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フレッシュオールスターこぼれ話『豪雨と、後輩の来訪と、枠を越えた交流』

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
ウエスタン選抜チームの水上監督(右)、小笠原コーチ(中)、掛布コーチ(左)。

7月13日に静岡草薙球場で行われた『フレッシュオールスター2017』は0対0の引き分け。53度目の開催 (他に、セ・リーグ対パ・リーグで戦った年が2度あり) で初めてのスコアレスドローだったとは、私もその時まで知りませんでした。投手はイースタンが9人、ウエスタンが8人出場していて、ソフトバンクの古谷投手のみ2イニングで他は全部1イニングずつ交代したにもかかわらず、2時間10分という試合時間もスピーディですね。ヒットは4本ずつでしたが三振は11個ずつ、つまり両チームで計22三振もあったのに。

これだけ投手陣がアピールしていたので、あとから投げる人たちも「ここで打たれるわけには…」と必死だったかもしれませんね。1軍首脳陣の皆さんも、きっと見て下さったでしょう。後半戦を楽しみにしたいと思います。

そんな、ことしのフレッシュオールスターの結果と、阪神の掛布監督と出場4選手のコメントは、こちらでご覧ください。→<フレッシュ球宴でリフレッシュして後半へ― 阪神タイガースのルーキー4人衆は同い年です!>

それにしても13日だけ、よりによって静岡をピンポイントで襲った雨雲が恨めしい一日でした。まずはその話からです。

雨との戦いを制した草薙球場!

増水した川、ではなくて球場近くの道路です。タクシーの窓から撮りました。
増水した川、ではなくて球場近くの道路です。タクシーの窓から撮りました。

朝8時に突然降り出した大雨は止む気配を見せず、それどころかお昼前からは雷を伴って激しさを増すばかりでした。駅のタクシー乗り場は海みたいになっているし、途中の道路はまるで川。その中をザバザバと車が行き交っている状態です。県総合運動場周辺の道路も冠水していたので、そこより低い球場はさぞかし、と思ったらやはり…。

球場のあちこちで出入り口に溜まった雨水を掻き出したり、放送室は浸水した床をはがして下にある配線を養生したり、記者室の床も水があふれ、スタッフの方が何枚もの雑巾で拭きとってくださっていました。ふと思い出したのですが、昔のナゴヤ球場のような、床上70センチくらいの浸水にならなくて何よりですよねえ。まあそうなったら間違いなく中止、順延だったでしょう。

午後2時頃から少し西の空が明るくなってきたので、そろそろ天気回復?と思ったら、選手たちが練習をしている室内練習場の屋根を叩いて、また大粒の雨が降る始末。グラウンドのシートをはがした後も、そこそこ降ったようです。でもまあ青空が広がる時間もあり、とにかく決行の方向でした。開始を10分遅らせて。これは“目標”で、さすがに無理だろうと思ったら、しっかり12分遅れでプレーボールがかかってビックリ!

床を剥がして対処する球場内の放送室。
床を剥がして対処する球場内の放送室。
隣の記者室も水浸しで、こんな状態。
隣の記者室も水浸しで、こんな状態。

もちろんファウルゾーンに水が浮いていたし、外野もきっとビショビショだったと思われますが、3回終了時にも土を入れて整備。やがて雨が上がると、意外にもスタンド上段は風が吹いて快適でしたね。とにかくずっと雨の心配ばかりで、それがなくなった時には「え、もう9回?」って、そんな試合の印象です。なんせ2時間10分という試合時間だったもので。

ちなみに帰りに球場を出た途端、また雨が!夜遅くまで本降りだったことを付け加えておきます。そして、草薙球場で2013年から3年続けて開催された合同トライアウトが、すべて雨に見舞われていたことも。だからこそ今回は、最後までしっかり試合ができたことと、皆様のご尽力に心から感謝です。ありがとうございました。

後輩たちが目を輝かせる存在に―

試合前練習は当然グラウンドではできないので、少し離れた室内練習場で行われました。まずイースタン・リーグ選抜で、入れ替わってウエスタン・リーグ選抜という順番。球場からはバスに乗って移動します。ウエスタンのバスが着き、降りてきた選手たちが建物の中へ入る時、長坂選手に声をかけた若者たちがいたのです。そちらを見やった長坂選手の顔がパアッと明るくなり、「おお~!」と嬉しそうな反応。

