきて『早く来いと言っているから、あしたのフライトを取った。午前11時に成田を発つ』と。えっ!あすの11時って。今はもう昼ですけど…」

 「とりあえず成田へ向かう途中、新橋でPCR検査を受けろと言われた。でも新橋に着いた時はもう間に合わず。ホテルで1時から4時間だけ寝て、翌朝6時に成田で追加料金を払って2時間で結果が出る検査を受けました」

 なぜそんなに急なんですか?メキシコあるある?「行ってみたらわかることなんですよね。何かお願いしたら『わかった』と言ってくれるけど、すぐじゃない。お願いしている身で“まだか?”と急かすのは恐縮だからと思い、待っていても連絡が来ない。それで聞いてみたら『あ、忘れてた』です」

 うわあ、大変。日本人の気質とは真逆ですねえ。「メキシコ人にものを頼む時は、ひたすら言い続けるか、目の前でやってもらうべき!」と力説した福永投手。こちらの立場では…なんて気を使ったり、遠慮している場合じゃありません。勉強になりました。

これは昨年2月1日、徳島のキャンプ初日(鳴門)。
これは昨年2月1日、徳島のキャンプ初日(鳴門)。

入国審査もひと苦労

 でも本当に1人でよく行ったと思います。怖い思いをしたりしなかった?「いや~メッチャ怖かったですよ。まず1人で入国審査を通過できるのかどうか。一度アメリカに入ったんですけど、乗り継ぎでどこへ行けばいいのかもわからなくて」

 福永投手にとって初海外ではありませんが、やはり入国審査は緊張しますよね。こちらの言葉に合わせて聞いてくれたらいいのに。

 「前の人が長くて、えっ、そんないっぱい聞かれるん?と焦って。久々の英語やし(笑)。とりあえず『きょうメキシコへ行く!今からメキシコへ行く!』と繰り返してクリアしました。時差と疲れで機内は爆睡。で、起きたら目の前に入国審査用の紙が置いてあって、全部スペイン語!」

 うわっ、さらなる難関。「着いたらまた新しい紙を渡されて、もうわけがわからず…。一か八かで入国審査場へ突入したら書いてくれました。それにジャージ姿で野球っぽい荷物を持っていたので“これ”と見せたらオッケーでした(笑)」

 よく乗り越えましたね。「不安しかなかったです」。いやいや、度胸ありますよ。

2018年5月22日、ウエスタン・オリックス戦(鳴尾浜)で完封勝利を挙げ、ヒーロースピーチ。「マウンドで スピード違反 罪はなし」
2018年5月22日、ウエスタン・オリックス戦(鳴尾浜)で完封勝利を挙げ、ヒーロースピーチ。「マウンドで スピード違反 罪はなし」

シーズン途中の帰国

 無事にメキシコへ着き、空港には迎えの人が来てくれていたらしく、そこからはスムーズにホームタウンへ。そしてキャンプに合流しました。でも、ここから別の意味で厳しい現実を目の当たりにします。

 「キャンプが始まって、最初は投手30人と野手30人くらい参加していたけど、そのメンバーが日に日に減っていくんです。全員を把握していたわけではないものの、きのう見た顔が今朝はいないとか…。最後まで残ったのは投手と野手を合わせて30人くらいでした」

 福永投手いわく「1か月契約、1日でクビにも」とのこと。そのキャンプを完走し、正式契約に至った福永投手。開幕後は公式戦登板も果たしました。しかし、シーズン途中の6月に帰国しています。

 「試合中、投げている時に右ひざの痛みが出たんです。翌朝に歩けないほどだったので病院へ行ったものの、その次の日にはもう走れてキャッチボールもできた。ただ病院でじん帯が損傷しているかもしれないと言われて、どうしようかと」

 メキシコに残ったままということも考えた?「可能でしたけど、正確な診断もないし、シーズンもあと1か月ちょっとで終わるところで治療とリハビリの過程を踏んだら、すぐ閉幕するわけで。そう思って帰ってきたんです」