長坂選手の高校時代の後輩。左から倉本くん、須藤くん、島袋くんです。
長坂選手の高校時代の後輩。左から倉本くん、須藤くん、島袋くんです。

その男子3人に聞くと「高校の後輩です」とのことでした。それはそれは。じっくり話をさせていただきましょう。3人とも高崎健康福祉大学高崎高校の野球部出身で、長坂選手の1学年下だったそうです。みんな21歳。写真の並びで紹介しますと、左から倉本玄(くらもとげん)くん、須藤立(すどうたつる)くん、島袋健悟(しまぶくろけんご)くん。

健大高崎が甲子園初出場の夏は「スタンドで応援していた1年生」だった3人ですが、翌年のセンバツではピッチャーの倉本くんが甲子園のマウンドを踏んでいます。もちろん長坂先輩とはバッテリーを組んでいました。長坂選手はどんなキャッチャー?と聞いたら、間髪を入れずに「信頼できるキャッチャーです!」と倉本くん。強気なリードが印象に残っていると言い「すごく面倒見のいい先輩でした」とも。

福永投手(左)と、キー太を挟んで記念撮影中の長坂選手。
福永投手(左)と、キー太を挟んで記念撮影中の長坂選手。

須藤くんと島袋くんは、それぞれ時期が違うものの長坂選手と、寮で同じ部屋になったことがあるそうです。いわゆる部屋子ってことですね。寮ではどんな先輩?「部屋でいつも試合のDVDを見て勉強していた。研究熱心でした」と須藤くん。また3人ともプロに入ってから長坂選手の試合を見たことがなく、これが初観戦だとか。確かにウエスタンのゲームは、ほとんど名古屋から西ですもんね。

でも4月にジャイアンツ球場で、巨人とのファーム交流試合があったのに…と言ったら、島袋くんいわく「それ、前もって知らなかったんですよ。だから見に行けなかった!」と残念がっていました。フレッシュオールスターでは「打席もだけど、長坂さんのリードが見たい」と言っていた3人。2イニングだけだったけど、しっかり見てくれたかな?

こんな後輩たちのために、関東遠征のある1軍へ行くことが一番。ご家族にもそれが何よりの孝行でしょうね。

掛布監督と小笠原監督の『臨時教室』

掛布監督(左)の臨時教室。生徒はオリックス・杉本選手です。
掛布監督(左)の臨時教室。生徒はオリックス・杉本選手です。
阪神の植田選手あたりによくアドバイスしていた、飛行機みたいなジェスチャーも。
阪神の植田選手あたりによくアドバイスしていた、飛行機みたいなジェスチャーも。
中日・小笠原監督(左)には、オリックスの宗選手が入門しました。
中日・小笠原監督(左)には、オリックスの宗選手が入門しました。

ウエスタン・リーグ選抜チームの練習が終盤に差し掛かった頃、ふと見ると“マンツーマン指導中”の阪神・掛布雅之監督と、同じく中日・小笠原道大監督の姿が。どちらもオリックスの選手に打撃指導をしている様子で、掛布監督の相手は2年目・杉本裕太郎外野手(26)、小笠原監督の方は3年目・宗佑磨内野手(21)です。片づけが終わり、引き揚げる寸前まで両監督とも身振り手振りのアドバイスが続きました。

あとで掛布監督に聞くと「教えたというか、彼から『どうですか?』と聞いてきたのでね。見てもらえますかって。そんな大層なことではないよ」と笑っていたものの、室内練習場の中に掛布監督の声が響くくらい熱心な指導ぶり。みんな注目していましたからね。杉本選手は「体を開かないようにするための下半身の使い方を教わりました」と話しています。

また宗選手は「フレッシュオールスターに行ったらバッティングの話を聞いてこいと、来る前に田口監督から言われたので」という経緯を教えてくれました。じゃあ自分から声をかけた?「はい!」。なるほど。時間は限られていたけど、いい勉強だったでしょうね。身についた感じがする?「メッチャやばいです!」。そう答え、満面の笑みでバスの中へ。貴重なひとときだったようです。

2人も表彰されたソフトバンク・水上監督を見る、少し寂しげな掛布監督。来年は!
2人も表彰されたソフトバンク・水上監督を見る、少し寂しげな掛布監督。来年は!

フレッシュオールスターゲームは、前年優勝チームの監督がリーグ監督、2位と3位のチームの監督がコーチを務めます。よってオリックスの田口監督は、参加監督に何かを教わってくるよう宗選手に指令を出したのでしょう。杉本選手は自分の意志だったと思われますが、奇しくも2人揃っての『臨時教室』となったわけです。それを伝え聞いたオリックスの田中ファームマネージャーは、2選手の行動に「いいことですねえ!」と、すごく嬉しそうでした。

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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