 右ひざのケガですが、帰国後に改めて検査を受けたところ、じん帯に炎症はあったものの大事に至らず、ひと安心。6月末にはもう動いていて、今も徳島を拠点に練習中です。8月10日に連絡をした際は「きょうからプルペンにも入って、投げていますよ」と言っていました。

 それは再び、海外でのウインターリーグに参加するためです。福永投手が6月に話していた「10月か11月に現地へ入るには、8月初めから動けたらいい」という、まさに思った通りになったわけですね。

昨年2月25日、練習試合に登板する徳島・福永投手。
昨年2月25日、練習試合に登板する徳島・福永投手。

来季を見据えて

 ちなみに「ケガをしていなくても、いったん帰ってくるつもりでした。メキシコが8月7日に終わってから、8月末まで契約可能だった台湾へ行くことを考えて。しかも台湾から話も来ていたんで。ケガでなくなっちゃいましたけど」とのこと。“ハシゴ”する気だったとは…。

 加えて「ドミニカでウインターリーグを3か月やって、またメキシコというのがいいかなと思います」と来季に向けての計画も。ドゥランゴから来年また契約できるという意思表示もあったようです。「個人的に、夏はメキシコの野球を経験して次はドミニカで、また新しいプロ野球を経験したい」

 そこには「ことし、めっちゃスピードが出ていたので」という、自身にとって嬉しい効果も影響しているのでしょう。「真っすぐは96マイルだから154キロ台、ツーシームが150ぐらい、スプリットも145、中盤から後半くらい出ていた」と言います。

 阪神退団後、徳島で投げていたパワーカーブは?「日本にいる時はよかったけど、向こうでは全部滑ってしまって使えない(笑)」。あー、なるほど。気候の違いですね。

 「逆に、自分の真っすぐとスプリットとスライダーと、向こうで球団社長に『ツーシームを投げろ』と言われて、契約してもらっている身だから『はい』と言って投げ始めたツーシームが平均150中盤くらい出ていたから」

2018年10月24日、みやざきフェニックス・リーグのヤクルト戦(西都)で先発。7回を投げました。
2018年10月24日、みやざきフェニックス・リーグのヤクルト戦(西都)で先発。7回を投げました。

変化球の“変化”

 さて、福永投手がメキシコで経験した多くの「」や「」を、ここでまとめてご紹介しましょう。日本では考えもしないことが起きるメキシコ。まず「ホームタウンは標高1800メートルのところにあって、ビジター球場の最高は2400メートルもあります。知らなくてランニングしていたら全然走れません!」と言っていました。

 確かに、陸上選手などの高地トレーニングが1500~3000メートルの場所で行われるくらいだから、かなり酸素は薄いはずです。

 「ちなみに空気抵抗がない分、変化球は曲がりにくいです。普段より滑るし。逆に標高の低いところの球場へ行ったら、今度は湿度が上がってメチャクチャ曲がる(笑)」。へえ~そうなんですね。投げていて驚くというか、ちょっと新鮮かも。

 「それからは標高と湿度を調べるようになりました。バッターも、同じボールなのに飛ぶ、飛ばないがあります」と福永投手。なるほど、それを知って投げると生かせる、知らないと損しますね。

国内の時差にビックリ

 メキシカンリーグはNPBと同じく火曜から日曜まで週6試合が行われ、すべてナイター開催。その中で火曜と水曜はテレビ中継の都合なのか、早く終わらせるため7イニング制だそうです。この曜日に先発すると、5イニングじゃなくて4イニングで勝ち投手の権利が発するとか。

 そして開始が19時か19時半と遅めなのに、試合時間が平均3時間半か4時間と長いみたいで、その理由は福永投手いわく「めちゃくちゃ打ち合うから」。これについては、またのちほど出てきますので、お待ちください。そんなわけで、試合が日付をまたぐこともしばしば。

 「ある木曜日、0時に試合が終わってホテルに帰って、ご飯を食べて午前1時。その2時間後の3時に集合して朝6時の飛行機で移動するはずだったんですけど、その便が1時間半遅れて朝7時半に出発しました。それで遠征先の空港に着いたら朝7時」

 えっ、なんで?「でしょ?えっ、なんで!ですよね。同じメキシコ国内で2時間の時差があったんです。びっくりしました」。

給料は現金の手渡し

 「給料は2週間に一度です。みんな即使ってしまって1か月持たないから、という理由。すぐビールにつぎ込んでしまうらしいですよ」。貯金する習慣がない?「というか、それが普通だと思っていますね」。メキシコ人の感覚は、その日楽しければいいという文化でしょうか。

 なお外国人選手のみ現金の手渡しで、他は振り込みだとか。現金で、しかも手渡しって今どき珍しいですねえ。「それも20ドル紙幣の束をドサッとですよ!2週間に一度のイベント(笑)」。うわ~分厚いだろうなあ。封筒が立つ?昔の映画みたい。

 「それが試合前に渡されるんですよ。さすがに試合中、ロッカーに置いておくのは不安なので試合後に変えてもらいました」。賢明な判断です。

ルーキーイヤーの2017年2月1日、安芸キャンプ初日。
ルーキーイヤーの2017年2月1日、安芸キャンプ初日。

ドンチャン騒ぎのバス移動

 北地区と南地区の勝敗は別々ですが両方と試合を行うので、移動距離も相当あります。所要時間が10時間を超える場合は飛行機で、それ以外はバスだそうです。月曜日の昼2時に出発して、夜10時に着くという感じ。移動日は試合がなく移動のみ、といっても相当な時間ですから疲れますね。

 「バスは日本の高速バスみたいなトイレ付きで、これが常に2台。違いがわからなかったので、何気なく空いている方に乗ったら…」と、ここで福永投手の目がキラリンと光りました。日本みたいに禁煙車と喫煙車って分け方じゃないのかな?

 「まず通路にクーラーボックスが置いてあって、そこに途中のコンビニで買った氷とビールを山のように詰め、みんなで立って飲みながら音楽を流しているんです。中にはスピーカー持参の選手もいるくらい。大音量のドンチャン騒ぎ!さすがメキシカンでしょ(笑)。とにかくすごい!」

 「僕はそのバスにいつも乗っていたから気づかなかったというか、どっちも同じだと思っていたんですけど、ある日たまたま別のバスに乗ったら、これがなんと!誰ひとりしゃべらないメチャクチャ静かなバスでした。メキシカンでも騒がない人はいますね」

 その違い、予想外でした。最初に教えてほしいですよね。静と動で分けたバスだとは。

※これは4月22日のメキシコ。チームの助っ人(メキシコ人以外)で食事に行った時のもの。ベネズエラ人、アメリカ人、日本人だそうです。
※これは4月22日のメキシコ。チームの助っ人(メキシコ人以外)で食事に行った時のもの。ベネズエラ人、アメリカ人、日本人だそうです。

ロッカーでも大騒ぎ!

 「あとは試合中でも、投げ終わってロッカーに戻ったピッチャーはモニターで経過を見ながらビールを飲んでいるし。試合に勝ったらロッカーで大騒ぎ!サヨナラ勝ちなんかしようもんなら、テキーラの大きな瓶が回ってきますよ」

 へえ~!それはすごい。「試合前のロッカーでもまた…」。え、試合前も騒ぐ?「日本やったら、みんなスマホを持ったりイヤホンしたり、アイマスクつけて寝たりとかですが、メキシコはでっかい箱みたいなスピーカーにBluetoothつなげて、重低音でドンドン鳴らしながら、みんな普通に過ごしているんですよ」

 重低音!普通に過ごす(笑)。「で、VRつけてボクシングをやっている選手がいると思ったら、そこまで広くないロッカーの中で電動キックボードに乗ってる選手も!それでトイレに行く。果ては電動スクーターで走ったり。メッチャ面白いですよ」

 「だから普通の会話は無理ですね。そのテンションに合わせないとついていけないので。ずっとそんな感じですけど、静かにしている人もいます。騒いでいる人は騒いでるけど、それに怒ったりはしない。野球だけじゃなくて、一般企業でも同じらしい」

 福永投手はしんどくなかった?「いや、しんどかったですよ。最初はわからなくて。毎日そんなんでは、たまらないでしょう?うるさいし。でも、ある日突然受け入れました。これがメキシコなら楽しもうと」

 そのスイッチはどこで入ったんですか?「わからない(笑)。多分もう、言ってもどうにもならないと思ったので」。ノリが悪いぞ~と言われたりしない?「しますよ。グラウンドでは常に絡まれます。この音楽に合わせて踊れ!って(笑)」。それで?「踊りました」。ま、福永投手は乗れる人ですから。

※同じく4月22日、食事会の集合写真。これも2人を除いて、みんな“外国人”選手で、福永投手は後列左から2人目です。
※同じく4月22日、食事会の集合写真。これも2人を除いて、みんな“外国人”選手で、福永投手は後列左から2人目です。

ユニホームは先発投手が決める

 とても派手なユニホームだけど、ホーム用とビジター用の2種類?「いえホーム、ビジターの設定はないです。あ、ズボンは白がホームで、グレーがビジターに分かれていて、それは共通。上着とソックスだけ変わります。上着は白、青、緑、黄、黒と全部で5色もあるんです」

 どういうローテーション?「実は、その日の先発投手がユニホームを決めるんです!だから試合前に、みんなが聞きに来る。『きょうは何色?』って。で、たとえば『ブランコ(白)』って答える。ちなみに練習はジャージと半パンです」

 へえ~それは面白い。「だから相手チームとかぶることもあります。そのへんは気にしなさそうですね。気にしないといえば、ボタンはついているのにボタンホールがないとか、そんなことも多々(笑)」。なるほどね。おおらかだわ。

※4月13日の試合。紺?いや黒の上着ですかね。
※4月13日の試合。紺?いや黒の上着ですかね。

タクシーを確保できて安心

 「僕は外国人なのでホテル暮らしなんですけど、シーズンが始まったらみんなアパートに引っ越していって、ホテルに残っているのは僕1人になります。それで、球場へは自分で勝手に行けと。タクシーチケットがあるわけじゃないし」。遠征の時はバスがホテル経由で行ってくれるけど、ホームは自力ですか。

 「5キロくらいの距離で、タクシー代が安くて300円ほどだったからいいものの、自分で捕まえなくちゃいけない。流しのタクシーは危ないからやめろと言われても、外にいたらスマホのWi-Fiが使えないので、ネットで呼ぶことも不可能。しぶしぶ球場にいた流しのタクシーを捕まえて帰ったんです」

 「そのドライバーさんに、もうメチャクチャしゃべりかけて。いい人だなと感じたので、さらに話しかけて(笑)、それで電話番号を交換してもらいました。『俺は毎日球場へ行く。絶対に呼ぶから必ず迎えに来てくれ!』って契約したんです」。け、契約?よく通じたこと。

 「彼の知っている選手がチームにいると、乗って最初に聞いたから必死にしゃべりかけたんですよ。それが全部ドミニカ人で、運んだことあるというような話をしていた気がしたから、俺も番号を教えてくれって」

 「複雑な会話は要らなくて、電話番号を交換して!さえ言ったら、あとはホテルの部屋に帰って翻訳機能を使えば自分の意思を伝えられるじゃないですか。だから一生懸命、番号を教えてくれ、教えてくれと言いました。すぐに教えてくれてよかったです」。珍しい形態のナンパ?(笑)

 「それと『絶対に呼ぶから“定額”にしてくれ』と言ったら、そうしてくれました。よかった。いい人で」。本当に、いい人で何よりでした。しっかり値段交渉もしたなんて、なかなかやりますね。どこに行っても安心です。

※オフの写真も貰いました。昔のメキシコの街を再現した観光地だとか。映画村みたいな感じ?
※オフの写真も貰いました。昔のメキシコの街を再現した観光地だとか。映画村みたいな感じ?

話題は「オオタニサン」より…

 チームメイトに何か聞かれることはあった?「みんなお辞儀してくれます。手を合わせて(笑)」。定番ですね。「日本が好きなメキシコ人は多いですよ。『俺、東京へ行きたいんだ』とか、日本のアニメが好きで『このアニメ知ってる』とか」。アニメは人気ありますもんね。

大谷翔平選手のことが話題になったりする?「いや、それより佐々木朗希!メッチャ聞かれました。パーフェクトをしたあたりからですね。佐々木朗希って何者や?と」。あー、ちょうどその時期でしたからね。

 どんな質問をされたのか尋ねると、質疑応答の形で教えてくれた福永投手。「いくつ?20歳くらいやで。球速は?160キロ超えてる。これでもう『ええっ!?』って。それで、ちなみにキャッチャーは18歳やでと言ったら、もっとビックリしていました。なんだ、それは!って(笑)。YouTubeで見たんだと思います。あの時はすごかった」

ここで唐突に阪神時代に戻ります。2019年8月4日、ウエスタン・広島戦(姫路)。抑えで投げていた頃ですね。
ここで唐突に阪神時代に戻ります。2019年8月4日、ウエスタン・広島戦(姫路)。抑えで投げていた頃ですね。

求めた野球が、そこにあった

 日本では「ここで打たれたら落とされる」と思いながら投げていた、という話を以前聞いたことがありました。1回目の1軍昇格即先発の試合がそうだったから、2回目もそう思いますよね。

 「常に状況整理しつつ、ここで1本打たれたら落ちるやろな~とか、そういうのを考えていた。どこか野球の真剣勝負でなく自分との闘いになってしまって。ファームは正直それがなくて、自分の中で抑えて当たり前みたいな部分があったので、ピンチだろうと何だろうとアウトを取れるからいいと」

 「でも上に行って、マウンドに立ってランナーを背負ったら…思ってしまうんですよ。これ、帰ったら多分もうファームへ落ちるな~って。ファームで今、すごく調子のいいピッチャーがいるから、今ここで打たれたら交代だよなって」

 「だから純粋な野球ができなかったけど、メキシコへ行ったら、言葉もわからない、何もないところからスタートしているので楽しかった。小学校で野球をやり始めた時のように、毎日楽しかった!」

 そこまで遡るほど?「そう!中学校ぐらいからは試合に勝つとか、高校だと甲子園とか、独立リーグでは「絶対にことしプロへ行かなあかん」とか。何かに縛られていたのが、久々にこうパーン!となって(笑)」

 「毎試合、楽しい。上がりの日でも、帰らずにベンチで試合を見るんです。声を出しながら。それも楽しい。投げていても楽しい。相手のことも知らないし。データも必要ないから」

 データもない?「パターンがあるんですよ、メキシコの。インコースを投げていって最後は外の変化球で勝負するのと、高めを投げていって低めの変化球っていう2パターンぐらいを言われていて、だいたいどっちかで」

 「日本人独特のきれいな真っすぐは、標高が高いから空気抵抗がなくて余計に吹き上がっているらしい。自分ではわからないですよ、投げていて。でも最初は、なんか異様に高めを空振りするなあと思いました。目の高さくらいまで振ってくれるんで」

 「もちろんバッターの打ちたい、打ちたいっていう気持ちはあると思うんですけど、振ってくれているから。真っすぐがいい。楽しいです!」。逆に標高の低いところへ行ったら?「今度はメッチャ落ちるから、やっぱり振ってくれる(笑)」。それは楽しいでしょう。

※再びメキシコ、地元を観光した時の写真。チームメイトと一緒に。
※再びメキシコ、地元を観光した時の写真。チームメイトと一緒に。

1試合に3回もビッグイニングが

 「ランナーが一塁の場面で、弱いセカンドゴロや深めのショートゴロになっても、確定のアウトは走らないんです、彼らは。だから絶対ゲッツーになる。日本だと、だいたい打った瞬間に感覚でわかるじゃないですか。このセカンドゴロならゲッツーぎりぎりか、もしかしたらセーフやなと。そう思って一塁を見たら…おらん!走っていない」

 「明らかな左中間の長打とかでも日本ではバーッと走って、何ならオーバーランして(返球を)見るじゃないですか。それもないです。半分くらい歩いているんですよ(笑)。外野手も、クッションボールとかありませんね」

 逆に、そんなところから日本に来てプレーした選手たちは大変だったでしょうね。「そうですよ、ほんと。一塁まで全力で走れ~!って言われてね(笑)」

 盗塁は?「あんまりしないんですよ。だからメキシコ人投手はクイックができない。マイナーリーグを経験しているドミニカやベネズエラや、日本でメッチャうるさく言われている僕とかはランナーが出たらクイックするんですけど、彼らは関係ない。そのまま投げます。牽制もたまにしか。バント?しない。とにかくメチャクチャ打つんです」

 そりゃあ試合も長いはず。「そう、終わらないです(笑)」

 打者はいいでしょうね。「開幕して1か月以上経って、チームに4割打者が3人いましたから。どこのチームにも3人はいますね。そのペースで打ったら、シーズン90試合しかないのに200安打するで、みたいな(笑)。それだけバッティングはいいです」

 つまり打たれているわけですよね?「そう、ピッチャーが打たれているってことですけど。チーム防御率もすごい。毎試合のように2ケタ点取られて。なんかもうラグビーの試合みたいで。両チームが余裕で2ケタ得点していますね」

 「日本でビッグイニングを1回作られたら、もう負けやなって感じがあるじゃないですか。でもメキシコではビッグイニング、3回来ます(笑)」

 そんな中で福永投手は公式戦に5試合投げて、うち先発が1試合。ロングリリーフが3試合で、普通のリリーフが1試合だそうです。「相手チームにアルモンテとか、元広島のペーニャとかいたんです。そんな選手は知っているから面白かった」

 「野球とは当然違うし、ベースボールとも違う。僕が勝手に作った言葉ですけど『ラテンベースボール』だなと。自分ではそう解釈しました。ラテンの野球が味わえて本当に面白い。だから、スペイン圏の野球をもっとやりたいなと思っています」

※これはチームメイトではなく、現地で知り合った日本が大好きな同級生、だそうです。
※これはチームメイトではなく、現地で知り合った日本が大好きな同級生、だそうです。

改めて知る日本の好環境 

「こうやって楽しい、楽しいと言っていますけど、日本のプロ野球ってものすごく環境がいいと改めて感じました。だってファームでも。昼飯とかケータリングとかメチャクチャすごいじゃないですか。向こうはありませんからね」

 お昼ご飯は?「前日に勝利投手になったり、活躍した選手が『きょうは俺のおごりや』ってピザを差し入れてくれることはありますね。またオーナーが何か持ってきてくれたり。あとは自分でお店へ買いに行く。僕は毎食、タコスを買いに行っていました」

 本場のタコスね。「モンテレイってとこは日本人が比較的多い大都市で、昼メシ食べに日本料理屋さんへ行ったりしました。日本人がやっていて、ほんまに日本の味。メキシコ人のお客さんも多いですよ」

 晩ご飯は?「ホテルで食べるか、近くのスーパーで何か買うくらい。あと、試合終わりに球場の売店で買うこともあります。日本だったら絶対にありえないじゃないですか。選手とファンが売店で顔を合わせるって。でもそういう作りなんですよ。ロッカーを出たら普通にファンの人がいる場所。お客さんが帰る道なんで」

 「甲子園球場で例えると、ロッカーを出たら三塁側のアルプスから帰る通路、みたいな?そこに合流するわけですね(笑)。普通に会話しますよ。日本みたいにワーッと集まったりはしない。それに試合前も、お客さんはグラウンドに入れるから、写真いいですか?とか、一緒に撮ってもらえますか?っていうのが普通にあります」

 「メキシコは日本みたいに試合前のシートノックがないので、その時間はみんな自由。後ろのスタンドからファンが『写真撮って』と言うと、その人をグラウンドに呼んで一緒に写真を撮って『ありがとう』って。グラウンドに降りていいんですよ。試合前でも。最初は“うわっ、いいんや!”ってビックリしました」

 子どもたちも野球や野球選手が好きになりますね。「しかも子どもたちが試合中、ボールにサインをちょうだいと言って、ベンチの屋根をころころと転がしてくるんです。ペンも投げて。それを選手全員がみんなで書いて回して、試合中にピュッと渡す」

 日本のお客さんも観に来られる?「あ、ありました。日本の企業の人が。あとは現地で知り合った人とか。声かけてくれますよ。福永さん、ご飯いきましょうね!みたいな感じで」

※元ヤクルト、ソフトバンクのバレンティン選手(左)と。4月28日、ホームでの試合前です。
※元ヤクルト、ソフトバンクのバレンティン選手(左)と。4月28日、ホームでの試合前です。

バレンティン選手、ナバーロ選手

 写真を見ると、バレンティン選手と一緒に撮ったものもありますね。「バレンティン選手に試合で会って、英語で話しかけにいったら『日本長かったから日本語しゃべれるよ』と言われて。それで『なぜ通訳がいないの?でもあなたスペイン語がすごく上手だね』とほめてもらいました」

 また冒頭に掲載した元阪神のナバーロ選手とのツーショットも。懐かしい!ナバーロ選手は2020年から同じメキシカンリーグのティフアナ・ブルズでプレーしていて、写真はそのティフアナのホームグラウンドで撮ったものだそうです。

 「阪神時代、仲良かったんですよ。ナバーロと。バットや革手袋ももらいました。最初は僕の誕生日に向こうから『きょうバースデーなの?』と聞いてきたので『そうだ』と言ったら通訳を呼んできて『誕生日が一緒!僕たちブラザーだね!』って」

 そんなナバーロと、今度はメキシコの地で会うなんて!お互いに予想していなかったでしょう。縁というのは不思議なものです。

※これは冒頭の写真の全体版。ナバーロ選手がいるティフアナ・ブルズのホーム球場にて。
※これは冒頭の写真の全体版。ナバーロ選手がいるティフアナ・ブルズのホーム球場にて。

必要は上達の母

 ところで、バレンティン選手にほめてもらったスペイン語ですが、かなり上達しましたか?「“○○したい”や“どこ?”など必要最低限のことは話せます。単語で、ですけど(笑)。ランニングの本数と種類を聞かなあかんので、最初はわからないからコーンの色で教えてもらっていました。白3本、黒3本、赤3本って」

 必要に迫られて、ですね。「それで、まず色と数字は覚えたんです。たとえば『ブランコ、トレス』と言われたら『ブランコって何?』『ホワイト』『あ~OK、OK!』って感じです」。色や数字は英語に言い換えてもらえばわかるかも。「それでだんだん慣れてきて、トレーナーの人に『きょう何を走るんですか?』と直接聞けるようになりました」

 英語を話せる人がいるだけでも、ずいぶん助かったでしょう?「はい、助かりました。最初はもう、ずっとくっついていました(笑)」

 ちなみにメキシコで福永投手は「シュンゴ」と呼ばれていたそうです。ただし「シュ」が言いにくいので「チュンゴ」と聞こえるとか。可愛いですね、チュンゴ。

※もう1枚、観光写真。後ろに写っているのは、福永投手が暮らしていた街にある教会です。
※もう1枚、観光写真。後ろに写っているのは、福永投手が暮らしていた街にある教会です。

目指すはカリブチャンピオン

 途中でも書いた通り、痛めた右ひざの状態がよくなって練習に励む福永投手に、新たな“お友だち”ができたみたいです。インディゴソックスにキューバから福永投手と同い年の選手が来ていて「スペイン語でしゃべれる」と喜んでいました。帰国中も忘れずに済みますね。

 会話は成り立っている?「通じています!スペイン語を話せるのが、かなり本格的なスタッフ以外に僕だけだから、ちょっと返したら翻訳アプリを通さずにガッツリ話しかけてくるんです(笑)。いやいや、そんな早口でしゃべられても…」

 きっとペラペラだと思って、安心して話しているんでしょう。「野球やトレーニングのこと、ちょこっとだけですよ。トイレはどこ?とか、ご飯食べた?とかくらいならできるけど」。まあ、それでもスペイン語を継続できてよかったですね。

 そのあと「ウインターリーグ、決まりそうです!コロンビアのチームと話が進んでいるみたいで。まあ海外の契約なので、出国するまでどうなるかわからないですけど」という連絡がありました。はい、それはもうメキシコへ行った際のことを聞いているので納得です。

 「コロンビアのウインターリーグは、今のところ11月10日開幕で、11月5日に入る予定らしいです。キャンプはなく、集合したらすぐ開幕ですね。コロンビアもスペイン語なので、とりあえず引き続き勉強はできます」とのこと。メキシコよりさらに南へ行くかもしれないってことですね。

 「リーグ優勝して『カリビアンシリーズ』に出場し、そこでチャンピオンになれるよう力を貸してほしいと言われた」と福永投手は話しています。

 カリビアンシリーズというのはラテンアメリカの国際野球大会で、それぞれの国や地域で行われたウインターリーグの覇者が出場し、ラテンアメリカの王者を決めるもの。国や地域が変わったり、キューバ革命などで中断したりしながら長い歴史を誇る伝統の大会なんですね。

 これは毎年2月に開催されるので、福永投手は「コロンビアの代表としてシリーズに出て、カリブチャンピオンになれるよう頑張ってきます!」と宣言しました。その前に今度はすったもんだがなく、無事ウインターリーグへ行けるよう祈っていますよ。

 なおウインターリーグのあと、来シーズンに関してはメキシカンリーグの他に、台湾や米マイナーリーグも視野に入れて検討中。いずれにしても、再び海を渡って自身の求める野球を追い求めることは間違いないでしょう。

※白いユニホームもいいですね。4月27日、ベンチ前での1枚。
※白いユニホームもいいですね。4月27日、ベンチ前での1枚。

4か月ぶりの実戦登板へ!

 そんな福永投手の名前が先日、ニュースになっていましたね。プロ野球独立リーグの『ヤマエ久野・九州アジアリーグ』に所属する福岡北九州フェニックスが8月31日、福永投手を獲得したと発表しています。

 この時期に新入団?ウインターリーグは?来季は日本?などなど、いろんな疑問が湧いてしまったものの、落ち着いて聞けば納得の内容です。

 福岡北九州フェニックスの西岡剛監督(選手兼任)とは「阪神時代、キャンプ中は食事に連れていってもらったり、年末年始の自主トレではジムを貸してもらったり、剛さんにはとてもお世話になっていた」という福永投手。今季、メキシコへ行くのも伝えていたそうです。

 その剛さんから連絡が?「はい。僕は今フリー(の立場)で、ウインターリーグへ行く準備中ですと言ったら、その前に試合で投げといた方がいいやろ?公式戦で登板できるし、うちも投手が足りないから助けてほしいという話でした。ガチで優勝争いをしてるみたいで」。お互いの思惑が一致したわけですか。

 福永投手の現状も今後の予定も理解して?「そうですね。今は徳島で練習していて、ブルペンに入って投げることも。バッティングピッチャーもやっているけど、そこまで。あとはゲームに投げるだけ、というところだったんです」。個人練習でゲームはなかなか…。チームにいないと難しいでしょう。

 「今回ウインターリーグへ行ったら事前キャンプもなく、いきなり試合が始まるので、行く前にゲームで投げられたらなあと思っていました。そこに剛さんから『そういうことも見据えて、少しでも実戦登板があった方がいい』と言ってもらえた。しかも公式戦で投げる機会を与えていただいて、本当にありがたいです!」

 背番号は75。徳島時代につけていた99が気に入っていたけど既につけている選手がいて、じゃあ一番若いゾロ目をと思ったら同じく使用中。それで「剛さんが阪神でつけていた7と5にしました。75って、ちょっと助っ人感あるでしょ?(笑)」。助っ人というより、コーチ感があるかも。

 中継ぎや先発で数試合に登板する予定で、その初戦が実はきょう9日14時開始の大分B-リングス戦(北九州市立的場池球場)なんです!ベンチ入りメンバーのところに「福永春吾 75」としっかり書いてありました。

 4か月ぶりの実戦、もしかすると少し緊張していたりしますかね。どこで投げるかわかりませんが、いい手応えを携えてラテンアメリカへ出発してほしいと思います。

2017年3月26日、ウエスタン・中日戦(鳴尾浜)でプロ初勝利を挙げた時の写真。7回無失点でした。
2017年3月26日、ウエスタン・中日戦(鳴尾浜)でプロ初勝利を挙げた時の写真。7回無失点でした。

 <掲載写真の※印は本人提供、他は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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